彼らの目的と情報と明かされる真実 ②
話が逸れた、いや、自分が逸らしたのか。
色々と遠回りしたが、コリフェーオ達が取引を無視して、再びこの世界にやって来た理由について尋ねた。
「簡単に言うと、緑のヴェーダの代表――緑の中の緑が『リアに直接会いたい』と言っている」
「あたしには会う理由が無いんだけど」
予想外の事を言われて、自分は思わず半目になった。そもそも、直接会いたいって、何よ?
「リアに会って、直接確認したい事があるんだと」
「あたしの拒む権利は?」
「無い。俺ら以外にしつこく付け回されるだけだから、諦めろ。ま、会って損は無いし、派閥の中で最も禁呪について詳しい人物だ。知りたい事を聞く良い機会だぜ」
コリフェーオから『拒否権無し』ときっぱりと言われてしまい、自分は本気で悩んだ。
「確認だけど、今すぐに出発するの?」
どこからか、ガタッと、幻聴が聞こえたけど、幻聴だから聞かなかった事にした。
「流石に都合はそっちに合わせる」
今すぐに出発とならなくて内心で胸を撫で下ろした。同時にどこからか『よ゛がっだ~』と声が聞こえた。
自分と同じ幻聴がコリフェーオにも聞こえているのか、一瞬だけ眉が動いた。眉が一瞬だけ動いただけで、コリフェーオは何も言わなかった。
何も言わなかった代わりに、コリフェーオはどこからともなくエメラルドによく似た大粒の石を取り出した。
「こいつは緑の中の緑のところへ、直接繋がる門を開く魔石だ。魔力を流せば簡単に使えるが、一度しか使えない使い捨てだ。やる事を全て済ませてから使え」
「コリフェーオ、その言い方だと戻って来れないとも取れるけど?」
「世界間の時差を考えろ。下手をすると、年単位で時差が発生する時もあるんだ。戻って来た時に知り合いがいない状況になりかねないぞ」
すっかり忘れていた世界間の時差についてコリフェーオから指摘されて、自分は何も言えなかった。
時差について考えるのならば、戻って来ない方が良い時もある。どれだけ滞在するか不明だが、戻って来たら百年もの時間が経過していたとか、そんな状況になってしまう未来とか考えたくもない。
「でも、やる事を全て済ませてからになると、数年後になるかもしれないけど良いの?」
自分は魔石を受け取ってから、コリフェーオに確認を取った。
現在自分が抱えている仕事について考えると、一年・二年程度では終わらない。最低でも五年以上の年月を必要とする。
「その辺の心配は不要だ。流石に百年後に訪れるなんて事にはならないだろう? 数十年程度なら、審判者からすると、誤差範囲内だ」
「誤差の範囲がやたらと広いけど、流石に百年後に行くって事にはならないわね」
百年後は平均寿命を超えている。今の職場の定年退職まで残り時間について考えると、長くても五十年だ。でも、そこまで長くここにはいられない。
自分の変わらない外見について言及を受ける前に移動する事になる可能性が高い。そうなると、緑の中の緑の許へ向かうのは遅くても十年後だ。早いと一年後になる。
この辺りは、ヒース大佐達と相談してから決める事だ。現時点で回答する事ではない。
「ま、緑の中の緑が『何時でも良い』って言ったんだ。やり残しを全て終わらせる事に集中しろ」
念を押すように、コリフェーオはそう言ってから徐に立ち上がった。そして、向かいの席に座るグーフォの首根っこを掴んだ。そのまま猫のように持ち上げる。
「俺らに用があるとか言っていただろ? ユカリ、あとは頼んだ」
「分かったけど、グーフォも連れて行くの?」
「連れて行く。こいつの破壊活動について言われる可能性が高そうだからな。一先ず、頭を下げさせる」
「……頑張れ」
コリフェーオは子猫を運ぶ要領で、グーフォを連れて部屋を出た。
ユカリは自分と一緒に部屋に取り残されたが、こちらはこちらでやる事があるらしい。
自分は魔石をテーブルの上に置き、サンドイッチを一切れ食べてから、ユカリに向き直った。
空気を察したのか、ユカリも自分に向き直った。
「何から話すべきかと思ったけど、お互いに自己紹介からやり直そうか」
自分に向き直ったユカリの第一声は、提案だった。
ユカリは黒羽紫と改めて名乗った。
