第150話:胃袋の陥落と、逃げ場なき混浴
厨房の周りに群がるヒロインたちをなんとかいなしながら、俺は夕食の準備を始めた。
今回用意したのは、街にいる『レベル10の料理人』に高額な報酬を払って特別に作ってもらった最高級の携帯保存食だ。本来、こんなバカ高いものを迷宮に持ち込む冒険者などいないし、料理人も滅多に作らない。だが、そこは便利屋として培った多方面への人脈の賜物である。
俺の持つ料理Lv1のスキルは、このレベル10の保存食を「味が落ちないように完璧な温度の湯で戻す」ためだけに使われている。
温かいシチューのようにして大皿に盛り付け、テーブルに並べた。
「ほら、できたよ。魔王様もどうぞ」
「がはは、保存食か。まあ、野営の飯に期待はしてねえが……んん!?」
一口食べた瞬間、リビングのソファーでくつろいでいた魔王の動きがピタリと止まった。漆黒の密着戦闘服に包まれた体が、ブルブルと震え始める。
「……おい、おっさん。なんだこの信じられねえほど美味い飯は!? ダンジョンでこんな極上の味が楽しめるなんて、どうなってやがる!」
「街の腕利きに特注で作ってもらったやつだからね。お湯で戻すだけでもコツがいるんだけど、喜んでもらえて何よりだよ。いっぱいあるから、おかわりしてね」
「おおおお! 俺の嫁になってくれえ!!」
「……というか、あんた女だろ! 嫁じゃなくて夫を探しなよ。というか、魔王様って独身だったの!?」
俺が思わず素でツッコミを入れると、魔王はシチューを掻き込みながら、ドスの効いた声で睨んできた。
「あん? おっさん、アタシを幾つだと思ってやがんだ?」
「……知らん。見た目はプロポーション抜群の二十代前半ってところだけど……」
「アタシはな、●▽◇★才だぞ!!」
「え? まじかよ……」
あまりの桁違いな数字に、俺は開いた口が塞がらなかった。三十五歳の俺なんて赤子のような年月だ。エリーゼの三百九十歳も大概だが、魔王のそれは次元が違った。
「あー、極楽でやんした……」
「ロッテ、髪の毛ちゃんと拭かないと風邪引くぞ。あ、師匠、お風呂最高でした!」
「ふぇぇ、ブラム君と一緒にお風呂なんて、私……っ」
そんなカオスなリビングに、一番風呂を満喫してすっかり骨抜きになった闇商人と、湯上がりでホカホカのブラムとロッテが戻ってきた。
「それじゃあ、俺も汗を流してくるかな」
俺が着替えを手に男湯の脱衣所へ向かおうとした、その時だった。
「どこへ行くのです、旦那様?」
「どこへ行く、ヘンドリック?」
俺の行く手に、エリーゼと王女が完璧な陣形で立ち塞がった。
「え? 男湯へ……」
「そんなものはない!」
「ええっ!?」
「ここにあるのは、わらわたちが用意した『女湯』のみじゃ! 貴殿の複合魔法で作り出したものとはいえ、すでにわらわたちが占拠したゆえな!」
王女が扇子をビシィッと突きつける。背後では、サンネとミラも臨戦態勢に入っていた。
「いや、ちょっと待って! 俺が作ったんだから、男湯と女湯はちゃんと分かれてるはずなんだけど!?」
「ふふっ。旦那様がおっしゃる『男湯』の入り口は、私の氷魔法で完全に封鎖しておきましたわ。さあ、大人しく私たちと一緒にお入りなさいな」
「いやあ……やめてええぇぇ……!!」
三十五歳のおっさんの悲痛な叫びは、ダンジョンの安全地帯に空しく響き渡った。
「がははは! 面白え! アタシも背中流してやるよ!」
結局、シチューでお腹を満たして上機嫌になった魔王まで乱入し、俺は四人のヒロインと魔王とともに、逃げ場のない混浴地獄(天国?)へと強制連行される羽目になったのだった。




