第15話:桜梅桃李と、エルフの完璧な提案
フェルウェ大迷宮の安全地帯。
ヘンドリックの【土木建築Lv1】によって一瞬で構築された石造りの防音シェルター内で、六人の冒険者たちによる【第一回・パーティー名決定会議】が開催されていた。
「はいはいっ! 私から提案なんだゾ!」
一番に元気よく手を挙げたのは、獣人のミラだった。
「【ほかほか満腹団】! ボスの作るご飯が毎日すっごく美味しいから、これが一番いいと思うんだゾ!」
大真面目な顔で胸を張るミラ。
しかし、ダンジョンを探索する強者たちの名前としてはあまりにも平和ボケしすぎている。
「うーん……気持ちは嬉しいんだけどね。ギルドの受付で名乗る時に、俺が少し恥ずかしいかな」
「ええーっ!?」
ヘンドリックの苦笑い交じりの即答にミラがしょんぼりする中、次は元騎士のサンネが咳払いをして立ち上がった。
「では、私が。我々はヘンドリックの元に集いし精鋭。ならば【不屈なる白銀の剣】あるいは【正義の天秤】などはいかがかしら?」
「サンネ、それは騎士団の分隊か何かの名前みたいだね。俺たちはしがない冒険者だし、少し堅苦しすぎるんじゃないかな」
「うっ……そうかしら」
サンネが頬を掻いて引き下がると、今度はブラムが目を輝かせて立ち上がった。
「俺に最高のアイデアがあります! ズバリ、【師匠と愉快なお弟子ーズ】です!」
「ブラム、君は一回外に出て頭を冷やしてきてくれないか」
ブラムの純度100%の笑顔からの提案に、おっさんは頭を抱えた。
あまりにもカオスな状況に見かねて、ロッテがおずおずと手を挙げる。
「あ、あの……。普通に【ヘラフテン遊撃班】とか、【第五特務探索隊】みたいな、実用的な名前じゃダメですか……?」
「ロッテちゃんのは少し事務的すぎるかもしれないね。せっかくの冒険者なんだから、もう少しこう、夢というか……」
ヘンドリックが腕組みをして唸る。
誰一人としてまともな(あるいは丁度いい)名前を出せない状況。全員の視線が、最後に残った頼れるリーダーへと集まった。
「師匠、じゃあ師匠の案を聞かせてくださいよ!」
「そうね。あなたが私たちのリーダーなのだから」
期待の眼差しを受け、ヘンドリックは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「俺か……。そうだな。俺が考えていたのは【桜梅桃李】って名前だ」
『オウバイトウリ……?』
聞き慣れない言葉に、全員が首を傾げる。
「桜、梅、桃、李。どれも違う花を咲かせるが、それぞれに独自の美しさがあるって意味の言葉なんだ。みんなは性格も戦い方もバラバラだけど、俺から見れば全員が一級品の才能を持っている。無理に一つにまとまらず、それぞれの良さを咲かせていってほしい……そんな意味を込めてね」
ヘンドリックの優しさと、メンバーへの深いリスペクトが詰まった提案。
これには女性陣もブラムも、頬を染めてジーンと感動の溜め息を漏らした。
「ボス……! ボスぅぅぅっ!」
「ちょ、ミラ! 鼻水を俺の服で拭くのはやめてくれ!」
感動したミラが飛びついてくるのを剥がしながら、ヘンドリックは「まあ、ちょっと響きが固いか」と苦笑した。
その時だった。
ずっと静かに皆のやり取りを聞いていたエリーゼが、ふわりと微笑んで口を開いた。
「ヘンドリックの【それぞれが独自の良さを咲かせる】という想い、とても素敵だわ。……でも、少し東洋の言葉っぽくて、ギルドでは覚えられにくいかもしれないわね」
エリーゼはヘンドリックの正面に立つと、その透き通るような美しい声で、自らのアイデアを紡いだ。
「――【黎明の止まり木】。これはどうかしら?」
「黎明の、止まり木……」
ロッテがその美しい響きを口の中で反芻する。
「ええ。私たちは一度、暗闇の中で迷子になっていた。でも、ヘンドリックという【夜明け(黎明)】の光に出会って、救われたわ。そしてここは、それぞれ違う羽根を持つ私たちが、羽を休め、新たな空へ飛び立つための大切な【止まり木】よ」
エリーゼがヘンドリックを真っ直ぐに見つめる。
その眼差しには、冷徹なエルフの姿はなく、ただ純粋な感謝と深い愛情が込められていた。
「どうかしら、ヘンドリック? あなたの作ってくれたこの居場所に、これ以上ふさわしい名前はないと思うのだけれど」
中二病のような痛さもなく、それでいてセンス抜群。全員の境遇と、ヘンドリックへの想いを完璧に表現したその名前に、もはや反対する者など一人もいなかった。
「……ああ。いい名前だね。文句なしだよ」
ヘンドリックが優しく微笑んで頷くと、シェルター内に歓声が響き渡った。
「決定ですね! 俺たち、【黎明の止まり木】!」
「ふふっ、素敵な名前だわ!」
「やったんだゾー!」
こうして、伝説の便利屋と訳ありの強者たちによる最強のパーティー【黎明の止まり木】が、ここに正式に誕生したのだった。




