第193話:執念の道連れと、絶体絶命の自爆
「ブラム君! 誰か! ブラム君が!」
ロッテが悲痛な叫び声を上げ、底なしの泥と化した地面に沈みゆくブラムの腕を両手で必死に掴んだ。
だが、見えざる敵の引きずり込む力は強烈だった。ロッテの小柄な体ごと、地中へと引き摺り込もうとする。
「離せ、ロッテ。お前まで巻き込まれる」
「嫌だ。絶対に離さない」
「馬鹿野郎っ」
ブラムは血を吐くような声で叫ぶと、自分を助けようとするロッテの腕を、強引に力任せに振り払った。
ロッテの手からブラムの腕がすり抜けた。その直後、ズボォッという不気味な泥の音と共に、ブラムの姿は消えていた……。
「エリーゼ、後は任せたよ」
「えっ……旦那様」
俺は隣にいたエリーゼに短く言い捨てると、大地に両手をついた。
『急げ。ブラムの剣の腕がどれだけ立とうと、地中ではまったく身動きが取れず対処できない。あのままじゃ土に潰されて死ぬんだけなんだよな……』
俺は土魔法を発動し、以前も行ったことのある荒技――自分自身の肉体を地中へと沈ませる潜行魔法を使い、ブラムを追って深い土の中へと飛び込んだ。
光の届かない、息もできない地中の世界。土の圧力と暗闇の中で、俺は己の魔力を極限まで練り上げた。
通常の土魔法では、泥と化したこの地中を自在に操る敵には追いつけない。だから俺は、ここで新たな土の精霊を使役することを選択した。
『うぐっ……』
新たな精霊とのパスを繋いだ瞬間、俺は思わず内心で呻き声を上げた。
数百人の住民を隔離拘束した時にそれなりの魔力を使っていたとはいえ、俺の魔力値は七千三百を超えている。だが、新たに呼び出したこの精霊は、なんと俺の総魔力量の半分をごっそりと持っていきやがったのだ。
前もそうだったはずだが、今はそんな事を気にしている時間はない。
急激な魔力の枯渇に、目の前がチカチカと点滅し、意識が飛びかける。
『くそっ……だけど、ここで俺が気を失えば、ブラムは絶対に助からない……』
俺は薄れゆく意識を必死に繋ぎ止め、新たに顕現した土の精霊に全てを託した。
地中から響き渡ったのは、やけにハイテンションで性格の荒い、女性タイプの精霊の狂ったような高笑いだった。
『ぎゃはははっ。まかせときな! はぜろおおおお!!! うひょおおお!!!』
どごーーーーん!!!!!
天地を揺るがす轟音と共に、地面が爆発し、地上まで吹き飛んだ。
幸い周囲に誰もいなかったようだが、広範囲の地面がクレーターのようにえぐれ、膨大な土砂が空高く吹き飛ばされた。
女性型の土の精霊の容赦ない爆発魔法は、地中に潜んでいた見えざる敵を、周囲の地面ごと粉砕した。
そしてその爆発の余波で、敵に囚われていたブラムまでもが、ボロ雑巾のように地上へと吹き飛ばされた。ブラムも血だらけだが、これでいい。生きていれば何とかなる。
『ブラム君! 誰かがすぐに回復魔法をかけてくれるだろうからね……』
地中から這き出し、土埃を払いながら、俺は内心で安堵の息を吐いた。
そう思った、まさにその瞬間だった。
ガシッ。
「……え」
不意に、俺の右脚の足首を、何者かの冷たい手が力強く掴んだ。
視線を落とすと、爆発で下半身を吹き飛ばされ、泥と血に塗れた敵の上半身だけが、地面から這い出していた。
「みち……づれ……」
敵の腕に怪力が宿り、俺の体を強引に地中へと引きずり込み始めた。
『嘘だろ、ここで自爆する気か。住民たちを拘束して魔力をかなり使ったうえに、土の精霊に魔力を半分持っていかれたこの状態で、逃げ場を完全に塞いで自爆するつもりだよこれ』
ズボォォッ。俺の体は腰まで地中へ引きずり込まれ、足元の敵の膨張は今にも破裂しそうな限界点に達しようとしていた。




