表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
181/302

第181話:闇の商人の勘違いとイリスの変化

「ひっ……!」


 顔面から地面に突っ込む、と商人がギュッと目を瞑った瞬間。


 スッ、と無音で動いた白黒のメイド服が、商人の体をふわりと受け止めた。


「……足元にご注意ください。あなたは現在、我が陣営における極めて重要な『鑑識眼』なのですから。無駄な負傷でパフォーマンスを落とされるのは困ります」


 イリスだった。


 彼女は商人の腕を掴んで引き寄せるだけでなく、もう片方の手を商人の背中に添え、一切の衝撃を与えずに完璧な姿勢へと立て直させていた。


 ほんの数秒。だが、それは明確な『スキンシップ』だった。


「あ、あ、ありがとうございます、イリス様……っ」


 商人は顔を青ざめさせながら礼を言い、そっとイリスから離れようとした。


 しかし、背中に添えられたイリスの手は、なぜかすぐに離れなかった。それどころか、商人の衣服についた土埃を、パンパンと、やけに丁寧な手つきで払い落としている。


「……衣服の汚れは、精神の乱れに繋がります。プロフェッショナルであるならば、常に身だしなみを完璧に保つべきです」


「は、はい……おっしゃる通りで……」


 淡々と正論を述べるイリスの冷たい瞳に射すくめられ、商人はコクコクと頷くしかない。


 だが、イリスの手が離れ、再び前方の怪人たちへと視線を戻した彼女の横顔を見つめながら、商人の胸の内で、ある重大な疑問が爆発していた。


『……えっ? ちょっと待って……?』


 商人は裏社会のトップとして、数々の修羅場を潜り抜けてきた男だ。


 だからこそ知っている。この白黒のメイドが、どれほど他者に対して冷徹で、物理的な距離を置く人間であるかを。


『この人、王都で狂乱したあのベロンが襲い掛かってきた時でさえ、眉一つ動かさずに石をぶつけて沈めたんだぞ……? 他人に触れることすら嫌がりそうな鉄面皮なのに……なんで今、私をあんなに丁寧に受け止めて……しかも、わざわざ背中の埃まで払ってくれたんだ……?』


 ただの『重要な戦力』だから? いや、それなら首根っこを掴んで引きずり起こせば済む話だ。現に、後方の三人の女たちへの扱いは文字通りゴミを見るような目だったではないか。


『……たまたまだよな? そうだ、たまたま手が触れただけだ……。え? まさかね……?』


 商人は、心臓が変なリズムで跳ねるのを感じながら、チラチラとイリスの横顔を盗み見た。


 一方のイリスは、一切表情を崩さずに前方の敵を監視している。


 ……が、そのメイド服のポケットの中で、先ほど商人の背中を払った手が、ほんの少しだけ、満足げにギュッと握り込まれていたことなど、商人が知る由もなかった。


『……いやいや、気のせいだ! あんな恐ろしいメイドに好意を持たれるなんて、拷問より恐ろしい!』


『……やはり、この男は私が徹底的に管理してお世話して差し上げなくては、すぐにダメになってしまいますね』


 極限の緊張感が漂う戦場の片隅で。


 見事に的外れな怯えを抱く商人と、愛情表現が「徹底管理」に全振りしているイリスの、絶妙にすれ違った両想いの歯車が、静かに回り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