第102話:迷宮の極上露天風呂
数時間後。
真層のさらに奥深くへと進んだ一行は、今日の野営地にふさわしい、瘴気の薄い広大な岩洞窟に到着した。
「よし、今日はここまでだね。みんな汗もかいたし、迷宮の瘴気も体に残ってるだろうから……お風呂にしようか」
「お風呂!? 何を馬鹿な、ここは真層じゃぞ!?」
ルミナリアだけが素っ頓狂な声を上げる中、他のメンバーは「待ってましたわ」「やったんだゾ!」と至極当然のように手拭いや着替えの準備を始めている。
「旦那様のお風呂、久しぶりだな! 楽しみだ!」
「ええっ? そなたら、迷宮でお風呂に入るのが当たり前のような顔をしておるが……」
ルミナリアが困惑する中、ヘンドリックは岩肌に手を当てると、【土木建築Lv1】を発動させた。
ゴゴゴゴッ、という音と共に岩盤が滑らかに削り出され、あっという間に巨大な石造りの浴槽と、脱衣所、さらには水洗式のトイレまでが完璧な動線で組み上げられていく。
そこに【水魔法Lv1】で清らかな水を満たし、【火魔法Lv1】で適温に温め、最後に【浄化Lv1】を付与して常に湯が清潔に保たれるように循環システムを構築した。
「はい、完成。ヘンドリック特製・真層の極上露天風呂だよ。もちろん男女別にしてあるし、壁には防音の結界も張っておいたから、ゆっくり入っておいで」
「迷宮の最奥で、一瞬にして極上の大浴場を……!? 道中に出してくれた水洗式の厠もたいがいじゃと思ったが、そなた、やはり神の御業か何かと勘違いしておるのではないか……!?」
ルミナリアが一人唖然と震える横で、ブラムは「おっさん、今日もいい湯加減頼むぜ」と笑い、ヒロインたちは「一番風呂いただきますわ!」と歓声を上げて女子風呂へと駆け込んでいった。
数十分後。
男湯の方で、ヘンドリックは一人、肩までお湯に浸かって至福の溜息を漏らしていた。ブラムは「俺は後で入るから、おっさん先に入っててくれ」と見張りを買って出てくれている。
「はぁ~、生き返る。……たまにはこうして、一人で静かにお湯に浸かるのも悪くないな。スローライフってこういうことだよな……」
迷宮の最奥で、ようやく訪れた一人きりの平和な時間。
しかし、彼が最強の便利屋である限り、その平和が長く続くはずもなかった。
ガララッ!
突然、男女を隔てる分厚い石の壁が、スライドドアのように横に開いた。
ヘンドリックが【土木建築Lv1】で完璧に作ったはずの壁が、なぜか開閉式に魔改造されていたのだ。
「えっ!?」
「ふぅ、いい湯じゃなヘンドリック。背中を流してやろう」
「殿下、抜け駆けはいけませんわ。旦那様、私もお供いたしますわよ」
湯気の中から現れたのは、バスタオル一枚を巻いたルミナリアとエリーゼのつつましい同盟コンビであった。
「な、なんで壁が開くの!? というか二人とも、入ってきちゃダメだってば!」
「ボス! アタシも一緒に入るんだゾー!」
「旦那様! 護衛として、私も混浴の任に就かせていただく!」
さらに後ろから、ミラが豪快に水しぶきを上げて飛び込んできたかと思えば、サンネまでが顔を真っ赤にしながら男湯へと突入してきた。
機能美を極めたスレンダー二人と、暴力的なボリュームを誇る巨乳二人。
四人の美女に前後左右を完全に包囲され、ヘンドリックはお湯の熱さとは全く別の理由で顔から火を吹きそうになっていた。
「だ、誰か助けて……俺、のぼせ死んじゃう……っ!」
真層の恐るべき瘴気も、魔物たちの脅威も、このおっさんにとってはもはやどうでもいい些事であった。
迷宮の底に作られた極上のお風呂は、美女たちの愛とマウント合戦が交差する、逃げ場のない熱湯地獄へと変貌するのであった。




