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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第14話:冷たい眼差しと、至近距離の提案

 フェルウェ大迷宮・深層。

 薄暗い空間で群れを成していた凶悪な魔物たちは、ブラムの炎とサンネの剣によって、瞬く間に塵へと変わっていった。


 ヘンドリックは自ら剣を振るうことも、魔法を放つこともない。

 彼の戦闘は、敵と遭遇する【前】に既に決着しているからだ。完璧な【索敵】による先制攻撃の指揮、魔道具による味方への広域バフと敵への強烈なデバフ、そして【土魔法】で作った足止めの罠。

 すべてが念入りに計算された盤面の上で、教えを受けた弟子たちが圧倒的な火力で蹂躙していく。それがヘンドリックの戦い方だった。


「よし、殲滅完了だね。怪我はないかな?」


 後方で腕組みをして戦況を見つめていたヘンドリックが声をかける。

 その横顔を、エルフのエリーゼが切れ長の美しい目で見つめていた。

 彼女のその整いすぎた美貌は、ともすればひどく冷淡で、人によっては冷酷無比な死神とすら思われるような、氷のように鋭い眼差しだ。普通の男なら、その視線を向けられただけで萎縮して動けなくなってしまうだろう。


 だが、ヘンドリックは全く動じない。


「ん? どうしたんだい、エリーゼ。どこか痛むのか? それとも少しお腹が空いたかな?」


 近所の子供を気遣うような、あまりにも何でもない日常のトーンで受け流すのだ。

 エリーゼの恐ろしいほどの美のプレッシャーが、この地味なおっさんには微塵も通じていない。


「……別に。あなたが的確な指示を出してくれたから、少し見惚れていただけよ」

「そりゃどうも」


「あーっ! ちょっとエリーゼ! また抜け駆けしてるわね!」


 それに気づいたサンネが、剣を収めるなり猛ダッシュで突っ込んできた。彼女は抜群のスタイルを見せつけるように、ヘンドリックの右腕に豊かな胸をむぎゅっと押し付けて迫る。


「あ! 私もまざるんだゾ!」


 続いて獣人のミラが、圧倒的な質量を揺らしながら左腕に抱きついた。ヘンドリックはまたしても美女の肉壁に挟まれ、照れる余裕すらなく本気で窒息しかけている。


「ぐえっ……お、重い……! 息が、窒息する! 頼むから、どいてくれ……っ!」


 必死にもがき、逃げ場を求めるその姿には、下心など微塵も存在しない。


『……またやってる』


 少し離れた場所で魔物の素材をナイフで解体しながら、ロッテはその光景をすっかり見慣れた目で眺めていた。

 なぜ、この地味で小柄なおっさんがこれほどまでに美女たちにモテるのか。そして、なぜおっさんはこんなに無防備に迫られているのに、一切手を出さないのか。ロッテにとってはもはや、ダンジョン最大の謎である。


「二人とも、離れなさい。ヘンドリックが困っているでしょ」


 エリーゼが冷ややかな声でサンネとミラを無理やり引き剥がすと、今度は自らがヘンドリックの正面に立った。

 そして、エルフの美しい顔をスッと近づける。

 おでこがくっつきそうなほどの至近距離。エリーゼの甘い吐息が、ヘンドリックの鼻先をかすめる。


 そのあまりにも艶めかしい雰囲気に、見ているロッテが『ゴクリ……』と息を呑んだ。ブラムも顔を真っ赤にして慌てて目を逸らしている。


 エリーゼは甘く、しっとりとした声で、ヘンドリックの目を見つめて静かに語りかけた。


「ねえ……ヘンドリック。そろそろ……」


『こ、告白……!? ついにここで……!?』

 ロッテの心拍数が跳ね上がる。


 沈黙が場を支配する中、エリーゼは真剣な瞳で告げた。


「……パーティー名を決めない?」


「…………は?」


 ヘンドリックが気の抜けた声を出し、背後ではロッテとブラムがズコーッ!と派手にずっこけた。


「……パーティー名?」

「ええ。私たち、もう立派な固定パーティーじゃない。ギルドへの素材の納品や指名依頼を受ける時にも、名前があったほうが便利でしょ?」


 至近距離のまま、大真面目な顔で事務的な提案をしてくるエルフ。

 ヘンドリックは小さくため息をつくと、彼女のおでこを指先でツンと押し返して距離を取った。


「なんだ、そんなことか。別に俺は【ヘンドリック一行】とかでいいんだけどね……。みんな、何か希望はあるかな?」


 おっさんが問いかけると、サンネ、ミラ、そしてブラムとロッテが顔を見合わせ、楽しそうに考え込み始めた。

 冷徹なエルフの奇襲から始まった、彼らだけのパーティー名会議が、深層の迷宮のど真ん中で幕を開けた。

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