第154話:盤面の支配者と、床下の死角
爆発の衝撃波が、安全地帯であるはずのリビングを吹き荒れた。俺は入り口に立っていた闇の商人が吹き飛ぶのに巻き込まれる形で、後方へと弾き飛ばされた。
幸いなことに、闇の商人が盾となる形になったため、敵の放った謎の爆撃の直撃は免れている。だが、俺の体はリビングの奥の壁に激突し、肺から空気が強制的に絞り出された。
万が一の事態に備え、俺が魔力を込めて「絶対に破壊されない強度」で形成した壁だ。そのすさまじい強度が仇となり、クッション性は皆無で、全身の骨が軋むほどの激しい衝撃を味わう羽目になった。
意識が飛びそうになるのを必死に堪えていると、奥の寝室のドアが不機嫌そうに開かれた。
「……なんじゃ騒がしいのう」
揉め事など露知らず、目を擦りながらルミナリア王女がリビングへと姿を現した。その視線の先には、床に転がった魔王やサンネたちの異常な光景と、不気味に佇む白黒の襲撃者の姿がある。
「あ!」
悲鳴のような声を上げたのは、俺を庇うように立ち塞がり、唯一無傷で敵の初撃を免れていたエリーゼだった。
彼女は冷静に氷魔法を練り上げ、反撃の機会を窺っていたはずだ。だが、完全な無防備状態で飛び出してきた王女を守らなければと、せっかくの安全な位置を捨てて反射的に動いてしまったのだ。
そのわずかな隙を、白黒の襲撃者が見逃すはずがなかった。
音もなく放たれた二つの石が、空中で正確な軌道を描く。回避する間もなく、石は王女と、彼女を庇おうとしたエリーゼの額にパァンと吸い込まれた。
次の瞬間、二人もまた見えない力に弾かれたように、あっけなくゴロンと床にひっくり返ってしまった。
これで、動ける仲間は全滅だ。俺は痛む体を少しだけ動かし、隣で倒れている男に小声で呼びかけた。
「おい、動けるか?」
「う……痛い……む、無理……骨が折れている」
闇の商人は掠れた声でそう答えるのが精一杯だった。俺とは違い、ドアを開けた瞬間に爆撃を直接その身に受けてしまったのだ。完全に戦闘不能の状態である。
だが、ここで俺まで倒れるわけにはいかない。あの奇妙な石の攻撃法則を見極めるには、一度敵の視界から完全に消える必要がある。
俺は倒れ伏した闇の商人の体を隠れ蓑にするように身を潜めると、自身の気配を極限まで遮断した。
そして、床に触れた手のひらから静かに土木魔法を発動させる。極めて精密な魔力操作で音も振動も立てず、自分の体のすぐ下に人が一人入れるだけの縦穴を素早く形成した。
同時に、偽装魔法を展開する。瓦礫と土くれを編み上げ、俺と同じ背格好で壁際に倒れ伏す『ダミー』を作り出した。
襲撃者の視線がひっくり返ったエリーゼたちに向いているほんの一瞬の隙を突き、俺はダミーと入れ替わるようにして、自ら作り出した床下の暗闇へと音もなく滑り込み、完全に姿を消したのだった。




