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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第129話:趣味のない休日と、命取りの貸し切り風呂

「暇だね。いや、暇なのはいいことなんだけどさ……」

『どうしよう。やることが何もない』


 見事に自室への逃亡を果たしたヘンドリックだったが、ベッドに寝転がって一時間で早くも持て余していた。

 根っからの貧乏性であり、長年「便利屋」として働き詰めだった彼には、これといった趣味がないのだ。以前も似たようなことがあった気がするが、悲しいかな、おっさんの休日の過ごし方は全く進歩していなかった。


 ふとドアの外に気配を探ると、エリーゼやルミナリア、そしてサンネやミラたちが、廊下でどんよりとしたオーラを放っているのが分かった。


「……しょうがないな。本当に俺も甘いというか、なんというか」

『あんな捨て犬みたいな気配を出されたら、寝覚めが悪いじゃないか』


 ヘンドリックはため息をつきながらドアを開けた。


「……一人一時間。それ以上は延長なしだからね。お茶を飲むなり、剣の稽古に付き合うなり、好きにしていいよ」

「旦那様っ!」

「主君っ!」


 どんよりしていたヒロインたちの顔が、一瞬でパッと輝く。

 結局、なんだかんだで身内に甘いヘンドリックは、午前中の時間をたっぷりと使い、自称妻たちに平等な「一時間の触れ合いタイム」を提供してやるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 午後。

 ヒロインたちが満足して(あるいは次の一時間の計画を練るために)大人しくなった隙を見計らい、ヘンドリックは王都の温泉施設へと足を運んでいた。


「そういえば、公爵様から『家族や夫婦で一緒に入れる場所も欲しい』って要望があったっけ。暇つぶしがてら、増築でもしておくかな」

『趣味がないなら、小銭稼ぎと実益を兼ねた土木作業に限るね』


 王都に湧き出た世界樹温泉は現在大盛況だが、男女別の大浴場しかない。

 ヘンドリックは施設の裏手に回り、袖をまくった。


「【空間拡張Lv1】からの、【土魔法Lv1】で基礎工事。【土木建築Lv1】で外枠を作って、【水魔法Lv1】でお湯を引き込む、と」


 流れるような手さばきで、レベル1魔法の複合技が炸裂する。

 ものの数十分で、周囲を美しい岩と竹垣で囲まれた、情緒あふれる「貸し切り露天風呂」が五つも完成してしまった。脱衣所も完備の、プライバシーが完全に守られた極上の空間である。


「うん、上出来だね。これならブラムとロッテみたいな恋人同士も、周りの目を気にせずゆっくりできるだろうし。俺もたまには一人で足を伸ばせるかな」

『我ながら完璧な仕事だ。これで公爵様からのボーナスも期待できるね』


 ヘンドリックは腕組みをして満足げに頷いた。

 ……彼には、致命的に欠けている視点があった。

 この「外部から完全に遮断された貸し切り風呂」という密室空間が、虎視眈々と彼を狙うヒロインたちにとって、どれほど都合の良い『狩り場』になるかということに、全く気づいていなかったのである。


 のちにこの貸し切り風呂で、自称妻たちによる血で血を洗う「ヘンドリック混浴争奪戦」が勃発し、彼自身が文字通り首を絞められることになるのだが、それはまた別の話。


「よし。風呂はできたけど、湯上がりに遊べるものがないね。ちょっとした魔道具でも作ってみるかな」


 完全に職人スイッチが入ってしまったヘンドリックは、その辺の木材を【道具作成Lv1】で加工し始めた。

 作ったのは、長方形の平らな木の台と、小さなネット、そして二枚の木の板。そう、なぜかこの世界にある遊びで、どこかで見聞きした『温泉卓球』の台である。


「ただの卓球じゃ面白くないから、【風魔法Lv1】でボールが少しだけ不規則に曲がるように付与しておこうかな。うん、適度な運動になりそうだ」


 この時、彼が暇つぶしで作った「魔球卓球台」が、後に王都の貴族たちの間で爆発的なブームを巻き起こし、「これを制する者が社交界を制する」とまで言われる恐ろしい遊戯に発展するなど、ヘンドリックは知る由もなかった。


 ◇ ◇ ◇


 夕方。屋敷への帰り道。


「……あ、閣下。探しましたよ」

「ん? どうしたの、シリル君」


 道端でバッタリ出くわしたシリルが、眼鏡を光らせながら分厚い書類の束を差し出してきた。


「侯爵として王都に屋敷と領地(管理区)を与えられた以上、避けては通れない儀式があります。来月、閣下主催の『社交パーティ』を開催していただきます。準備リストです」

「……は?」

『いやいやいや、聞いてないんだけど。なんだよ主催って』


「それから、侯爵家の家臣が少なすぎます。現在はサンネ殿のご実家の方々が実務を手伝ってくださっていますが、規模が拡大すれば足りません。いずれミラ殿の故郷である獣人族の村からも、ご家族や一族を呼び寄せる必要が出てくるでしょう」


「……」


 次々と提示される「貴族としての義務」と「家臣(という名の居候)の増加」という現実。

 ヘンドリックの顔から、休日の穏やかな表情がスゥッと消え去っていった。


「……シリル君。俺、今日はもう疲れたから帰って寝るよ」

『誰か嘘だと言ってくれ。スローライフどころか、完全に国の中枢に組み込まれようとしてるじゃないか……!』


 自ら作った貸し切り風呂という名のトラップ、バズる予感しかない遊び道具、そして社交パーティと家臣問題。

 三十五歳のおっさんの悩みは、留まることを知らないのであった。

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