彼らの目的と情報と明かされる真実 ①
ヒース大佐に戦闘終了の連絡を入れたら……滅茶苦茶心配された。
数ヶ月前のグーフォとの夜間戦闘で血塗れになり、その数週間後の戦闘でも、服が血塗れの状態で帰還した。
二度も自分がそんな状態になった連中と一緒に戦闘に出向いた。
三度目が起きたのかと心配されるのは、ある意味当然だ。
『確認するぞ。敵が撤退した事で戦闘は終了した。協力を求めて来た奴らから聞く事があり、庁舎の屋上を借りたい。んで、聞かれたくない事を質問するから屋上を封鎖して欲しい。これで合っているな?』
「はい、合っています」
ヒース大佐の確認を肯定すると、大きなため息が聞こえて来た。
『色々と言いてぇし、言いたい事が沢山あるが、とりあえず、仕事部屋に戻って来い』
「ヒース大佐? 室内ではなく、屋上で良いんですけど……」
『俺だってな、そいつらに言いたい事があるんだよ。特に、研究所の破壊活動について』
ヒース大佐の言いたい事を自分は理解した。同時に、グーフォの破壊活動の内容について思い出す。
一時期、グーフォは犯罪組織の研究所を破壊して回っていた。
活動の目的は自分のクローンの抹殺だ。本来ならば国家が対応すべき事を、グーフォが好き勝手やった。
その結果、各地で混乱が発生した。
自分の推測になるが、ヒース大佐はこの辺について言いたいのだろう。
『俺が連中に言ったあと、リアが聞かれたくない話をするのなら、近くの部屋を貸し切る』
「ヒース大佐、本気ですか?」
『俺は本気だ。さっさと戻って来い』
この言葉を最後に、ヒース大佐との通話は切れた。
場所を借りるつもりだったのに、何故こうなった?
軽く息を吐いた自分は、一先ず戦槌を返却し、『菊理』と名乗って(この四人以外がいる時は『リア』と呼ぶように頼む事も忘れない)から、コリフェーオにヒース大佐の言葉をそのまま伝えた。
ヒース大佐の言葉を聞いたコリフェーオは困惑した。だが、補足情報――主に、グーフォの破壊活動について――を自分が伝えると、納得したコリフェーオはグーフォの頭に拳骨を落とした。
頭に拳骨を貰ったグーフォは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。グーフォは痛みに口元をへの字に曲げて、コリフェーオに抗議の声を上げる。
「こひぃふぇーお、にゃにをしゅる?」
拳骨を頭部に貰った際に舌を噛んだのか。グーフォの喋り方がおかしくなっていた。だが、コリフェーオはグーフォの事など気にもせずに、蟀谷を痙攣させている。
「……グーフォ。何をじゃないんだよ。そんな報告は聞いていないぞ! 何で黙っていたんだよ!?」
「ほーほひゅたいひょうにゃのか?」
「報告対象だよ! あー、もうっ」
グーフォに対して怒鳴ったコリフェーオは両手で頭を乱雑に掻いた。その姿は、まるで『頭を抱えている』ようにも見えるから不思議だ。
ユカリが舌を噛んだグーフォの治療をすべく、魔法を発動させようとしたがコリフェーオに止められた。
……舌の痛みが罰なのか? 何と言うか、子供っぽい罰だな。
最初に会った頃のグーフォはどこに消えたんだろうね。そうとしか思えない。
一頻り頭を掻いた事で、コリフェーオは落ち着きを取り戻した。
「……何時までもここにいる訳にはいかねぇ。移動するぞ。移動先はククリを回収した時の部屋で良いんだな」
「そこで良い。改めて人に聞かれたくない話をする時には別の部屋を貸し切ってくれると聞いた」
「分かった。気は重いが、行くぞ」
足元の氷を溶かす事を忘れず、コリフェーオが作ったゲートを通り、自分は帰還した。
部屋に帰還した自分の頭に降って来たのは、……ヒース大佐の拳骨だった。
自分の頭に拳骨を落としたヒース大佐は、今度はコリフェーオに掴み掛った。コリフェーオの服装はボディスーツっぽいものなので胸倉は掴めない。その代わりなのか、ヒース大佐はコリフェーオの両肩を掴んだ。
ヒース大佐は物凄い剣幕でコリフェーオの肩を掴んで前後に揺さ振りながら、グーフォが出した被害範囲と被害総額をノンブレスで言った。
ヒース大佐の剣幕に驚いたのか、それともグーフォのやらかしが想定外だったのか、コリフェーオはされるがままだった。
フルード大尉とスウィフト大尉は『我関せず』と言った顔で書類仕事を続けている。よく観察すると、二人揃って耳栓を使用していた。
ユカリは『あちゃ~』と小声で言いながら額に手を当てていた。グーフォは無表情だ。
