第190話:限界突破の魔導車
王都を出発した俺たちは、無骨で頑丈な特注の魔導四輪車に乗り込み、土煙を上げながら荒野を爆走していた。
この車には高度な空間拡張の魔法が施されており、外見からは想像もつかないほど車内は広々とした造りになっている。大人が十人乗っても足を伸ばしてくつろげるほどのスペースがあるのだ。
だが、今現在その広大な空間は全く意味をなしていなかった。
俺がこの魔導車の動力源としてエンジンに莫大な魔力を注ぎ続け、ハンドルを握って身動きが取れないのをいいことに、ヒロインたちが俺の周囲数十センチの範囲に密集し、完全に俺をオモチャにしているからだ。
「きゃあっ! だ、旦那様、また大きく揺れますわっ」
悪路の振動に合わせてワザとらしく悲鳴を上げながら、助手席のエリーゼが俺の左腕にぴたりと密着し、すりすりと甘えるように頬を寄せてくる。
「こらエリーゼ、頬をすりすりするんじゃないよ。魔力制御に集中できないんだけどね……」
「いいえ、ヘンドリック様。右側のバランスは私がしっかり取りますわっ」
俺が注意した傍から、今度は反対側からサンネが俺の右腕にがっしりと抱き着いてきた。さらに背後の座席からは、魔王がシート越しに身を乗り出し、俺の背中と首筋にべったりとへばりついてきている。
『なんでこんないいにおいがするんだよ! 頭くらくらするじゃないか!』
俺は内心で盛大に突っ込んだ。女性たちの体温の熱気と、フローラルな香りやら高貴な香水の匂いやらが入り混じった甘い香りが、車内にむせ返るほど充満している。
『サンネと魔王……背中と右腕がどう考えても柔らかすぎて、運転に集中できないんだけど……。なあ、こんなくたびれたおっさんの何がいいんだか。まあこうして好きにさせておけば満足するみたいだから、我慢しておけばいいんだけどね……』
傍からこの光景を見れば、世の男性諸氏から「うらやまけしからん!」と袋叩きにされそうな極楽のハーレム状態だろう。だが、七千三百を超える魔力を惜しげもなく放出し、一歩間違えれば大惨事になる速度で荒野を走破している当の本人からすれば、たまったものではない。
「ボス! 喉が渇いてるなら、これ飲むといいんだゾ!」
「ミラ! 気を利かせて飲ませてくれるのはいいんだけど、水筒が大きすぎて前が全く見えないよ!」
ミラの豊かな胸と巨大な水筒に視界まで塞がれそうになりながら、俺は冷や汗を流して必死に魔導車を走らせた。
そんな俺たちのドタバタ劇を、最後列の座席から安全に眺めていたロッテが、呆れたように呟く。
「ブラム君、すごいねあれ……。あの状況で事故を起こさないなんて、どんな集中力してるのさ」
「ああ、魔力もそうだが、あの師匠の諦めの悪さと忍耐力は本当にすごいぜ」
ブラムも半ば同情するような苦笑いを浮かべて頷いていた。




