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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第184話:密着鑑定の心音と、戦場に咲くアオハル

 広場に横たわる仮面の怪人の残骸。


 その前で魔石の鑑定を行うはずの闇の商人は、先ほどの死体(と思っていた男)からの不意打ちのスキンシップの恐怖から抜け出せず、いまだにイリスの腰にしがみついたままガタガタと震え続けていた。


「……商人殿。いつまで震えているつもりですか。仕事を進めてください」


「む、無理ですぅぅ! あんなトラウマを植え付けられた直後に、冷静な鑑定なんてできるわけがないじゃないですかぁ!」


 涙目で訴える商人に、イリスは小さくため息をついた。


 そして、あろうことか、腰にしがみつく商人の肩を両腕で抱き寄せ、自らの胸元へとギュッと押し付けたのだ。


「ひぐっ!?」


「……深呼吸して、私の音を聞いて落ち着きなさい」


 イリスの胸に顔を埋められる形になった商人が、カッと顔を赤くして完全に硬直する。


 メイド服越しに伝わる体温と、一定のリズムを刻むイリスの心音。


『……いや、それ絶対に落ち着かないよね? 別の意味で心臓バックバクになるやつだよね?』


 俺は心の中で激しくツッコミを入れたが、下手に口を挟むとイリスの白黒の石が飛んできそうなので黙っておくことにした。


「……どうですか。落ち着きましたか」


「お、おおお、落ち着き、ました……っ! やります! やらせていただきますぅ!」


 商人は顔を真っ赤にして湯気を上げながら、半ばパニック状態でイリスから離れ、魔石の残骸の前へとしゃがみ込んだ。


 その後ろにイリスがピタリと寄り添い、商人の背中を支えるように立つ。


「ここくらいしかあなたの役に立つ場面はないのですから、しっかりなさいませ」


 冷たい言葉とは裏腹に、その距離感はどう見ても『介抱』だった。


「は、はいぃっ……! ええと、この魔石の純度と、無理やり刻まれた回路のパターン……それに、この不純物の配合比率……」


 商人は大汗をかきながら、ブツブツと呟きつつ破片を調べ始めた。


 その額から滴る汗を、イリスがどこからともなく取り出した真っ白なハンカチで、スッ、スッと丁寧に拭っていく。


「あ、ありがとうございます……イリス様」


「気にしなくていいのよ。あなたは貴重な情報源なのですから」


『……あれ? 今、口調が少し柔らかくならなかったか?』


 俺が二人の異様な空間に首を傾げていると、少し離れた場所で遊撃隊として待機していたロッテが、隣のブラムの袖をツンツンと引っ張った。


「ねえブラム君。あの二人、妙に距離感近いけど……まさか? まさか、そういうことなのかしら?」


 ロッテが目を輝かせてヒソヒソと耳打ちする。


 だが、戦闘狂のブラムは全く別のことで頭がいっぱいだった。


「え? そうなのか? 単にあのオッサンが役に立たないから、イリスさんが無理やり何とかしようとしてるだけなんじゃないか?」


 ブラムはつまらなそうに剣の柄を蹴り上げながら、不満げに口を尖らせた。


「というか、サンネとミラさんが全部やっちまったから、俺たち遊撃隊、まだ何もしてねえ! 初陣なのに、俺の剣がまだ一回も血を吸ってねえぞ!」


「……そうなのかしら? ブラム君って、たまに本当に残念よね」


 色気より剣気な恋人に、ロッテがジト目を向ける。


 そんな若い二人のやり取りを聞いていた魔王が、ふははっ、と楽しそうに笑いながら会話に乱入してきた。


「がはははっ! いいじゃないか! 戦場に咲く一輪の花、まさに『青春アオハル』だねえ!」


「……魔王、どこでそんな言葉覚えてきたのさ」


 俺が呆れて尋ねると、魔王は得意げに胸を張った。


「アタシは無駄に長生きしてるからな! 昔、王都に迷い込んだ異世界人がそんなことを言っていたのを思い出したんだ! いやあ、他人の色恋沙汰を見るのは酒のつまみに最高だぜ!」


「あの二人、色恋沙汰っていうか……今のところ完全な主従関係のバグにしか見えないけどね」


 俺が苦笑していると、残骸を調べていた商人が、ふう、と大きく息を吐いて立ち上がった。


「……ヘンドリック様。分かりましたよ。この魔石を加工した連中の出所が」


 商人の声に、俺たちは一斉に表情を引き締める。


「この粗悪な魔力回路の刻み方、そして意図的に混ぜられた特定の毒性を持つ不純物。……王都の地下、スラム街のさらに奥深くを根城にしている『黒蠍くろさそり』と呼ばれる違法工房のやり口と完全に一致します」


「黒蠍……」


「ええ。金さえ積まれれば、人体実験すら平気で行う外道どもです。まさか、あんな連中がこれほど大規模に魔石を流通させているとは……」


 商人の顔には、同業者としての嫌悪感がはっきりと浮かんでいた。


「なるほどね。尻尾は掴めたってわけか」


 俺は粉々になった仮面を見下ろし、冷たい怒りを腹の底で燃やした。

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