第196話:血で血を洗う争奪戦と、サンネの過激な看病
「……さて。旦那様は指一本動かせないのですよね」
エリーゼが、とろけるような甘い笑みを浮かべてベッドに近づいてくる。
「ええ、食事からお着替え、下の世話に至るまで、私たちがつきっきりで介護して差し上げませんと」
サンネが騎士らしからぬ熱を帯びた瞳で、俺の毛布の端を握りしめた。
「任せるんだゾ! アタシがボスの体を隅々まで綺麗に拭いてあげるんだゾ!」
ミラが獣耳をピンと立て、尻尾をちぎれんばかりに振りながら洗面器とタオルを持ってくる。さらにその後ろでは、魔王までもが何やら準備をして待ち構えていた。
「皆で一斉にお世話をすると旦那様がお疲れになりますから、一時間ごとの交代制にしましょう。順番は……じゃんけんですわね」
エリーゼの提案により、俺のベッドの横で、なぜかヒロインたちによる血で血を洗うじゃんけん争奪戦が幕を開けた。
「じゃんけん、ぽんっ」
「勝ちましたわ! 私が一番手ですっ」
見事一番手を勝ち取ったのはサンネだった。彼女は目を輝かせながら、湯気を立てるスープの椀を持って俺の顔を覗き込んでくる。
「さあ、ヘンドリック様。栄養をつけませんと」
「サンネ……気持ちはありがたいんだけど、今は顎の骨も痛くて、まともに噛めないんだけどね……」
「問題ありませんわ。私が柔らかくして差し上げます」
言うが早いか、サンネはスープの具材を自分の口に含み、自ら丁寧に咀嚼し始めた。そして、熱を帯びた顔をそのまま俺の顔へと近づけ、有無を言わさず俺の唇を塞いできたのだ。
『んぐっ!? ちょ、サンネ、いくら噛めないからって口移しは……っ』
俺が抗議する間もなく、柔らかく咀嚼された温かい食事が、彼女の舌の感触と共に口内へと送り込まれてくる。指一本動かせない俺は、されるがままにそれをごくりと飲み込むしかなかった。
「ふふっ、美味しいですか? まだまだありますからね」
恍惚とした表情のサンネによる、過激すぎる口移しの食事が延々と続く。そして、たっぷり栄養を補給された後、当然やってくる生理現象があった。
「あー、サンネ。ごめん、ちょっとトイレに行きたいんだけどね。でも動けないから、おまるか何か……」
「お任せくださいませ」
サンネは一切の躊躇なく毛布をめくり上げると、俺のズボンと下着を一気に引き下げ、下半身を完全に丸出しにした。
『うおおおおっ!? ちょ、丸出し! 丸出しにする必要はないよね!?』
羞恥心で顔から火が出そうになる俺をよそに、サンネは騎士の務めを果たすかのような真剣な眼差しで、俺の粗相の世話を完璧にこなそうとしている。
そこで俺は、ある致命的な事実に気がついてしまった。
前回の魔力枯渇で倒れた時も、ヒロインたちによる手厚すぎる下の世話があったと後から聞かされた。だが、あの時は俺が完全に意識を失っていたから、ある意味で「物理的に仕方のないこと」として、後から無理やり納得することができたのだ。
しかし、今回は違う。俺の意識は最初からバッチリと覚醒しており、悲しいことに触覚も視覚もハッキリと冴え渡っている。
『恥ずかしすぎる……! 指一本動かせない状態で、美女に下半身を丸出しにされてじっと見つめられながら世話をされるとか、どんな拷問だよ! やめてくれえ……っ』
俺は心の中で声にならない絶叫を上げ、必死に天井へと視線を逸らした。
だが、俺のそんな焦りなどどこ吹く風で、サンネは熱を帯びた吐息を漏らし、とろけるような笑顔を向けてくる。
「さあ、ヘンドリック様。何も恥ずかしがることはありませんよ。夫婦になれば、毎日こんなことやあんなことは当たり前になりますからね……きゃっ」
何を想像したのか、サンネは俺の丸出しの下半身を見つめたまま、勝手に顔を真っ赤にして自分の両頬を押さえ、くねくねと身悶えし始めた。
「ずるいですわサンネ! 一番手の特権を振りかざして、夫婦の契りを既成事実化しようだなんてっ」
「抜け駆けはずるいんだゾ! アタシもボスのあんなことやこんなことのお手伝いをするんだゾ!」
サンネの暴走に触発されたエリーゼとミラが、嫉妬と興奮を入り交じらせながら、俺のベッドの周りにわらわらと群がってくる。後ろの方では、魔王までもが鼻血を出しそうな勢いで俺の下半身を凝視していた。
『まただよ! 誰か助けてくれないかな……っ』
傍からこの光景を見れば、四人の美女に囲まれて下半身の世話まで甲斐甲斐しく焼かれるという、世の男性たちが血涙を流して嫉妬する「うらやまけしからん」極楽ハーレム展開だろう。
だが、全身打撲と魔力枯渇で身動きひとつ取れない当の本人にとっては、羞恥心で理性をゴリゴリと削り取られる生き地獄以外の何物でもない。
果たして俺は、このガタガタになった肉体が回復するまでの間、この規格外のヒロインたちの重すぎる愛情という名の暴走に、精神を崩壊させずに耐え切ることができるのだろうか。




