第139話:好待遇の囚人と、ボディコン魔王の急襲
「あのさ……なんで捕虜のおじさんが、俺と同じランクの朝食を食べてるのかな?」
『ふかふかのベッドに、焼きたてのパンと温かいスープ。これ、地下牢っていうか完全にVIPルームの軟禁だよね? 侯爵邸の待遇が良すぎるんだけどさ』
翌日。侯爵邸の頑丈だが快適な客室で、闇の商人のトップは優雅に紅茶を啜っていた。
アルフォンスが「情報を吐かせるため」と言っていたが、結局ヘンドリックの人の良さ(と、エリーゼたちの「旦那様の屋敷で拷問など言語道断」というストップ)が勝り、彼は非常に好待遇で保護(隔離)されていたのである。
「いやはや、侯爵閣下の慈悲には感謝しかありません。これなら洗いざらい、知っている情報はお話しできますよ」
すっかり毒気を抜かれた商人がニコニコと笑う。
「まあ、それならいいんだけどね……」
ヘンドリックがため息をついた、その時だった。
バーンッ!!
客室のドアが木っ端微塵に吹き飛び、謎の女性がズカズカと踏み込んできた。
「おいおっさん! アタシが待ってたのに、いつまで経っても来ないじゃないか! ひと泳ぎして迎えに来てみれば……なんだこの街は! 最高にいい湯の温泉があるじゃないか!」
「……は?」
『いや、ちょっと待って。ドアの修理代はシリル君に請求するとして……また君か!』
そこに立っていたのは、昨日市場で騒ぎを起こした「魔王」と名乗る美女だった。
しかし、ヘンドリックの視線は彼女の顔ではなく、その服装に釘付けになった。
「いや……あのさ。昨日の水着も大概だったけど、今日のその服、体に張り付きすぎじゃないかな!? ボディコンって言うの!? 布の面積は増えてるはずなのに、水着よりよっぽどエロいんだけど!」
『ベルナデッタさんが見たら、今度こそ泡を吹いて倒れるレベルだよ! なんでこの人は王都をそんな格好でうろつけるの!?』
ボディラインがくっきりと浮き出た超タイトなドレス(通称ボディコン)。無駄に色気を振りまきながら、魔王はあっけにとられるヘンドリックの肩をバンバンと叩いた。
「がはは! 人間の服ってのは動きやすくていいな! で、なんだおっさん。こんな良い部屋でくつろぎやがって。アタシと一緒に次のダンジョンに行くぞ!」
「ひぃぃっ! ま、魔王様! お許しを!」
商人がベッドの隅でガタガタと震え出す。
そのカオスな状況に、ヘンドリックが頭を抱えようとした瞬間――背後の廊下から、聞き慣れた声が響いた。
「ヘンドリックさん! 遊びに来ましたよー! って、ドアが壊れて……えっ?」
「侯爵閣下、朝早くから失礼す……なっ!?」
顔を出したのは、かつてのパーティーメンバーであるルークと、その恋人であるアイシャだった。彼らもまた、ヘンドリックを訪ねて侯爵邸にやってきたらしい。
しかし、部屋の中の光景――とりわけ、ボディコン姿の美女を見た瞬間、アイシャの顔色が一瞬で蒼白になった。
「うわあああっ!? な、なんでここにいるんですか!?」
アイシャが素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「ん? おお、その気配……アイシャじゃないか! 久しぶりだな! ちゃんと人間界で上手くやってるか?」
魔王が嬉しそうに手を振る。
「……え?」
『ちょっと待って。アイシャって、実は魔族だったよね? そのアイシャがこの魔王と知り合いってことは……』
ヘンドリックは、ルークの後ろで顔を真っ赤にして隠れようとしているアイシャと、豪快に笑う魔王を交互に見比べた。
「アイシャ、お前……この露出過剰な魔王様と、どういう関係なのかな?」
「あわわわ! そ、それは……!」
アイシャが涙目でしどろもどろになる中、ルークは完全に状況が飲み込めず「え? アイシャの知り合い?」と首を傾げている。
王命の討伐対象である闇の商人を前に、まさかの魔王と元パーティーメンバーが合流するという、三十五歳の理解を完全に超えた大パニックが幕を開けようとしていた。




