第135話:水着の乱入者と、まさかの特大ネタバレ
王都の市場のど真ん中。
討伐対象であるはずの闇の商人のトップと、討伐責任者である侯爵ヘンドリックが、なぜか仲良く屋台の長椅子に並んで串焼きを齧るという異常空間。
「……そろそろ、私はお暇させていただいても……」
「あ、うん。引き留めちゃってごめんね。気をつけて帰ってね」
『よし、これでなんとか波風立てずに解散できる。このおじさんが闇の商人だってことは、一旦見なかったことにしよう。うん、それがいい』
ヘンドリックが冷や汗を拭いながら平和的解決(現実逃避)を図ろうとした、まさにその時だった。
「探したぞ! こんなとこにいたのか!」
雑踏を切り裂くような、よく通る女の声。
声の主が人混みを掻き分けて姿を現した瞬間、市場にいた周囲の市民たちの動きがピタリと止まり、全員の視線が一点に釘付けになった。
「……は?」
『いや、ちょっと待って。なんだあの格好』
ヘンドリックも思わず持っていた串焼きを落としそうになった。
現れたのは、息を呑むほどエロ……もとい、扇情的なプロポーションを持った絶世の美女。
だが、問題なのはその顔やスタイルではない。彼女の身に纏っている衣装があまりにも「布面積が少なすぎた」のだ。
「いや、ちょっと待ってほしいかな。明らかに露出過剰っていうか……それ、どう見てもただの『水着』だよね!?」
『なんで王都のど真ん中を水着一丁で歩いてるの!? 目のやり場に困るんだけど! ベルナデッタさんが見たら卒倒して説教が三日三晩続くレベルだよ!』
ヘンドリックが常識人としてのツッコミを心の中で絶叫している横で、さらに信じられない事態が起きた。
「ま、魔王さま……!?」
ガタンッ! と、隣に座っていた闇の商人のトップが、パイプ椅子から転げ落ちるようにしてひざまずいたのだ。その顔は恐怖と驚愕で青ざめ、ガチガチと歯の根が合っていない。
「……えっ?」
『ちょっと待っておじさん。今、なんて言った? 魔王? この水着の女の人が?』
闇の商人のトップという裏社会の大物が、思わず口走ってしまった絶対的な禁句。
つまり、この露出狂の美女こそが、闇の商人たちの背後にいるかもしれない本当の黒幕……『魔王』だというのか。
しかし、当の水着美女(魔王?)は、ひざまずく闇の商人を完全に無視して、ヘンドリックに向かってビシッと指を突きつけた。
「おい、そこのお前! 次のダンジョンが決まったぞ! あそこももう魔力が飽和してしまう! 早よう向かい、何とかせい!」
「……はい?」
あまりにも唐突すぎる業務連絡。
魔王(仮)が、人間の侯爵に向かって「ダンジョンがヤバいからどうにかして」と依頼してくるという、状況の渋滞がヘンドリックの脳の処理能力を完全に超えた。
「いや、あのさ……ツッコミどころが多すぎて何から言えばいいか分からないんだけどね」
『なんで魔王がダンジョンの管理を俺に丸投げしてくるの? ていうか、闇の商人のおじさん、完全に自分が黒幕の部下だって自白しちゃってるし! 俺、今聞いちゃいけない特大のネタバレを聞かされたよね!?』
「おお! 次の冒険の目的地が決まったのだな! さすが主君の知り合いは話が早い!」
サンネが水着美女の言葉を都合よく解釈して立ち上がる。
「おねーちゃん、その格好寒くないか? アタシのお肉分けてあげるんだゾ!」
ミラに至っては、魔王の露出を「貧困」だと勘違いして焼けた肉を差し出していた。
「ふはは! くるしゅうない、もらうぞ!」
そして水着の魔王は、あっさりとミラから肉を受け取って豪快に齧り始めた。
「……」
『だめだ、この空間にまともな思考を持ってる奴が俺しかいない。頭が痛くなってきたかな……』
闇の商人の討伐という王命はどこへやら。
露出過剰な魔王の唐突なクエスト受注と、図らずも正体を露呈してしまった哀れな闇商人のおじさんを前に、三十五歳の便利屋はただただ胃を押さえて立ち尽くすしかなかった。




