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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第119話:王女の権力(マウント)と、新たな胃痛枠

「大人しくその枝を渡せ! さもなくば実力行使に出るぞ!」


 大穴の空いた地下シェルターの縁から、近衛騎士団や魔術師ギルドの精鋭たちが武器を構え、ヘンドリックを包囲していた。世界樹の根源が放つ圧倒的な魔力に当てられ、彼らの目は完全に血走っている。

 さらにその後方には、国家権力に紛れて機会を窺う黒装束――闇商人の手先たちの執拗な殺気も混ざっていた。


「ひぃっ……! な、なんで俺ばっかりこんな目に……」

 ヘンドリックが光る枝を抱えてガタガタと震えていると、彼の前に、凛とした足取りで進み出た者がいた。

 ルミナリア王女である。


「控えよ、愚か者ども!!」


 王族特有の、空気を震わせるような覇気。

 その一喝に、騎士たちと魔術師たちの動きがピタリと止まった。


「る、ルミナリア第一王女殿下!? なぜこのような泥臭い穴倉に……」

「黙れ! 貴様ら、わらわのもの……いや、妾の『愛する旦那様』に何をしようとしておるのじゃ!!」


 ビシッ! とヘンドリックを指差しながら、ルミナリアは堂々と「旦那宣言」を放った。


「だ、旦那様!? 第一王女殿下の!?」

「そ、それに……こ奴はただの便利屋ではない。先の功績により国王陛下から直々に爵位を賜った『侯爵』ぞ! そなたら、遥かに身分が上の相手に対し、武器を向けて恫喝するなど……不敬罪で全員首を刎ねられても文句は言えぬぞ!」


 ルミナリアの至極真っ当な、しかし国家権力をこれでもかと振りかざした正論パンチが炸裂した。

 すっかり便利屋としてコキ使われていたためヘンドリック自身も忘れかけていたが、彼はれっきとした高位貴族(侯爵)なのだ。


「こ、侯爵閣下!? し、失礼いたしましたぁっ!!」

 近衛騎士たちは一斉に顔面を蒼白にし、武器を放り投げてその場に土下座した。


(……チッ、第一王女に侯爵の盾か。ここは分が悪い。だが、いずれ必ず……)

 国家権力など痛くも痒くもない闇商人たちは、これ以上は悪目立ちすると判断したのか、執拗な殺気を残したまま、音もなく森の影へと消えていった。


 残されたのは、騎士団と共に取り残された魔術師ギルドの面々である。


「で、殿下……! 騎士団は引かせましょう。しかし、我々魔術師ギルドとしては、あれほど高純度な世界樹の根源を、一個人が無監視で保有することを見過ごすわけには……!」

 ギルドの幹部が冷や汗を流しながらも食い下がる。


「……ふむ。確かに、あの枝は国にとっても重要案件じゃな。ならば、そなたらの中から一名、我が屋敷に『補佐兼監視役』として派遣することを許可しよう。それで文句はあるまい?」

「は、はい! ありがとうございます!」


 ルミナリアの提案に、幹部はホッと息を吐いた。


(よし! つまり、この混乱に乗じて新たな女の魔術師が送り込まれる心配はないということですわね!)

(うむ。最近女のライバルが増えすぎておったからな。これ以上ヒロイン枠が増えたら主君の身が持たん)

 エリーゼとサンネが、背後でヒソヒソと安堵の言葉を交わす。

 そして、ヘンドリック自身も『これ以上セクシーな女性キャラとか増えたら、マジでお行儀見習いより過酷な修羅場になる……』と内心で祈っていた。


「では、我がギルドで最も若く、優秀な彼を派遣いたします。……シリル! 前へ!」


「はっ」


 幹部に呼ばれ、前に進み出たのは――銀縁の眼鏡をかけ、神経質そうに眉間に皺を寄せた、若い『男性』の魔術師であった。

 ギルド随一の秀才と呼ばれるエリート魔術師、シリル。


「シリル・アークライトと申します。侯爵閣下、及びルミナリア殿下。本日から世界樹の枝の管理補佐、並びに閣下の魔法の『監視』を務めさせていただきます。……不正や危険な魔法行使があれば、即座にギルドに報告しますので、お見知りおきを」


 シリルは冷徹な声でそう言い放ち、クイッと眼鏡を押し上げた。

 完全に「お目付け役」の堅物オーラ全開である。


「お、おう。よろしく頼むよ。俺、魔法はレベル1しか使えないから、そんな危険なことはしないと思うけど……」

 ヘンドリックが愛想笑いを浮かべながら右手を差し出す。

 シリルはそれを冷ややかな目で見下ろした。


「レベル1? 謙遜も大概になさってください。先ほどあれだけの光の柱を立てておいて……私を試しているのですか?」

「いや、本当だって。魔力をちょっと譲渡しただけで、あとは枝が勝手に……」

「言い訳は不要です。私は私の目で見た事実だけを記録します」


 まったく取り付く島もないエリート眼鏡に、ヘンドリックは小さくため息をついた。


 ――しかし、この時のシリルはまだ知る由もなかった。

 この「魔法はレベル1しか使えない」とぼやく気の弱いおっさんが、理論上不可能な魔法複合を息をするように連発し、自身の魔術師としての常識を粉々に破壊してくる元凶だということを。


 そして数日後には、彼がブラムやロッテと一緒にお茶を啜りながら、「……狂ってますね、あの人」と生温かい目で遠い空を見つめる『不憫な胃痛枠(ツッコミ担当)』へと変貌してしまうことを。


 こうして、王女の権力によってその場は収まり、ヘンドリックの騒がしい屋敷に、新たな男性メンバーが一人追加されることになったのである。

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