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レベル1を35個持ったおっさん、有能すぎて美女三人に包囲される〜レベル10大火力至上主義の世界で裏方が最強だった〜  作者: よっしぃ@書籍化


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第112話:魂の性癖と、ダブル神の誕生

「――よそ見は命取りですわよ、ソロ冒険者さん?」


 気配を完全に断つ【隠遁のヴェール】を纏ったエリーゼが、ヘンドリックの真後ろからサンネの大剣の柄を振り下ろした。

 完全に意表を突いた完璧な一撃。

 誰もがヘンドリックの昏倒を確信した、その瞬間だった。


「……いい所を突いていたんだがな。残念だったな、エルフの美人さん」


 ガシッ!

 ヘンドリックは振り返りもせず、背後に振り下ろされた剣の柄を、いとも容易く片手で受け止めていた。


「なっ……!?」

 エリーゼが驚愕に目を見開く。


「いくら気配を消しても、殺気までは消し切れてなかったぜ。さて、お嬢ちゃんも大人しく石になってもらおうか……ん?」


 振り返り、そのままエリーゼを拘束しようとしたヘンドリックの動きが、ピタリと止まった。

 彼の視線は、エリーゼの顔ではなく、その首から下のつつましい胸元に釘付けになっていたのだ。


「ま、まさか……嘘だろ……」

「だ、旦那様……?」


 ヘンドリックは手から剣の柄を取り落とし、ワナワナと震え始めた。

 そして、岩室中に響き渡るような大声で叫んだ。


「あ……これだ!! これだがやあぁぁぁっ!!!」

「は、はい!?」


 突然の謎の叫び声に、エリーゼは目を白黒させる。


「なんだこの無駄を一切削ぎ落とした、洗練されたラインは! 戦闘において一切の邪魔にならない究極の空気抵抗! まさに神が創り賜うた完璧な機能美!! エルフのねーちゃん、あんたのスタイル、神か!?」

「えっ、あ、ええっと……?」


 呪環の代償によって記憶は完全に改竄されていたが、ヘンドリックの細胞の奥底、魂に深く刻み込まれた『究極のスレンダー好き』という変態的な性癖だけは、何一つ変わっていなかったのだ。


「す、すげえ……俺、お宝よりあんたのそのスタイルに感動してる……!」

 ヘンドリックはすっかり戦意を喪失し、エリーゼの平坦な胸元をキラキラした目で食い入るように見つめ始めた。


(……記憶を失っても、私への愛……いえ、私のこの機能美への執着は変わっていないということですのね……!)


 状況を即座に理解したエリーゼは、困惑しながらも悪女の笑みを浮かべ、わざと胸を反らしてヘンドリックの注意を完全に釘付けにした。


「そこじゃ! 食らえ、国宝の光!!」


 その隙を突き、ヘンドリックの真後ろからルミナリア王女が飛びかかった。

 先ほど適当に縛られただけの拘束を自力で解き、王族に伝わるチート魔道具【万象還元の聖具】を額に押し当てようとしたのだ。


 だが。


「おっと。背後からの奇襲はもう見切ってるぜ」

 ガシッ!

 ヘンドリックは振り返りざまに、ルミナリアの手首を的確に掴み取った。

「なっ……わらわの動きまで……!?」

 その衝撃で、王女の手からペンダントがポロリとこぼれ落ち、カランと乾いた音を立てて岩室の床を転がっていく。


「お前も石に……って、あれええぇぇっ!?」


 ヘンドリックの視線が、再び強烈に吸い寄せられた。

 今のルミナリアは、豪奢なドレスでも、魔法のコルセットでもない。戦闘の邪魔にならないよう実用面を極めた、軽装の身であった。つまり、エリーゼに負けず劣らずのつつましいシルエットが、そこにはあった。


「こ、こっちもスレンダー!! 無駄のない洗練されたラインがここにも!? なんてこった、俺は夢でも見てるのか!?」

「えっ? ひゃっ……!?」


「ここには機能美の神が二人もいたのか! ダブル神だ!!」


 ヘンドリックは感極まり、エリーゼとルミナリアの二人の前で、まるで神に祈るかのように深々と土下座をしてひれ伏し、崇め奉り始めた。


「おおぉ……至高の機能美よ……! 無駄のないまな板の如き芸術的フォルム……! 頼む、俺のソロパーティーに入ってくれ……!」


 最強の男から土下座で崇拝されるエリーゼとルミナリアは、微妙すぎる表情で顔を見合わせた。


「……ルミナリア殿下。私、女として熱烈に崇められているはずなのに、一ミリも嬉しくありませんわ」

「奇遇じゃな、エリーゼよ。わらわも今、理不尽な悲しみに襲われておる。……なぁ、泣いていいか?」


 愛する男が正気に戻る手がかりを掴んだというのに、乙女としてのプライドは粉々に砕け散り、二人はどうしようもない敗北感で涙目になっていた。


 その時である。


「ん? お、なんか落ちてるぞ?」


 二人の前で地面にひれ伏していたヘンドリックが、顔を上げた拍子に、床に転がっていた『何か』に気がついた。

 それは先ほどルミナリアが落とした、【万象還元の聖具】だった。


「なんだこのペンダント、高そうだな。俺のモノに……」


 欲深いソロ冒険者の人格が働き、ヘンドリックが無防備にその魔道具を拾い上げ、素手で触れた。

 ピカーーーンッ!!


「うおっ!?」

 ペンダントから眩い聖なる光が放たれ、ヘンドリックの体を包み込む。

『あらゆる呪いや代償を完全に無効化し、失われたものを元に戻す』というチート魔道具の力が、改竄されたヘンドリックの記憶と魂に直接アクセスし、本来の記憶を無理やり引っ張り出し始めた。


「ぎゃああああっ!? な、なんだこれ、頭に色んな記憶が……! 俺はお行儀見習いから逃げて、便利屋になって……いや、俺は金持ちのソロ冒険者で……!」

 二つの記憶が激しく交差してショートを起こし、ヘンドリックは目を回した。


「……ふぅ。これで元通りですわね。あまり嬉しくない決着でしたけれど」

 エリーゼが深々とため息をつく。

「うむ……機能美などという言葉、二度と聞きたくないわ……」

 ルミナリアも疲労困憊の顔で頷いた。


 かくして、王国を揺るがすトップランカーたちを一人で全滅寸前まで追い詰めた最強のソロ冒険者は、自身の変態的な性癖と、床に落ちていた光る石をうっかり拾うという自爆によって、白目を剥いて気絶するのであった。

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