第195話:命懸けの生還と、賑やかなお見舞い客
全身を包み込むような柔らかいベッドの感触と、鼻をくすぐる清潔なシーツの匂いで、俺はゆっくりと重い瞼を開けた。
ひどく霞む視界の中で、見覚えのある天井と、顔馴染みの人物たちの姿が徐々に焦点を結んでいく。
「おお、気がついたかヘンドリック。まったく、お前がここまでボロボロになって担ぎ込まれるとはな」
腕を組んで呆れたように息を吐くのは、この水の都ヘラフテンの冒険者ギルドを束ねるギルドマスターだった。かつて俺にクズパーティーのお守りを押し付けてきた、食えないおっさんだ。
「本当ですよ。あんな可愛い子たちを三人もお世話してあげたのに、ご主人様が先に死にかけちゃダメじゃないですか」
その隣でぷんぷんと頬を膨らませているのは、ギルドの受付嬢だ。路頭に迷っていたエリーゼたちを俺に押し付けた張本人であり、ある意味で俺の今の騒がしい運命を決定づけた元凶でもある。
「ヘンドリック様、ご無事で本当に良かったです……っ。女神様に感謝いたしますわ」
そして、ベッドの脇で祈るように手を組んでいたのは、街の裏手にある孤児院のシスターだった。清楚で美しい彼女の瞳には、安堵の涙が浮かんでいる。
「……みんな、心配かけたみたいだね。でも、なんでここに……」
掠れた声で尋ねると、ギルドマスターが首を振った。
「お前らがおかしな仮面の集団を制圧してくれたと聞いて、急いで駆けつけたんだ。だが、お前もブラムも瀕死の重傷。街の治癒術師やシスターたちも手分けして治療に当たったが……何百人もの住民の怪我を先に治したせいで、どいつもこいつも魔力枯渇を起こしていてな」
「申し訳ありません、ヘンドリック様。今の私どもの低レベルな回復魔法では、貴方様の命を繋ぎ止め、外傷を塞ぐのが精一杯でした」
シスターが申し訳なさそうに頭を下げる。
『なるほど。、全身の骨も筋肉もガタガタで、指一本まともに動かせないんだけどね、死ななかっただけマシだと思うしかないか』
俺は内心でため息をついた。ちなみにブラムは別室に寝かされており、あちらはロッテがつきっきりでかいがいしく世話をしているらしい。
ふと視線を横に向けると、エリーゼ、サンネ、ミラの三人が、シスターの姿を見て何やらヒソヒソと話し合っていた。
「あれ……あの方、たしか昔旦那様を尾行した時にいらっしゃった……」
「ええ、奥様と隠し子だと勘違いして、私たちが血の涙を流した相手ですわね。ただの顧客だと分かって安堵しましたけれど……」
「でも、今は専門職のシスターに治療を任せるしかないんだゾ」
三人はかつての壮絶な勘違いを思い出し、少し気まずそうに視線を逸らしている。
「というわけだ、ヘンドリック。お前は魔力と体力が自然回復するまで、しばらく絶対安静だ。お前ら、こいつの世話は頼んだぞ」
ギルドマスターと受付嬢、そしてシスターは、俺の無事を確認すると足早に部屋を出て行った。住民たちの事後処理で忙しいのだろう。
そして、部屋には動けない俺と、ヒロインたちだけが残された。