自分はヒース大佐が落ち着くまで放置する事にした。言いたい事を全部言わせた方が後腐れが無いしね。
そして、ヒース大佐が言いたい事を全て言い切り、肩で息をするようになった頃。コリフェーオは漸く解放された。
この間、ユカリとグーフォはコリフェーオの助けに入らなかった。いや、『ユカリがグーフォを止めていた』が正しいか。ユカリもヒース大佐に言いたい事を全部言わせた方が良いと判断したんだろうね。
気が済むまで色々と言ってスッキリとした表情になったヒース大佐は、自分にカードキーを押し付けた。
「隣の部屋を貸し切った。込み入った話はそこでしろ。水と軽食は用意したから好きに食って良いぞ」
「ありがとうございます」
胃が軽食を受け付けるか怪しいが、飲用可能な水があるのは純粋に嬉しい。
ヒース大佐に礼を口にしたが、言葉には続きが存在した。
「ただし、そこの三人が帰る時には一度こっちに顔を出せ。上もそこの三人に言いたい事があるらしい」
二段ぐらい低い声で、ヒース大佐はそう言った。
ヒース大佐の言葉を聞き、コリフェーオは天井を仰ぎ、ユカリは額に右手を当てた。グーフォは無反応だが、心底嫌そうな空気を醸している。
時間が勿体無いので、自分は動こうとしない三人を連れて、隣の部屋に移動した。
廊下には誰もいなかった。自分は三人を連れて隣の部屋に移動した。
一応、諜報部系の部署が存在する階なので、資料室階か、臨時作業室階のような扱いを受けている。その為、この階に訪れる人は少ない。
初めて入る隣の部屋は手狭なミーティングルームだった。
中央に設置された正方形のテーブルの脇には、小さなウォーターサーバー(ペットボトル系の容器がそもそも存在しないのに、プラスティックに似た容器が使用されている)が設置されており、テーブルの中央には軽食のサンドイッチ(具材はハムとチーズのみ)が十数切れ乗った大皿が置いてあった。
部屋の片隅に置かれていた積み上げ収納式の椅子を四つ並べて、ステンレスによく似た四つの金属カップに水を入れて配る。
誰からともなく、四人で水を一気に飲み干して一息吐いた。
「コリフェーオ、アンタよくヒース大佐に手を上げなかったわね」
自分は右隣に座るコリフェーオを見て、感心の声を上げた。
「……たまーに、あんな感じの協力者に会うんだよ。だから、色々と吐き出させた方が良いってのは判る」
「協力者ねぇ」
コリフェーオの言葉を聞き、自分は室内のどこかに設置されているであろう『盗聴器』についてどうするかを考えた。部屋と軽食類が用意されていたのだ。盗聴器類が設置されていると考えるべきだろう。
盗聴器を探し出して停止させた方が良いかもしれない。盗聴器の設置を指示したのは上層部だろうし。
でも、深入りさせない為の警告として、放置するのが良いよね。
今になって疲れを訴える体に鞭打って、盗聴器を探し出すのは……正直に言うとメンドイ。上層部がどう判断するか知らないけど、関わりたくない。
四人で水をお代わりして、自分はサンドイッチを三切れ頬張り、胃が空腹を訴えるのを阻止した。
「聞きたい事があるんだけど」
「お前がリッデルと呼んでいた大鎌――アヴィーダ・セルポ・ランツォと、俺らがここに来た理由だろ?」
「その他にも、さっきの戦闘で気になる事があった。グーフォはあたしと同じ霊力持ちだよね? 危険予知が出来る筈なんだけど」
「……それか。確認だが、リアは霊力についてどこまで知っている?」
「自分の体で試して調べた事しか知らない。霊力にまつわる情報が入手出来た回数が少ないわね。魔法の強化って言うか、進化させる? あとは、やたらと魔族に狙われたわね。後天的に霊力を手にした場合用の停止術式が存在するとか」
「殆ど知らないのか。予知が出来るって事は、霊視、過去視、未来視、千里眼、透視とかも使えるんだな?」
「使えるわよ。他にも滅多に使わないけど、降臨術とかも使える」
「そこまで霊力が使えて、切り替えが出来るって事はグーフォの何万倍の量を持っている事になるんだか。……グーフォの霊力量は少ないんだ。霊視、千里眼、透視の起動と停止の切り替えとかはな、ある程度の量が必用なんだ。百を最大とするのなら、最低でも二十ぐらいの量が必要となる、割と高等技術の分類に入る」
コリフェーオの口から予想外の事を聞かされて、思わず目が点になり掛けた。
……おい、今の説明が正しいと仮定すると、グーフォが持っている霊力量って滅茶苦茶少ないって事? しかも、霊視のオン・オフの切り替えが高等技術?
