第100話:完璧に計算された添い寝結界
「じゃあ、俺は入り口の結界の近くで見張りを兼ねて寝るから。殿下たちは残りの大部屋で……」
「……ひぐっ。そなた、わらわとの約束を忘れたのか?」
再び、ルミナリアの瞳に大粒の涙が浮かんだ。
「何かあれば、すぐに引っ張って逃がしてくれると……手を繋いでいてくれると言ったではないか……! こんな恐ろしい迷宮で、わらわを一人置き去りにする気か……っ!」
「いや、一人じゃなくてエリーゼたちもいるじゃん!」
「わらわはそなたの隣がいいのじゃ! ぐすっ……うぅ……っ!」
「ああっ、わかった! 分かったから泣かないで! 隣で寝る! 手を繋いで寝るから!」
ヘンドリックはあっさりと折れた。
それを見たエリーゼが、扇子をパタンと閉じて優雅に微笑む。
「では、私は副リーダーとして、旦那様の反対側の腕を確保しますわね。魔力供給のパイプ役としても、密着していた方が効率が良いですもの」
「えっ……ちょ、ちょっと待って……」
かくして、ルミナリアの狡猾な分断工作と必殺の嘘泣きにより、ヘンドリックは大部屋で女性陣と共に就寝することとなった。
石造りの拠点の中で、就寝の準備が始まった。
「さて、わらわも窮屈なドレスは脱ぐとしよう。ヘンドリック、向こうを向いておれ」
「あ、はい」
ヘンドリックは壁を向く。背後で衣擦れの音が響く。
『……そういえば、王女殿下もサンネたちに負けず劣らずのスタイルだったよな。……いかんいかん、俺は職人だ。裏方だ。変な気を起こしちゃダメだ』
ヘンドリックが必必死に煩悩を振り払っていると、「もうよいぞ」と声がした。
振り返ったヘンドリックは、一瞬、思考が停止した。
「……あれ?」
薄手のネグリジェに着替えたルミナリア王女のシルエットは、日中の豪奢なドレス姿の時とはまるで違っていた。
暴力的なまでの豊満さは消え失せ、そこにあったのは、無駄な肉を一切削ぎ落とした、しなやかで完璧な絶壁一歩手前のラインだった。
「……ふふっ。驚いたか? 王族たるもの、威厳を示すためにコルセットで盛るのは常識じゃからな。だが、就寝時まであんな鎧をつけていては息が詰まるゆえな」
ルミナリアは艶然と微笑みながら、ヘンドリックの隣に潜り込み、その華奢な腕を彼の腕に絡ませた。
「そ、そうだったんですか……。いや、でもその……すごく機能美を感じるというか……!」
巨乳には防衛本能が働くヘンドリックだが、彼の隠れた性癖であるスレンダーを見せつけられ、職人としての審美眼と男の煩悩が激しく揺さぶられる。
そのヘンドリックの分かりやすい反応を見て、ルミナリアは内心でガッツポーズを決めた。
『やはり! 王宮の諜報部を使って調べ上げた情報に狂いはなかった! この男、あのような規格外の肉だるまよりも、わらわやエリーゼのようなありのままの機能美を好む変態的職人思考の持ち主……! 勝てる、これなら勝てるぞ!』
ルミナリアは、反対側に潜り込んできたエリーゼと、ヘンドリックの頭越しにバチッと視線を交わした。
それは、昼間の買収に続く、第二の秘密協定。
すなわち、サンネとミラという巨乳組に対抗するための、知略と機能美を武器とする『つつましい同盟』の結成の瞬間であった。
「ヘンドリック。わらわのこのありのままの機能美、そなたの目にはどう映る……? 存分に確かめてみてもよいぞ?」
ルミナリアが耳元で甘く囁き、わざと薄いネグリジェ越しのつつましい胸を押し当てる。
「殿下、抜け駆けはずるいですわ。旦那様が一番愛している機能美は、私のこの洗練されたラインですわよね?」
同盟を結んだとはいえ、正妻の座は譲らないエリーゼも反対側から密着してくる。
「えっ……ちょ、二人とも……!? なんで急にそんな機能性をアピールしてくるの!? 理性が、俺の理性がショートする……っ!」
どストライクなスレンダー美女二人に両脇を固められ、ヘンドリックの精神力と理性がマッハで削られていく。
「ボス! アタシも一緒に寝るんだゾ! ボスの顔、真っ赤なんだゾ!」
「旦那様、私も脚の方から失礼するぞ! 護衛は完璧だ!」
そこに事情を知らない巨乳組、ミラとサンネが乱入し、ヘンドリックの身体は完全に身動きの取れない美女のサンドイッチ結界へと封印された。
「……俺、一応このパーティーのリーダーなんだけどな……助けて……」
真層の恐ろしい魔物たちよりも、ヒロインたちの知略と性癖を突いた猛攻によって、最強の便利屋の夜は絶望と天国の狭間で更けていくのであった。




