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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第132話:甘い肯定と、水の都への出口戦略

「……なんで俺、まだ王都に居続けてるんだろうね」

『おかしい。俺の居場所はここじゃない。水の都ヘラフテンで、のんびり便利屋をやりながら、たまに美味しい魚を食べる生活だったはずなんだけどさ』


 屋敷のバルコニーで、ヘンドリックは遠い空を見上げながら独り言をこぼしていた。

 彼の中には、一つの完璧な(と思い込んでいる)計画があった。闇の商人を完全に叩き潰す。それは国王陛下からの直命だ。つまり、それを達成してしまえば「王命を果たしました。ですが、もう燃え尽きました……」とかなんとか言って、侯爵の座を返上し、水の都へ逃げ帰れるはずなのだ。


「そのためには、早く現場に行って闇の商人を片付けなきゃいけないんだけどね」

『これこそが唯一の出口戦略。アルフォンスさんたちに何を言われようが、これだけは譲れないかな』


 ヘンドリックが一人で決意を固めていると、背後からふわりと甘い花の香りが漂ってきた。


「ヘンドリック様。……まだ、お悩みですの?」


 振り返ると、そこにはエリーゼが立っていた。

 いつもなら「旦那様! 早く執務室へ戻ってくださいませ!」と詰め寄ってくるはずの彼女が、今日はどこか様子が違う。潤んだ瞳でヘンドリックを見つめ、そっと彼の隣に並んだ。


「エリーゼ……。いや、ちょっとね。やっぱり俺、現場に行って闇の商人を叩き潰したいんだよ。侯爵の仕事も大事だけど、そっちを放っておくわけにはいかないからね」

『さて、どう反論されるかな。また説教が始まるんだろうけど……』


「……。よろしいのではありませんか?」


「え?」


「ヘンドリック様がそう決めたのでしたら、私はそれを肯定いたしますわ。貴方はいつだって、誰かのために戦う素敵な冒険者でしたもの。そんな貴方を縛り付けるなんて、私の愛が足りない証拠ですわね……」


 エリーゼはそう言うと、ヘンドリックの腕にそっと自分の頭を預けた。

 日頃の強気な態度はどこへやら、守ってあげたくなるような「しおらしい」姿。甘えるように寄り添ってくる彼女に、ヘンドリックはうっかり毒気を抜かれてしまった。


「え、あ、う、うん。分かってくれるのかい? 嬉しいかな……」

『あれ、エリーゼが物分かり良くなってる? もしかして、俺の苦労を察して、ようやく一人の男(冒険者)として尊重してくれるようになったのかな?』


 勘違いである。

 彼女は「ヘンドリックが英雄になればなるほど、外見がどうあれ誰の目にも『最高の侯爵』に見えるようになり、結婚への障害がゼロになる」という計算を終えた上での、ベルナデッタ直伝の「北風と太陽」作戦を展開しているだけなのだが、おっさんの脳内は「理解者が現れた!」という喜びで満たされていた。


 さらに、エリーゼと入れ替わるようにやってきたルミナリアもまた、驚くほど殊勝な態度だった。


「ヘンドリックよ。わらわも、そなたの意志を尊重しよう。王女としてではなく、一人の女として……そなたの背中を見送ると決めたのじゃ」


「王女殿下まで……。いや、そう言ってもらえると助かるんだけどね」

『なんだろう。今日のみんな、妙に理解があるね。……もしかして俺、ようやく「侯爵に向いてない」ってことをみんなに分からせることができたのかな?』


「そなたが王命を果たし、真の英雄として帰還する日を……わらわは信じて待っておるぞ」

 ルミナリアはそう言って、ヘンドリックの手を両手で優しく包み込み、頬を赤らめた。


「……。ああ、頑張るよ。早く終わらせて、みんなでヘラフテンに遊びに行けるといいんだけどね」

『よし、風向きが変わったかな。みんなが応援してくれてる間に、一気に闇の商人を片付けて、そのまま引退ルートへ突入だ!』


 ヘンドリックは、自分を全肯定してくれるヒロインたちの「しおらしさ」に完全に気を良くし、鼻歌混じりに準備を始めた。


 バルコニーの下では、その様子を見守る家臣夫婦が、冷徹な視線で打ち合わせをしていた。


「……アルフォンス。閣下、完全に『自分が勝った』と思い込んでいらっしゃいますわね」

「ええ。エリーゼ様たちに肯定され、いい気分で英雄への階段を上ってくださっています。……すべてが終わった後、逃げ場を失い、泣きながら印章を突くことになるのは閣下ご自身だというのに」


「太陽に照らされた旅人は、自ら上着を脱ぐもの。……さあ、闇の商人という名の『上着』を脱いだ後、閣下にどんな豪華な『侯爵の礼服(鎖)』を着せて差し上げましょうか」


 ベルナデッタの口角が、美しく、そして残酷に吊り上がった。


 三十五歳のおっさんは、自分への「肯定」という名の罠にどっぷりと浸かったまま、自ら破滅(絶対的英雄)への道へと突き進んでいくのであった。

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