真っ当な比較対象者に会えた事がないから、自分の技量がどの程度なのかも判らずにいた。
ここに来ていきなり『気軽にやっているそれは高等技術だ』と言われても、素直に喜べない。
ため息を吐かないようにする為に、グーフォが予知出来ない理由についてコリフェーオに確認を取る。
「つまり、グーフォはその二十に相当する量を持っていないから、危険予知が使えないって事?」
「そうだ。降臨術に至っては相性の問題もあるから、使い手がいるなんて聞いた事が無いな」
「マジか」
嫌な事を聞いた。
自分が保有する霊力は『本来ならば任意で代償を対価に得る』ものだ。
その霊力は、自分の与り知らない間に『前払い』で代償を支払われ続けた結果、保有する霊力量は膨大になっている。ここまで膨大な量を誇ると、日常生活にまで支障を来すレベルだ。
霊力のおよそ九割を封印しているお陰で、『外見に異常がないまま』転生先で誕生が可能となっている。
「危険予知に必要な霊力量だが――」
「ごめん、霊力に関してここまでで良い」
コリフェーオの言葉を食う形で、自分は待ったを掛けた。
「説明を聞かなくて良いのか? 霊力に関しては何も知らないんだろう?」
「ごめん。精神衛生的に悪いからそこまでで良い。それに霊力で、今言った奴以外で、他に出来る事は無いんでしょ?」
「その通りだが、良いんだな?」
「うん」
念を押して確認を取るコリフェーオに対して、自分はただ頷いた。
……霊力について知らなかったとは言え、余計な事を聞いたなぁ。
霊力について何も知らないからと言って、気軽にこちらから質問した事を自分は深く後悔した。
再びコップの水を一気飲みしてから、自分は改めてコリフェーオに質問を行った。
リッデル、いや、正式名称は『アヴィーダ・セルポ・ランツォ』だったな。
名前が違えば別物と勘違いする審判者がいるかもしれないので、普段の呼び名は『リッデル』のままだ。そんな間抜けな審判者がいるのかと思ったけど、情報に疎い奴は本当に疎いらしい。
その証拠がグーフォだった。
そうだよね。最初に会った時に、自分はリッデルを振り回した。
グーフォは自分が言うまで忘れていたらしい。自分の斜向かいに座るグーフォはコリフェーオに怒られた。
話を戻して。
アヴィーダ・セルポ・ランツォに関わる正確な情報――自分が魔力を流しながら『アヴィーダ・ランツォ』と唱えると、能力はそのままに、槍に形状を変える。元に戻す時には『アヴィーダ・セルポ』と唱えれば良い――を受け取った。
実際にリッデルを宝物庫から取り出して言われた通りに唱えた。リッデルは形を槍に変えたが、……槍と言うよりも、鎌刃が半分に割れて穂先の左右に移動するので、見た目は中華系の武器の『方天戟』に近い。
でも、唱える度に柄の赤い紋様が明滅するのは、どこをどう見ても『自爆の予兆』にしか見えないんだよね。
リッデルを元の形状に戻してから宝物庫に仕舞った。
次の質問は、コリフェーオ達が来た理由ではなく、思い出した事に関する疑問だ。
「……悪い。もう一回言ってくれ」
「だからね。半死半生の審判者に、普通の攻撃が通じた事があったの。使用済みの鍵の神剣で首を切り落とす事も出来た」
少し前の人生――使用済みの鍵の神剣を受け取った世界、審判者についての情報を得たあの世界の事だ。
自分は、半死半生の死に掛け状態の審判者を一人殺している。
何故、今になって思い出したのかは判らない。けれども、思い出したからには、コリフェーオの発言との矛盾について知っておきたい。
コリフェーオの発言との矛盾点について知る為に、自分は思い出せる範囲で全てを語った。
自分の過去語りを聞いたコリフェーオは『そう言う事か』と一人納得していた。
だが、ユカリとグーフォの二人は知らないのか、自分の正面に座るユカリはギョッとした顔になり、その左隣のグーフォは椅子から立ち上がった。
「確認だが、その審判者はリアと戦う前に誰かと戦っていたか?」
コリフェーオは二人を落ち着かせてから、自分に質問を返した。
自分と戦う前に『誰かと戦っていたか?』か。
「確か『管理化身同士で仲間割れが起きた』って、聞いたけど……」
「あ~、それだな」
「どう言う事?」
仲間割れが起きた。
コリフェーオはこれだけで何が判ったと言うのか?