審判者になる前は日本人だった事。
仕事帰りに緑のヴェーダに所属する審判者が実行した実験に巻き込まれて、コリフェーオに救助された事。
故郷だった世界が実験で滅びてしまい、行く当てが無くコリフェーオの部下として身を寄せている事。
そして、コリフェーオの部下になる際に審判者になった事。
普段から紫と名乗っているのは、審判者の名が当人の能力を表す言葉でもあるので、保有する能力を隠す為らしい。
これに関しては紫が特別特殊な能力を持っているから――と言う訳でもなく、名前の隠ぺいに関しては個人の自由らしい。
グーフォもまた、紫と似たような経緯でコリフェーオに拾われた元人間だった。紫と違う点は、グーフォが相対した審判者の所属が青のブルゥアだった事か。
紫から情報を得た自分は、先の戦闘でグーフォが真っ先に狙われた理由について察した。
……グーフォが元同胞の能力を継承しているから、狙われたのか。
元敵だった奴の能力を保有していると言う事は、敵に能力の情報がバレているも同然だ。元同胞の能力を把握していない派閥は、流石にないだろう。
それ以前に、『仲間の能力を把握していない』などと言う馬鹿はいない。
ここまで考えて、コリフェーオから聞きそびれた事でもある事に気づいた。
六徹夜明けの限界が近づいているのか、頭の動きが鈍っている。自分は道具入れから遮光小瓶を取り出して、中身を一気に飲み干した。
「何を飲んだの?」
「エナジードリンク。三日三晩は不眠不休で動けるタイプ」
即答したら、紫の顔が引き攣った。
ヒース大佐に隠れてこっそりと調合した、見た目はエナジードリンク風の一品だ。一度だけ、これを間違えてスウィフト大尉に飲ませてしまい、エライ事になったんだよね。ヒース大佐に滅茶苦茶怒られて、スウィフト大尉は号泣するわで、大変だった。
ちなみに、たった今飲み干した一本で最後だ。
「こっちはもう、六徹夜しているのよ。飲まないと頭が動かない」
「そんなお酒じゃあるまいし……。そんな状態で良く来れたね」
紫が引いている。いや、普通は引くか。
一週間近くも寝ていない人間が、応援として戦闘に参加したと聞かされたら、どう考えても驚く。自分だったら『今すぐ休ませろ!』と言って追い返すぞ。
眉間と左右の蟀谷をよく揉んだ自分は、頭を軽く左右に振ってから紫に向き直った。
「一つ、聞き忘れていた事があるんだけど」
「その前に、仮眠を取らなくても大丈夫なの?」
「アンタ達が帰ったあとで寝れば良い。今は質問が先。コリフェーオも審判者になる前は人間だったの?」
少し冴えて来た頭で、自分は思い出した疑問を口にした。
「それは本人から聞いて欲しいんだけど。私も、龍神のハーフって事しか知らない。マスクの下はリザードマンか、レプティリアンって感じでね。コリフェーオも周りの目を気にしているみたいだから、マスクに関しては何も言わないであげてね」
紫の表情を見て、自分は質問に失敗したと感じた。
龍神のハーフで、マスクの下が人間と酷似していない。
この二点からコリフェーオが審判者になった経緯を何となく察してしまった。ついでにコリフェーオのマスクは外さないのではなく、外せないものだった。コリフェーオの初対面の相手や周囲に対しての配慮が窺える。
シ〇ン〇ンによく似た龍は、コリフェーオが龍神とのハーフである点から『龍化』したものだと理解出来る。
以前クラウスから、『ハーフで龍化(もしくは竜化)するのは、他種族の血が混じっているからか難しい』と聞かされた覚えがある。
龍化に多少の時間を要しても、可能とする点を考えると、コリフェーオの技量の高さが窺えた。
紫から『他に質問は無いか?』と聞かれたが、現時点で思い付く質問が無いので断った。
それどころか、戦闘中の記憶すら曖昧になって来た。エナジードリンクの効果が薄れて来た証拠だ。体力を回復させる治癒魔法(上級)を己に掛けて意識を保つ。紫が半目になっているけど気にしない。
機会が有ったらもう少し強い効果を発揮するエナジードリンクを作るか。一ヶ月ぐらい寝なくても良いタイプか、十日ぐらい不眠不休で動けるタイプのエナジードリンクを作ろう。勿論、中毒が出ないタイプのものをだ!
