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終わるトキ  作者: 天原 重音
リア編

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48/50

緑の中の緑 ①

 ゲートの先には見渡す限りの草原が広がっていた。 

 頭上から初夏のような陽射しが降り注ぎ、心地良いと感じるそよ風が吹く。余りの眩しさに目を細めた自分は、そよ風で髪が舞わないように手で抑えつつ、空を見上げて思わず目を点にした。


 見上げた空は雲一つない蒼穹だったが、雲の代わりに小島が浮いていた。


 遠未来的な場所から、ファンタジー系の世界でありがちな壮大な自然の中に放り出された気分だ。

 コリフェーオは『直通のゲート』と言っていた。これのどこが直通なのかと思い、嘆息しつつ周辺を見回し、背後を見て再び目を点にした。

「何で、『建物を背にして出る』ようになっているのよ」

 自分の発言通り、ゲートから出ると建物を背にするような位置になっていた。『普通はゲートから出たら、正面に建物があるような配置を、直通と言うべきなんじゃないか?』と疑問を抱いた。

 魔力を流せば良いとしか聞いていなかったが……いや、今になってあれこれと疑問を抱いたところで意味は無い。使い捨ての魔石は既に手元に無い。単純に、繋がったゲートから出た時の位置について考えられていなかっただけの可能性も有る。

 極端な話、ゲートが繋がれば、移動が可能であれば、それで良いと、考えられている可能性もあり得る。

 疑問を感性の違いで捨てて、自分は背後に振り返り、数十メートル先の建物を見上げる。

 ……それにしても、尖塔が幾つもある石造りの城か。外観重視の真っ白な城だけど、瞬きをする度に微妙に形状が変わって見える。幻術にしては、いや、所々左右反転していて不自然なところがあるから、空間が歪んでいるのか? いずれにせよ、規模が大きいな。

 初見で何の術を使っているのかすら判らない外観の城に向かって、自分は歩き出した。



 さて、自分は城に向かって歩き出したが、変化はすぐに表れた。

 数メートルと歩かない内に、目の前の光景が一変した。反射的に足を止める。

 石造りの城は消えて、代わりに洞窟のように暗い、石造りの廊下の入り口が出現した。廊下の突き当りには、重厚な両開きの扉が存在する。

 ……先程の城は幻術だったのか? それにしては、幻術っぽく見えなかったな。

 訳が分からないが、とりあえず扉に向かって歩いた。

「うん?」

 だがしかし、数歩と歩かない内に次の異変(?)が発生した。

 何が起きたのかと言うと、一瞬で、目的地の扉が目の前に移動して来た。いや、この場合は、自分が移動したと言うべきなのか、距離が縮んだと言うべきなのか……。

 目の前で起きた現象は全て、魔力(あるいは魔素)を使った何かしらの術理で発生している。これだけは理解したが、発動の前兆が何一つ感じ取れない。突然やって来る自然災害のようで、反応に困ってしまう。

「移動に掛かる時間が無くなった。そう言う事にしよう」

 不可解な現象を前に、自分は敢えて口に出して、己に言い聞かせて僅かな光源を頼りに扉を押し開けた。

 扉の先は黒一色だ。上下左右、どこを見ても黒い。室内に足を踏み入れたら、背後の扉が消えた。

 唯一の光源が消えた事を受けて、自分は反射的に身構えた。

 

『くくっ、そう身構えるな』


 不思議な声が響いた。

 どこを見ても壁が見当たらないのに、複雑に反響したかのような性別不詳の声。けれども、自分はその喋り方にどこか女性っぽさを感じた。

 一度深呼吸をして、心を落ち着かせた自分は虚空に問いを投げ掛ける。

「緑の中の緑で、合っている?」

『いかにも。我は緑のヴェーダを統べるもの。他者からは緑の中の緑と呼ばれている』

 問いの答えは『イエス』だった。

 この声だけが聞こえる存在が、緑のヴェーダのトップ。

 そして、全ての始まりである、あの男を従えていたもの。

『ふむ。灯りが必要だな』

 緊張で手に汗を掻いたが、緑の中の緑は自分の事など気にせずにそんな事を呟いた。

 直後、視界が白く淡い光で満たされた。

 暗闇から光で満たされる場所に変化したので、目がチカチカするかもと思ったが、間接照明のような淡い明るさだったので、大した事は無かった。

 急に明るくなった事で、判明した事が二つある。

 正面に一人の人物がいた。自分は果ての見えない空間内にいた。

 自分の正面に立つ人物は深緑色の引き摺るような長さのローブを羽織りフードで顔を隠しているので、中身の性別は判らないままだ。けれど、先の呟きを考えると、この人物が緑の中の緑だろう。

 彼我の距離は十メートル程度。自ら歩み寄って、二メートルほど手前で自分は足を止めた。

 ……あれ? 背が低い。

 近づいて判明した事だが、目の前の人物は自分より少し背が高い程度の背丈だった。ローブの上からだが、肩に『女性のような丸みがある』ので、この人物は女性だ。

「確認だけど、緑の中の緑よね?」

「そうだ」

 確認を取ったら、緑の中の緑は肯定した。聞こえて来る声音は、先程と違い女性のものだが、相変わらず年齢だけは把握出来ない。

「何から言うべきか悩んだが、お主に先ずは謝罪をしよう。元所属とは言え、我が派閥に所属していたものが迷惑を掛けた。そして、我らは来たる事態に備えてお主から情報を聞き乞わねばならん。情報の提供を求める」