「仲間割れが起きた。それはつまり、『同じ派閥に所属する審判者同士で殺し合った』って事になる」
「……は? 管理化身同士の仲間割れなのに?」
管理化身同士の仲間割れ。これだけでも十分意味不明だ。
けれど、コリフェーオからすると、これだけで分かる模様。
「通常、管理化身は『一つの世界に一人しかいない』んだ。だから、管理化身同士で仲間割れは基本的に発生しないし、発生しようがない」
「起きない筈の事が起きたから、審判者同士の争い――いや、殺し合ったと考えるのか」
審判者は管理化身としての資格を持った上位の存在だ。だから、管理化身同士で仲間割れが発生する。
「そうだ。俺の推測の域を出ないが、多分これで合っている。審判者同士の殺し合いで、審判者を審判者たらしめる力の核が破壊された。力の核を破壊された審判者は審判者としての活動は出来ない」
「? つまり、……簡単に言うと、審判者として在り続ける為の核が破壊されて、……そうか。審判者としての力を失った『元』審判者だから、あたしでも斃せたのか」
「そうだ。お前が斃したのは『審判者だった存在』だ。核を破壊された審判者は、基本的に審判者とは呼ばれないから、元審判者とでも呼ぶか」
「審判者って、核を破壊されたら死ぬんじゃないの?」
「基本的にはそうだが、リアが斃した奴はどんな体をしていたんだ? ゴーレム化していたとか、言っていなかったか?」
コリフェーオの指摘を受けて、自分は己の疑問の答えに辿り着いた。
「体を別の無機物に置き換えていたから、生きながらえる事が出来た?」
自分は口に出してコリフェーオに確認を取った。視界の隅でユカリが『やっぱりか』と呟き、コリフェーオは頷いた。
「そんなところだな。確認だが、どこの派閥の奴か覚えているか?」
「……黒だった」
「黒か。黒は術者が多くて切磋琢磨している奴が多かったな。知識面と技術面で他の派閥よりも進んでいるから、生体部分の割合を多少無視した術の行使は可能だな。審判者としての力の核を失ったとしても、審判者だった頃に培った経験や力量は消えない。だから、半死半生の状態でも多少の無理は可能となる」
コリフェーオの解説を聞き、『確かに強かったな』と自分は思い出した。
……あの実力が審判者として培ったものだとするのなら、マジで良く勝てたな。
グーフォを始めとした審判者達との戦闘を経験して、生き延びた今だから、しみじみと思い出せる事だ。
「それにしても、黒の連中で仲間割れが起きるとは珍しいな。リア、何が原因で仲間割れが起きたか知っているか?」
「詳細は知らないけど、選定の儀絡みなのは確かだね」
「冗談だと言って欲しいぜ」
審判者だからか、コリフェーオ達三人は選定の儀についてやっぱり知っていた。審判者としての一般知識なのかもしれない。
「仲間割れが発生して管理化身が変わり、守護者が召喚された。んで、選定の儀は中途半端な状態で停止した。痛み分けみたいな状態だね」
「痛み分けで片付けて良いか怪しいが、そう言う事にしておくか」
選定の儀の停止は、その代の管理化身の死を意味する。
自分が『痛み分け』と称したのは、この事実を踏まえて『時間を越えて共に死んだ』からだ。
選定の儀について知っているからか、コリフェーオは痛み分けの意味について言及して来ず、『それにしても』と言葉を続けた。
「それにしても、リアは随分と詳しく知っているな」
「選定の儀については、管理化身から一度聞く機会があった。審判者関係の知識は、殺した黒所属の審判者の記憶を見て情報を得た」
「随分とまぁ、生々しい事をしたな」
「必要だったからやった。あいつが、あたしが追い掛けていた奴について知っていたから、やる事にしたんだけどね」
「成程、口を滑らせたから、記憶を読み取る事にしたのか」
コリフェーオは感心しているようだが、どこか『うわぁ……』と言った空気を醸している。感心とドン引きが半々だな。




