第16話:冷たいラブ光線と、サブリーダーの悲劇
水の都ヘラフテンの冒険者ギルド。
受付カウンターの前で、ヘンドリックたちはパーティーの正式な結成申請を行っていた。
「よし、パーティー名は【黎明の止まり木】で申請用紙に書いたよ。あとはリーダーとサブリーダーの署名だけど……ほら、エリーゼ、ここに君の名前を書いてくれないか」
ヘンドリックが羽ペンをエリーゼに差し出す。
「え? 私が?」
「ああ。俺は【レベル1】のしがない便利屋だ。みんなみたいなトップランカーの集まりをまとめるリーダーなんて柄じゃないよ。君が適任だろう」
だが、その提案は一秒で却下された。
「却下します」
「ありえないんだゾ!」
「師匠以外にありえません!」
「私も、ヘンドリックさんがいいです……!」
全員の猛反対にヘンドリックがたじろいでいる隙に、エリーゼがスッと羽ペンを奪い取った。そして、迷うことなくリーダーの欄にヘンドリックと達筆で書き記してそのまま受付係に提出してしまった。
「あ、こら! なんで勝手に決めてるんだい!」
抗議するヘンドリックに対し、エリーゼはゆっくりと振り返り、彼を真正面から見据えた。
その瞳は、氷のように冷たく、一切の感情を排したような恐ろしく鋭い眼差しだった。
『ああもう、ヘンドリックったら……謙遜なんて可愛すぎるわ。あなた以外に私たちの主はありえないのに……! 愛してるわ、私のリーダー!』
実はその冷たい眼差しの裏では、致死量レベルの【ヘンドリックラブ光線】を全力で放っていたのだが、悲しいかな、生来のクールビューティーすぎる美貌のせいで、誰一人としてその熱烈な愛情に気が付かない。ロッテに至っては、エリーゼの迫力に『ヒィッ……』と小さく怯えている始末だ。
「何言っているの。私たちを導くのはあなたよ。あなた以外にあり得ないわ」
エリーゼの凄みのある冷徹な声に、ヘンドリックもタジタジになって頭を掻いた。
「わ、わかったよ……。悪かったね。俺がリーダーをやらせてもらうよ」
そのやり取りを見ていたミラが、ピコーン!と獣耳を立ててニコニコと笑い出した。
「じゃあ、リーダーはボスで決定! ということは、サブリーダーはエリーゼで決まりだゾ!」
「えっ!?」
突然、勝手にサブリーダーに任命され、エリーゼはエルフの長い耳をピンと跳ねさせて慌てふためいた。
「ち、ちょっと待って! 私はそんなつもりじゃ……! サブリーダーなら、元貴族で騎士だったサンネの方が身分も高いし適任よ! ね、サンネ!?」
エリーゼは必死に隣のサンネへ助け舟を求める。
だが、サンネは静かに、そして清々しい笑顔で胸に手を当てて首を横に振った。
「私は一介の剣。リーダーの盾となるのが役目です。彼の右腕として常に隣に立ち、部隊を管理するのは、最も冷静で知的なエリーゼ、あなたしかいません」
「サ、サンネ……あなた、裏切るのね……!」
見事な責任転嫁、もとい外堀の埋め立てであった。
エリーゼの必死の抵抗も虚しく、ブラムやロッテも「エリーゼさんがいいと思います!」と無邪気に拍手で賛同してしまう。
『ヘンドリックの隣になれるのは嬉しいけれど、こういう目立ち方は望んでいないのに……っ!』
顔を真っ赤にしてうろたえるエリーゼをよそに、受付係からポン、と承認のスタンプが押された。
こうして、伝説となる最強パーティー【黎明の止まり木】は、リーダー・ヘンドリック、サブリーダー・エリーゼという盤石の体制で、正式にギルドに受理されたのだった。




