第11話:泥沼のパーティーと、和気あいあいとした救世主
ヘンドリックたちが街の工房で新たなスキルの調整を行い、充実した数日間を過ごしていた頃。
彼らより数日早くフェルウェ大迷宮へ潜っていたロッテは、文字通り地獄のどん底で絶望していた。
『どうして……どうしてこんなことになっちゃったんだろう……』
薄暗いダンジョンの通路で、ロッテは荒い息を吐きながら短剣を構えていた。
目の前には数匹の魔物の死骸。すべてロッテが一人で処理したものだ。
その後方では、元パーティー【神創の覇星】の面々が、武器も構えずに文句を垂れていた。
「ちょっとロッテ! もっと早く倒せないの!? アンタのせいで魔物の血が飛んできたじゃない!」
「ほんと使えないわね。レベル4のスキルばっかりの中途半端な器用貧乏のくせに」
アホ女トリオからの陰湿な口撃。彼女たちは自分たちでは一切動かず、ロッテを盾にして安全圏から罵声を浴びせるだけだ。
そして、何よりロッテを精神的に追い詰めているのは、リーダーの男だった。
「こらこら、お前たち。ロッテちゃんをいじめるなよ。ロッテちゃん、疲れたろ? ほら、俺が肩を揉んであげるからこっちにおいで。……ん? 汗の匂いもいい匂いだなァ」
ねっとりとした視線で全身を舐め回し、事あるごとにボディタッチをしてくるリーダー。ロッテは鳥肌が立つほどの嫌悪感に耐えながら、必死に距離を取っていた。
戦力にならないどころか、後ろから暴言を吐かれ、さらにセクハラまで躱さなければならない。これなら完全にソロで潜っている方がマシだ。
そしてロッテにとって最も耐え難かったのは、野営の夜だった。
昼間はロッテを巡って痴話喧嘩をしていたはずなのに、夜になるとリーダーと女たちは一つのテントに集まり、毎晩のように生々しい嬌声を響かせていたのだ。
【レベル10】の大魔法の反動や、ダンジョンのストレスを、彼らはそういった『夜の運動』で発散しているらしい。その間、外で見張りを押し付けられるロッテの精神は、もはや限界を迎えていた。
『もう嫌……。ギルドに戻ったら、絶対にこのパーティーを抜ける……。違約金を払ってでも、絶対に……っ!』
だが、ダンジョンは彼女の限界など待ってはくれない。
その日の午後、ついに最悪の事態が起きた。
「ウガァァァァッ!!」
前方から現れたのは、凶暴なオークの群れ。ロッテが短剣と水魔法で必死に牽制するが、数が多すぎる。
「リーダー! 前衛に入って盾をお願いします! 魔術師の人たちも援護を……っ!」
ロッテが叫ぶが、リーダーは「お、俺は後衛を守らなきゃいけないから!」と見え透いた嘘をついて大盾の陰に隠れてしまう。
女たちも「きゃああ! こっち来ないでよ!」とパニックになり、またしても味方の位置を考えずに燃費最悪の大魔法をデタラメに乱れ撃ちし始めた。
轟音。そして立ち込める土煙。
魔法の余波をモロに食らい、ロッテは壁に叩きつけられた。
『あ……痛っ……』
立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
そして土煙が晴れた直後、ロッテは絶望的な光景を目の当たりにした。
女たちのデタラメな魔法のせいで、ダンジョンの壁の一部が崩落。その奥の隠し通路から、さらなる魔物の群れが湧き出してきたのだ。
前方にはオークの群れ。背後からは壁の穴から湧いた魔物の群れ。
完璧な挟み撃ちだった。
「ひぃぃぃっ!?」
「いやぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇ!」
リーダーと女たちは完全に腰を抜かし、尻餅をついて後ずさるだけ。
前も後ろも塞がれ、ロッテの魔力も体力もすでに底を尽いている。
『終わった……。私、こんなクズみたいな人たちと一緒に、ここで死ぬんだ……』
ロッテが死を覚悟し、ギュッと目を閉じた、その時だった。
「おや、エリーゼ。あそこの岩陰に生えてるキノコ、調薬に使えるからちょっと採っておいてくれないか」
「ええ、分かったわ。……あら、ヘンドリック。あそこ、ずいぶん騒がしいわよ?」
前方の通路の奥から。
まるで休日のピクニックにでも来たかのような、極めて和気あいあいとした呑気な声が響き渡ったのだ。
「ん? おお、魔物の群れか。ミラ、ちょっと蹴散らしてきてくれないか」
「はーいボス! お任せを!」
突風のように駆け抜けた獣人の少女が、前方から迫っていたオークの群れを、レベル1の【俊敏】を乗せた圧倒的な格闘術で瞬く間に粉砕していく。
「あ、あれ……?」
ロッテが呆然と目を開けると、そこには、数日前にギルドで隣の窓口にいたはずの『地味な便利屋のおっさん』と、絶世の美女3人、そして……。
「……たく。あのバカ共、また背後を取られてんのかよ。学習能力がねえな」
かつてこのパーティーに居たはずの若き魔法剣士、ブラムが、呆れ果てた顔で大剣を肩に担ぎながら立っていた。
「おや、そこの嬢ちゃん。ひどい怪我だね、とりあえずこれを飲んでおきなよ」
ヘンドリックがロッテのそばに歩み寄り、自作の回復ポーションをポンと手渡す。
絶望の淵にいたロッテの目に、彼らの余裕に満ちた姿が、まるで神々しい救世主のように映っていた。




