第136話:気さくな魔王と、点と点が繋がる過去
「いや、思わずスルーしそうになったけどさ。魔王って何だよ!」
ヘンドリックはたまらず、串焼きを豪快に平らげている水着の美女に向かってツッコミを入れた。
「ん? なんだ、知らんのか? この人間の街にも、魔族がこっそり住んでたりするだろ? あれらを統べるのがアタシら『魔王』の仕事ってなもんでさ。ま、アタシはまだ代替わりしたばかりのなりたてだから、詳しいことはよく分かっちゃいないんだけどな! がはは!」
「……」
『ノリが軽い! そしてめちゃくちゃフレンドリー! 魔王ってこんな水着一丁で肉を頬張りながら笑うポジションなの!? 俺の知ってるおとぎ話の魔王像と全然違うんだけど!』
あまりにも気さくで陽気なセクシー魔王の態度に、ヘンドリックは毒気を抜かれてしまった。
しかし、ここで一つの疑問が頭をもたげる。隣でまだガタガタと震えながら平伏している、闇の商人のボスの存在だ。
「……じゃあさ。こいつらが裏でコソコソばら撒いてる、あの黒い『魔石』みたいなのは何なんだい?」
ヘンドリックが闇の商人を指差して尋ねると、魔王は「あー、あれか」と爪楊枝でシーシーと歯をいじりながら答えた。
「あれは本来、ダンジョンに溜まった『汚れ』や、飽和した魔力をギュッと封じ込めるための魔石なんだよ。アタシら魔族が上手く使えば、魔物の暴走をコントロールできる便利な代物なんだけどな……人間が安易に発動させたり、扱いを失敗したりすると、中の魔力が弾けて一気に『スタンピード』を起こしちまうんだ」
「スタンピード……」
その言葉を聞いた瞬間、ヘンドリックの脳裏に電撃が走った。
「人間がいじると暴走する……。だからお前ら(闇の商人)は、その魔石を兵器代わりに裏で売り捌いてたってことかい?」
「ひぃっ! そ、それは……!」
闇の商人が真っ青な顔で後ずさる。
『……おかしい。怪しい魔石による、人為的な魔物の暴走。なんか聞いたことのあるような……』
ヘンドリックは記憶の糸を必死に手繰り寄せる。
そして、ある一つの強烈な事象に行き着いた。
『……あれか。俺が王都に引きずり出されるきっかけになった、水の都ヘラフテンでのスタンピード……!』
あの時、平和な水の都を突如として襲った魔物の大群。
あれも自然発生などではなく、この『ダンジョンの汚れを封じた魔石』が原因で引き起こされたものだったとしたら。
「……なるほどね。点と点が繋がってきたかな」
『闇の商人の暗躍、ダンジョンの魔力飽和、そして各地で起きている不自然なスタンピード。これ、全部根っこは同じ問題じゃないか』
「そういうこった! だから次のダンジョンも魔力が飽和して爆発する前に、お前らでちょっくら掃除してきてくれよな! アタシはこれから海に行くから忙しいんだ!」
「海!? 王都から海なんてめちゃくちゃ遠いんだけど!? ていうか、その水着はこれから泳ぐ気満々だったからなの!?」
「じゃあな! お肉ごちそうさん!」
ヘンドリックの叫びも虚しく、水着の魔王はニコッと爽やかに笑うと、文字通り風のように市場の雑踏へと消えていってしまった。
後に残されたのは、重要な設定と重大な任務を丸投げされて呆然とする三十五歳の侯爵と。
そして、逃げ遅れて完全に「すべてを白状するしかない」空気の中で、パイプ椅子に正座させられている哀れな闇商人のボスだけであった。