質問の時間が終わったら、次は紫からの『緑のヴェーダの活動』についての説明が始まった。
派閥の方針に『もう一つの世界樹を創ろう』なんてぶっ飛んだものが入っている派閥なだけあり、緑のヴェーダの主な活動は『知識技術の収集と実験と研究』だった。
その実験と研究を行う過程で、『世界単位で色々とやらかし、禁忌と定めた技術に触れる』輩が多かった。
紫とグーフォも所属する、コリフェーオを中心とした緑のヴェーダの内部組織『エクゼクティスト』が、やらかした奴の捕縛や処刑などを行っている。
このエクゼクティストの仕事の範囲は、対象の捕縛と処刑以外に、各世界の協力者からの要請にも応える。時には、協力者を得る為に活動する時もある。
紫からの説明を聞き、自分はずっと探していたあの男の行動について思い出した。
あの男の自分を見る目は、常に『何かを観察する』ようなものが多かった。つまり、他人を使って実験を行っていた。その事実に思い至ったが、あの男は一つ前の世界で、自分の目の前で死んだ。真実を知る機会は、とうの昔に消えている。自分に掛けられた呪いの種類から、男の実験内容を推測したくとも、呪いの全貌が把握出来ていないので、現時点では不可能だ。
だが、緑のヴェーダのトップに会えば何か判るかもしれない。自分はテーブルの上に置いた魔石を見た。
……どの道、緑の中の緑に会いに行くしかないのか。
己に――否、自分達十人に掛けられた呪いについて知る為にも、会う必要がある。
緑のヴェーダは呪いの術式を保管していた派閥だ。呪いに関する情報が残っている筈だ。緑の中の緑が呪いに関する情報を持っていなくとも、交渉して情報を得なくてはならない。
……こうなったら、気が重いけど腹を括るしかない。情報が全く無かった状態から脱却出来るかは不明だし、振出しに戻る可能性の方が高いけど。
けれど状況を変える為には、緑の中の緑に会うしかないのだ。
ここにいない残りの九人に情報を伝えるかは、全てが終わってから考えれば良い。
――全てを教える必要は無いのだから。
このあと、気晴らしに残りのサンドイッチを紫と二人で分け合いながら食べつつ、雑談に興じた。
紫の故郷の地球が、自分の故郷の地球と同じとは限らないけど、話が合うって言うのは良いね。特にサブカルチャー関係とか。
サブカルチャー関係で紫と盛り上がった。
紫から『ラ〇ト〇イ〇ー』の作り方について質問を受け、『球体を細長く伸ばせば良いんじゃないの?』と返した。『ラ〇ト〇イ〇ー』では無いが、過去に似たようなものを習作として作った経験がある。その経験を基に、光属性の補助魔法の一つで、刀身の拡張や折れた剣の先に刃を生やす『白刃』が誕生した。
道具入れから鉄扇を取り出して実演すれば、紫のテンションは上がった。
そして、現在自分が六徹夜した原因にもなった、パワードスーツと設計図を出して、紫と軽く議論する。
第二の鎧として作ったのに、先の戦闘では使わなかった。着込む時間が無かっただけだが。原始魔刻印術の技術を完全に排除した新しいものを作り直すかも検討しよう。
紫と二人で第三のパワードスーツの設計図を引いていたら、グーフォを連れたコリフェーオが戻って来た。
コリフェーオからジト目を頂戴したので、自分は無言で設計図を片付け始めた。その間に紫がコリフェーオに話しかける。
「コリフェーオ、上との話し合いは終わったの?」
「終わったぜ。グーフォの破壊活動については、対象が犯罪組織の拠点だったから見逃して貰えた。今後は正確な報告をしろ」
「……分かった」
グーフォが頷くまでの沈黙は少し長かった。グーフォはすぐに返事を返さなかったので、コリフェーオから制裁として両頬を抓られた。
二人がじゃれている様子を見ながら、自分はコリフェーオに確認を取る。
「アンタ達は帰るのね?」
「帰るぜ。今後この世界にはもう来ない。次に会うのは、俺らの拠点に来た時か、別の世界で偶然会う時だな」
コリフェーオの発言は、かつて自分と取引した内容を守るものであるが、上との話し合いで今後の協力が得られなかったとも取れる。
この大陸は生活水準が高く、魔法関係の技術と科学技術のレベルの差は近いが、ファンタジーとSFのハイブリッド世界と呼ぶには、ファンタジー要素が少ない。何とも微妙な世界だ。
紫が椅子から立ち上がり、コリフェーオとグーフォに合流する。
コリフェーオが世界から去る為のものと思しき白く輝く、向こう側が見えないゲートを開いた。そのまま三人でゲートを通るのかと思いきや、コリフェーオが自分に振り返った。
「リア。一つ聞くが、緑の中の緑には、会うんだよな?」
「会うよ。会って、聞かなくてはいけない事があるからね」
コリフェーオの問い掛けに、自分は即答した。
「そうか。んじゃ、待っているぜ」
自分の回答に満足したコリフェーオは、背を向けて今度こそゲートを通って去った。グーフォは無言でゲートを通り、紫は自分に小さく手を振ってからゲートを通り抜けた。
紫が通った瞬間、ゲートは音も無く消えた。
三人がこの世界から去った。
一人部屋に残された自分は、椅子とテーブルを片付けて、コップと皿とウォーターサーバーを回収して、隣の部屋に戻った。
部屋にヒース大佐はいなかった。残されていたフルード大尉とスウィフト大尉に尋ねると、上の人達と会議中らしい。
隣の部屋から持って来た三種類は、空いているテーブルの上に置いた。そして、出発前のように魔法で姿を隠して、仕事着に着替えて、机に戻った。
中断していた仕事を再開しようとした矢先、突然近づいて来たフルード大尉に手にした書類を取り上げられた。余りの素早さに対応出来なかった。
「リア。仮眠を取らなくても大丈夫なのか?」
「この仕事量を考えると、仮眠なんて取れないですよ」
フルード大尉から書類を取り戻してから、自分は仕事を始めた。
しかし、一時間後。
会議から戻って来たヒース大佐が、着替えて仕事を再開している自分を見て『今日は早退して寝ろ!』と頭を抱えて絶叫を上げた。
その十分後。フルード大尉が運転する車で、自分は寮に送り出されたのだった。
寮の個室に辿り着いた自分は、気力と根性を振り絞ってシャワーを浴びて、夕食まで眠りに就いた。




