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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第156話:盤面を覆す奇策と、泥塗れの逆転劇

 どれほどの時間、意識を手放していただろうか。


 冷たい土の感触と、全身を貫くような激痛によって、俺は泥の底ではっと意識を取り戻した。


「がはっ……、ごほっ……」


 口の中に溜まっていた土と血を吐き出し、すぐさま回復魔法を展開する。淡い光が体を包み込むが、今の俺が使える低レベルの回復魔法では、完全に折れ曲がった右腕やあばら骨の修復までは不可能だった。


 魔法の効果を飛躍的に高める魔道具さえあれば造作もないことだが、生憎と今は安全地帯セーフエリアでのんびりするつもりで装備を外してしまっている。焼け石に水程度の治癒しかできない己の油断を呪いながらも、俺は強引に痛みをねじ伏せて思考をクリアにした。


 意識を失う直前、俺は契約を結んだ土の精霊に明確な指示を出していた。


 俺が通ってきた元の道をたどり、残してきた俺のダミー人形に精霊自身が憑依して動かすこと。そして、あわよくばあの白黒の襲撃者を仕留めるか、それが無理でも強烈な陽動として機能させることだ。


 俺はひんやりとした土壁に寄りかかりながら、『索敵』のスキルで地上の気配を探った。


 絶望的なことに、地上の味方の気配はまるで話にならなかった。魔王も、サンネも、誰も彼もがただ床に転がっているだけで、スキルや魔法を発動しようとする魔力の波すら一切感じ取れない。


 対する襲撃者の気配は、獲物を見下ろす捕食者のように微動だにせず、完全に盤面を支配して静まり返っていた。


 仲間たちが全滅させられた原因や、あの異常な攻撃の正体など、様々な考えが頭をよぎるが、今はそれどころではない。あのまま放置すれば、ダミーの誤魔化しが効かなくなった瞬間に全員殺される。


 俺は残された魔力を振り絞り、『空間拡張』の魔法を発動させた。


 みしり、と音を立てて周囲の土が後退し、俺の体がようやく自由に動かせるほどの空間が地下に出来上がる。すかさず『光魔法』で小さな光球を生み出し、完全な暗闇だった周囲を照らし出した。


 視界を確保した俺は、『土木魔法』を駆使して反撃の舞台を整え始めた。土を練り上げ、固め、俺自身が地上へと飛び出すためのなだらかな道と、強固な階段を形成していく。


 上へ、上へと階段を構築しながら、俺は索敵スキルでテイムした巨大ワームの動向を注視していた。


『……来る。ワームがあと少しで、襲撃者の足元の床をぶち破るぞ』


 俺は脳内で地上の映像をシミュレートした。巨大なワームが足元から出現した時、あの不気味な敵がどう動くか。確実にワームの顎を避け、かつ体勢を立て直せる位置へ後退するはずだ。


 俺は予測したその『敵の回避地点』の真下へと、土木魔法を使って空間ごと自身の体を持ち上げていった。


『いまだッ!』


 地鳴りとともに、巨大なワームが安全地帯の床を凄まじい勢いで突き破った。


 足元からの予想外の強襲。しかも、敵の対応が一瞬遅れたのが気配で分かった。なぜなら、俺の指示を受けた土の精霊が、俺のダミー人形を動かして敵の意識を強烈に引きつけていたからに他ならない。


「……ッ!?」


 ダミーへの警戒とワームの強襲という二つの思考に引き裂かれ、見事にバランスを崩した襲撃者が、もんどり打ってひっくり返った。


 その気配の乱れを確信した瞬間、俺はワームが飛び出した場所とは全く別の地点の床を『土木魔法』で綺麗にくりぬき、一気に地上へと躍り出た。


 粉塵が舞うリビング。痛む体を引きずって立ち上がった俺の足元に、白黒の丸い石が一つ転がっているのが見えた。


 直接触れれば、仲間たちのように俺までひっくり返されるかもしれない。俺はとっさに錬金魔法で金属のトングを作り出し、その危険な石をしっかりと挟み込んだ。


 視線の先では、体勢を崩しながらも冷徹にワームへと石を投げつけ、あっけなく巨大な魔物をひっくり返して無力化する襲撃者の姿があった。


 ワームを処理し、俺のダミーへと再び向き直ろうとした、まさにその一瞬の死角。


『今だ!!』


 俺はトングで掴んだ白黒の石を、渾身の力を込めて襲撃者の背中へと投げつけた。


 風を切る音に気づき、襲撃者が振り返る。自身の放ったはずの石が、死んだはずの俺の手から飛んできたのを見た時の、あの襲撃者の『驚愕に染まった気配』と言ったらなかった。


「ぎゃあッ!?」


 鈍い音とともに石が命中し、絶対的な強者だったはずの襲撃者が、仲間たちと全く同じように、滑稽なほどあっけなくゴロンとひっくり返った。


「終わりだ、くそったれ!」


 俺は休むことなく魔法を連続発動させた。ひっくり返って身動きが取れない襲撃者の周囲の床を『土魔法』で巨大なすり鉢状にくりぬき、そのまま深い地下の底へと突き落とした。


「ぎゃあああああ!!!!」


 奈落へと落ちていく襲撃者の悲鳴を聞き届けながら、俺は『土木魔法』で分厚い土の壁を形成して奴を地下空間に完全に閉じ込めた。


 さらにダメ押しとばかりに『水魔法』でその空間の内部を水で限界まで満たし、強固な岩盤の蓋をして完全に封印を施した。


 激痛と魔力枯渇による疲労で目の前が真っ暗になりそうになりながらも、俺は大きく息を吐き出し、床にへたり込んだ。


 三十五歳のおっさんの心臓は、限界を超えて早鐘のように打ち鳴らされていた。どうにかこうにか、俺たちはこの理不尽な死地を脱したのだった。

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