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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第120話:返上したい侯爵位と、噛み合わない天才魔術師

「……よし。今ならいける気がする。というか、今言わないともう手遅れになる!」


 王都の拠点の広間。ヘンドリックは一人、拳を握りしめて決意を固めていた。

 彼の脳裏に去来するのは、第54話での国王との謁見シーン。あの時、陛下は確かにこう仰った。

『今回のスタンピードの根本的な原因となった「不吉な魔石」をばら撒いている黒幕を突き止め、この国の脅威を完全に取り除け』

 それが、侯爵位授与の「条件」であったはずだ。


「そうだよ。黒幕はまだ捕まってないし、闇商人はピンピンしてる。脅威はこれっぽっちも取り除けてないじゃないか! つまり、俺が侯爵を名乗るのは詐欺だ。陛下に返上しに行こう。ついでに子爵も返して、平民の便利屋に戻るんだ……!」


 不退転の決意で立ち上がったヘンドリック。しかし、その背後からは「カチカチカチ……」という不気味な測定音と、ブツブツと呟く怪しい声が聞こえていた。


「素晴らしい……。この魔力波形、既存の魔導書には一行も記述がない。侯爵閣下、閣下が『適当に流した』と仰る魔力ですが、これによって世界樹の枝は完全に独自の進化を遂げています。もはやこれは単なる枝ではなく、魔力を無尽蔵に精製する『永久機関』に近い……」


 新メンバーのシリルである。

 彼は銀縁眼鏡の奥の瞳をギラつかせ、ヘンドリックが持ち帰った世界樹の枝に魔導計測器を押し当てていた。ヘンドリックの「平民に戻りたい」という悲痛な叫びなど、彼の耳には一ミクロも入っていない。


「おい、シリル君。聞いてるか? 俺は今、重大な話を……」

「閣下、静かに。今、この枝が『不吉な魔石』の波動を無害化する聖域を展開し始めました。……これです。陛下が仰っていた『国の脅威を取り除く』ための、究極の解答がこれですよ。閣下は迷宮からこれを持ってくることで、実質的に任務の八割を完遂されたも同然です」

「えっ、いや、そんなはずは……」


「さすがは旦那様ですわね。任務の片手間に、勝手に解決策まで持ち帰ってしまうなんて」

 呆れ顔で紅茶を啜るのはエリーゼだ。

「また始まったゾ。ボス、諦めが悪いんだゾ。もう諦めてお肉焼く係に戻るんだゾ」

「主君、返上などと言わず、いっそ公爵、あるいは王配を目指してはどうか!」


 ヒロインたちは「いつもの現実逃避が始まった」と言わんばかりに、生温かい目でおっさんを見守っている。


「違うんだ! 俺は条件を満たしてないって言いたいだけで……!」

「いいえ、ヘンドリック」


 そこへ、ルミナリア王女が優雅に歩み寄り、ヘンドリックの肩に手を置いた。


「シリルが言った通りじゃ。その枝が王都にあるだけで、闇商人の魔石はただの石ころと化す。つまり、そなたは『戦わずして脅威を封じ込めた』ことになる。これ以上の功績があるか? 陛下もさぞお喜びになるじゃろう。……うむ、侯爵では足りぬかもしれんな。わらわの隣に座るに相応しい、新たな位を用意せねば」


「いやぁぁぁっ! 昇進したくないぃぃぃっ!!」


 ヘンドリックの悲鳴が屋敷に響き渡る。

 その傍らで、シリルは「……閣下、次はこれに全力で魔力を込めてみてください。王都が浮くかもしれません」と、さらりと恐ろしいことを提案していた。


 ◇ ◇ ◇


 屋敷の隅。

「……なぁロッテ。おっさん、論理的に身分を捨てようとして、逆に『救国の英雄』としての外堀を埋められてるな」

「ええ。ブラム君。……あ、シリルさんの眼鏡が、こっち側の『悟りの色』に染まってきましたね」


 ブラムとロッテは、新たな仲間が「おっさんのデタラメさ」に毒され、自分たちと同じくツッコミを放棄し始める瞬間を、静かに見届けるのだった。

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