第172話:魔王の宣言と、チームの分担と
全員が沈黙している中。
魔王が一歩前に出た。
「……なんだお前ら、何をうじうじ考えてるんだ。そんなの、アタシが面倒見てやる!」
全員が固まる。
難しいことなど何も考えていないかのような、豪快すぎる宣言だった。だが、彼女もまた仮面を被らされ、心を壊されかけた者だ。思うところがないはずがない。
魔王がヘンドリックを真っ直ぐに見た。
「……ただし」
一呼吸。
「お前は絶対に死ぬな」
ヘンドリックの内心。
『……魔王さん、そういう人だったんだよね』
『素直じゃないけど、ちゃんと言葉にするんだよね』
『自分も仮面で操られたから、だろうね』
『口には出さないけど』
「……うん。ありがとう」
魔王が顔を背ける。
「礼はいらん」
そして、イリスが静かに一歩前に出る。
「では、あの方々には別動隊での荷物持ちと、食材の下処理を覚えていただきますね」
完璧な笑顔だった。イリスは三人に足りないものを見出し、自身の持つ生存スキルを教え込もうと決意したらしい。だが、その有無を言わさぬ完璧なトーンは、周囲にはただ淡々と「労働力としてこき使う」と宣言しているようにしか受け止められなかった。
女三人が「ひいぃっ」と怯えながらも、何度も首を縦に振る。
闇の商人が「え、また私も?」と言いながら、でも逃げない。
◇ ◇ ◇
「……じゃあ、こうしようかな」
俺は全員を見渡した。
魔王チーム:魔王・イリス・闇の商人・女三人
ヘンドリックチーム:ヘンドリック・エリーゼ・サンネ・ミラ・ブラム・ロッテ
ブラムが「……俺たちは師匠のそばにいていいんですか」と言う。
「当然だよ」
ロッテが小さく頷く。
「……ありがとうございます」
エリーゼが静かに言う。
「……よろしいのですか、旦那様。あの三人を手放して」
「手放すわけじゃないよ。……魔王さんが引き受けてくれた。それだけだよ」
エリーゼが一瞬だけ、何かを考える顔をした。それからゆっくりと、小さく頷いた。
「……承りましたわ」
サンネが剣の柄に手を添える。「同意する」
ミラが「ボスと一緒にいられるんだゾ!」と言う。
◇ ◇ ◇
女三人が魔王チームに合流する前に。
俺は三人に声をかけた。
「しばらくここで学んでおくといいよ。俺と違って、彼女は遠慮がないからさ。今度こそちゃんと……ね」
「……あ、それと」
俺は声を潜めて、三人に釘を刺した。
「イリスは普段大人しいけど、真に怖いのは彼女だから、十分に注意するようにね」
◇ ◇ ◇
エリーゼが「ふふっ」と笑いながら、俺の頬や腕をさりげなく撫でるようにボディタッチしてくる。
「……旦那様ったら」
俺は苦笑して、息を吐こうとした。
……あれ?
息が、できない。
視界が急にチカチカしてきた。よく考えたら、さっき俺が「それ言っちゃダメぇ!」と叫んだ時から、ずっとサンネに背後から羽交い絞めにされたままだった。
「……さ、サンネ……くび……」
「……ハッ!?」
俺の力が抜けた瞬間、サンネがようやく我に返った。
「あ! 息していない!? か、閣下!?」
俺が喋り終えるまで微動だにしなかったサンネだが、うっかりそのままの力で首を絞め続けていたらしい。俺の意識は、そこで物理的に刈り取られた。
ガクン、と俺の体が崩れ落ちる。
「閣下ぁぁぁぁっ!?」
サンネの悲鳴が地下施設に響き渡る中、ミラが倒れた俺を見て叫んだ。
「ボス! 食べ物足りてないんじゃないか!? もっといっぱい食べないと強くなれないんだゾ!」
ミラは相変わらず、何も考えていなかった。