 自分と正面から向き合った緑の中の緑は、徐にそう言うなり自分に頭を下げた。想定外の事態が発生したので自分は面食らった。

「そう簡単に、派閥の代表が頭を下げて良いの?」

「構わぬ。ベーノ・アウ・マルベーノを巻き込む事態にまで発展したのだ。ベーノ・アウ・マルベーノは使い方を誤れば、世界樹そのものに深刻な影響を与えかねない神剣なのだ。下手をすると、世界樹を生み出した創造神が動く事態を想定せねばならん。我が頭を下げるだけで情報が手に入るのならば安い」

 頭を下げたまま、緑の中の緑はそう言い切った。

 そんな緑の中の緑の姿を見て、自分は呆気に取られた。同時に、派閥の代表に頭を下げさせている、あの野郎の愚行に憤った。

「……あたしも分からない事が多いから、軽く議論したり、単語の意味を擦り合わせながらになるかもしれないけど、それでも良いの?」

「構わぬ。真実に至る手掛かりになるかもしれないからな」

 手探りで集めた情報なので、情報の真偽すらも判っていない。説明の度に単語の意味を教えたりなんだりする可能性もあるので、情報伝達の効率も悪いだろう。

 それでも良いかと尋ねたら、緑の中の緑は『構わない』と回答した。この反応から考えるに、余程情報に飢えているのだろう。

 自分は謝罪の受け取りと情報提供に承諾して、緑の中の緑に頭を上げて貰った。タダで承諾はしない。事後になったが、『呪いを解く手掛かりが知りたいから、手を借りたい』とこちらからお願いした。

「禁呪を解く方法は見つかっていない。だが、弱める方法が見つかるかもしれん。良かろう。あとでコリフェーオに書庫へ案内させる」

 緑の中の緑から『協力する』と取れる言葉を聞き、自分は内心でホッとした。

 だが、緑の中の緑の言葉には、続きが存在した。

「情報交換の前に、一度お主を調べたい」

「――は? あたしを、調べる?」

 予想外の言葉を言われて、自分は目を点にした。自分を調べて何が判るのか?

「それがお主を、ここに招いた最大の理由だ。現物を見せながら説明する」

 緑の中の緑は、自分が驚いている事には気づいている。でも、これから出す現物の方が重要なのか、自分の事は完全に無視された。

 けれども、緑の中の緑が虚空から取り出した物体とその動作を見て、『自分が無視されてもしょうがない』と納得してしまった。

 一見すると、簡単に取り出したかのように見えた。だが、刹那の間に動いた緻密で膨大な魔力の量を考えると、動作からは想像もつかない程に慎重な動作だ。

 そんな慎重さを以て取り出された物体は、所々に亀裂が入った緑色の球体だ。球体の大きさは直径十センチ程度と小さかった。けれど、球体は幾重にも重ね掛けされた封印の術式に包まれている。

 その小さな球体を緑の中の緑は自分に投げ渡して来た。慌てて両手で受け取った直後、球体が白く発光した。

「ふむ。やはりか」

「何が!? 何が『やはり』なの!?」

 緑の中の緑は落ち着き払った声で呟いた。

 対する自分は何が何だか分からず狼狽えた。緑の中の緑に説明を要求したが、自分が回答を得るよりも先に、球体の光り方が変わった。

 球体そのものが光っていたが、亀裂の一ヶ所だけが光るようになった。何がどうなっているのか判らず、自分はただ困惑するしか出来ない。

「その球体は審判者の能力の核だ。その核の持ち主の名はラート。お主に禁呪を掛けた男の名だ」  

「――え?」

 困惑していた最中、未知の情報を明かされて、自分は困惑を深めた。

 自分達がずっと追い掛けていた男の名前で、知ろうとも思わなかった情報だ。

「ラートの能力の核に入った亀裂の数は全部で十個。その中で最も大きな亀裂がお主に反応した。ここまで来たのならば疑う余地は無い。亀裂を埋める欠片が、お主の魂の中に存在する」

 緑の中の緑の発言を聞き、自分は絶句し、思考が理解を拒んだ。同時に、自分は両手で持っていた球体を床に落とした。球体が床に落ちて転がったが、その音は早鐘を打ち始めた己の鼓動で聞こえなかった。

「……それは、どう言う事? 魂に、審判者の能力の核の欠片が存在したって事は、あたしは審判者に近い存在になっていたって事? でも……」

 そうだ。自分が作った武器はあの男に通じなかった。コリフェーオから得た情報と相違が発生する。

「落ち着け。欠片を取り込んだだけでは、審判者になる事は無い。お主を調べる事は他にもある」

「――他にも?」

 軽くパニックを起こしていたが、球体を回収した緑の中の緑の言葉を聞いて疑問を抱き、思考の混乱が止まった。

「そうだ。他にも調べる事がある。済まぬ。お主に伝える言葉と順番を間違えたな」

「……いや、あたしが勝手に取り乱しただけだから」

「お主の今の反応を見れば判る。ラート関係の事が心の傷になっているのだろう?」

「それは」

 否定の言葉が出て来ない。取り分け、霊力関係が問題しかなかったので、どう言えば良いのか分からない。自分はただ沈黙するしかない。

 見かねた緑の中の緑が『休むか?』と聞いてくれたけど、自分は首を振って拒否した。

「あたしも、色々と情報を求めて来たから、一々休んでいたら時間が掛かり過ぎる」

「無理なら我慢せずに言うのだぞ」

「……分かった」

 何度か深呼吸をしてから、自分は緑の中の緑に返事を返した。

 自分が再びパニック状態になる事を考慮した緑の中の緑の提案で、どこからともなく出現した応接セット一式――ローテーブルを挟み、二人用のソファーが対面で置かれた――のソファーに座った状態で続行した。


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