第153話:白黒の襲撃者と、反転する日常
「どごーーーーーーーーん!!」
入り口で起きた大爆発によって、俺と闇の商人はリビングの奥の壁へと激しく叩きつけられた。
「旦那様! 大丈夫ですか!?」
一番に反応したエリーゼが、真っ先に吹き飛んだ俺の元へと血相を変えて駆け寄ってくる。俺は全身の痛みに顔を歪めながら、辛うじて体を起こそうとした。隣では闇の商人が完全に気を失っている。
粉塵が舞う中、開け放たれたドアの向こうから、ゆっくりと『それ』が姿を現した。
インキュバスなどという分かりやすい魔物ではない。それは、まるで白と黒の丸い石をびっしりと敷き詰めたような、オセロの盤面がそのまま人型になったかのような、ひどく不気味で正体不明の存在だった。
最近あまりにも緩み切っていた俺たちのパーティーには、致命的なまでに緊張感が欠けていた。
「……ん? なんだあいつ」
「ボスが吹き飛んだんだゾ? 何が起きたんだゾ?」
ソファーに座っていた魔王とミラは、俺たちが壁に激突するのを見ても、まだ事態を飲み込めずにボケーっと襲撃者を眺めていた。
襲撃者は無言のまま、自身の体を構成する白と黒の石をポロリと剥がし、それを魔王とミラに向かって軽く放り投げた。
「あん? こんな小石――」
パァンッ!
迎撃しようとした魔王とミラの額に、吸い込まれるように石が命中した。その瞬間、最強であるはずの魔王とミラの体が、まるで見えない巨大な手に弾かれたように、あっけなくゴロンとひっくり返って床に倒れ伏した。
「ま、魔王様!? ミラ!? なんだあの攻撃は……っ!」
朝の鍛錬を終えていたサンネが慌てて立ち上がる。しかし、彼女はよりによって剣と盾の装備を外してしまっていた。
「くっ、武器がない! ならば魔法で――きゃあっ!」
とっさに詠唱に入ろうとしたサンネにも、無慈悲に放たれた白黒の石が命中する。屈強な騎士である彼女もまた、為す術もなくひっくり返ってしまった。
「な、なんだなんだ!? 師匠、すごい音が――うわあっ!」
「ふぇっ!? ブラム君!? ――きゃああっ!」
騒ぎを聞きつけて奥の部屋から飛び出してきたブラムとロッテだったが、状況を把握する間もなく、襲撃者が放った石が立て続けに二人に命中。彼らもまた、あっけなく床にひっくり返されてしまった。
王女はこの場におらず、魔王から弟子たちまで、仲間たちは次々と床に転がっている。
爆風のダメージで動けない俺と、気絶した闇の商人。そして、俺を庇うように立ち塞がり、氷の魔力を練り上げながら襲撃者を睨みつけるエリーゼ。
絶対の安全地帯だったはずの空間は、たった数瞬で最悪の絶体絶命へと陥っていた。




