第199話:魔王の気合と、乙女な添い寝
「私の時間だぜ! ……って、なんだミラ、ずいぶんと涼しそうな姿だな。よっしゃ、アタシもマネするぜ」
病室のドアを勢いよく開け放ち、四番手の魔王が豪快な足取りで入ってきた。
ミラの薄着姿を見た彼女は、躊躇うことなく自らの上着をバサリと脱ぎ捨てる。現れたのは、サンネと同等かそれ以上かもしれない、豊満で規格外の意味深な自己主張を誇る肌着姿だった。
「早すぎるんだゾ! でも時間なら仕方ないんだゾ……」
ミラは名残惜しそうに獣耳をペタンと寝かせると、白目を剥いて気絶している俺の顔面からようやく退き、渋々といった様子で病室を出て行った。
「おい、おっさん。いつまで気ぃ失ってんだ!」
バチンッ、と強烈な気合の入った平手が、俺の頬に飛んできた。
『痛っ!?』
その物理的な衝撃と、魔王から放たれる圧倒的な覇気により、俺の意識は深い気絶の底から強制的に引きずり上げられた。
目を覚ましたものの、全身の骨と筋肉が悲鳴を上げる物理的な重傷状態は何も変わっていない。むしろ、先ほどの窒息のせいで余計に息も絶え絶えだ。
「仕方ねえな。指一本動かせないなら、大人しく添い寝してやっからよ。アタシの魔力でたっぷりと癒されときな」
魔王はニカッと笑うと、ベッドの毛布をめくり、俺の隣に強引に潜り込んできた。
そして、その豊満な体で俺の体にぴったりとくっつき、腕を絡めて抱きついてきたのだ。
『うおっ、熱いし柔らかい! 魔王も相当なスタイルしてるから、密着されると破壊力がとんでもないんだけどね!なんで魔王も俺に固執してるんだか』
だが、俺が心拍数を跳ね上げていると、抱きついてきた魔王の様子がどうもおかしいことに気がついた。
普段の彼女なら「どうだ、アタシの体は最高だろ」とでも言って豪快に笑い飛ばしそうなものだが、今の彼女は俺の腕に顔を埋めたまま、なんだかモジモジと身をよじらせているのだ。
「……あの、魔王さん? 魔力を分けてくれるのはありがたいんだけど、なんかさっきから落ち着きがないよね」
「う、うるせえ! ……その、なんだ。アタシは今まで、自分より強い男がいなかったから、ずっと独り身だったんだよ。だから、その……こうして男に抱きつくのとか、初めてで……っ。恥ずかしいぜ……っ!」
魔王の顔が、耳の先から首筋まで、茹でダコのように真っ赤に染まっていた。
圧倒的な力を持つがゆえに孤独だった彼女が、初めて自分と同等かそれ以上と認識した相手――つまり俺に対して見せている、完全な「女の子」としての反応だった。
『何事!? あの豪快な魔王が、いきなりウブな乙女になってるんだけど!』
俺が内心で盛大にツッコミを入れたその時、魔王が顔をガバッと上げ、涙目で俺を睨みつけてきた。
「おい、おっさん! 今、アタシのこと『乙女』って思っただろ!」
『えっ、なんで心が読まれてるの!? 顔に出てた!?』
「それは違う! 違うったら違う! アタシは魔王だぞ、乙女なんかじゃないぜ!」
魔王は真っ赤な顔で必死に否定しながら、ポカポカと俺の胸を叩いてくる。もちろん彼女なりに手加減はしているのだろうが、重傷の身にはそれなりに響いた。
「わ、わかった! わかったから叩かないで! 俺が死んじゃうから!」
「ふんっ。わかればいいんだよ、わかれば」
魔王はぷいっとそっぽを向いたが、その腕は俺の体から離れるどころか、さらにギュッと力を込めて抱きついてきた。
結局、魔王は照れ隠しで悪態をつきながらも、俺の隣で大人しく添い寝を続けてくれた。
彼女から流れ込んでくる心地よい魔力と、極上の柔らかさに包まれながら、俺の長い長い超過保護介護の初日は、ようやく穏やかな眠りへと向かっていくのだった。




