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終わるトキ  作者: 天原 重音
リア編

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審判者達の再訪 ④

 グーフォと共に移動した先にいた最後の敵は、騎士としか表現のしようが無い外見の男だった。 

 結い上げた長い銀髪、切れ長の碧い目、白銀に輝くロングソードと鎧。神殿騎士を連想させる男だ。

 ま、審判者である以上、元普通の騎士では無いのは確かだろう。

 その証拠……と言う訳では無いけど、コリフェーオの背中に隠れるユカリを見る目が少し気持ち悪かった。

「コリフェーオ、あの男で敵は最後なの?」 

「多分な」

 グーフォに続き、自分も敵と睨み合う双剣を持ったコリフェーオに近づいて質問を投げ掛けた。しかし、その回答は曖昧だった。

「断定しなさい」

「無理だ。野郎の部下の、追加の人員がどこにいるか分からん」

「使えないわね。こっちは、仕事を放り出して来ているのに」

 コリフェーオの詳細な回答を聞き、自分は舌打ちをした。ついでに左手で持っている大剣でコリフェーオの背中を突いた。

 審判者同士の戦闘空域が大陸に移動したら、被害は甚大なものになりかねないから、己の意思で来た。けれど、戦闘の終わりが見えないのは予想外だ。

 既に六日も徹夜している身なので、下手に戦闘が長引くと疲労で倒れそうだ。

「その大剣、レグレーソは死んだのか」

「誰の名前よ?」

「多分、お前がグーフォと一緒に斃した奴の名前だな」

「……そう」

 正面から響いた声に対して、自分は素直に疑問を口にした。誰の名前か分からない。間髪入れずに、コリフェーオから疑問の回答がやって来た。

 疑問の回答を得て思う。死んだ奴の名前とか、絶対に忘れる。顔すら記憶に残っていないし。

「この世界にも協力者がいたのか」

「いるから、何だって言うんだ? そっちにだって協力者はいるだろ」

「そこの娘のように、戦闘可能な協力者は少ない。それが、霊力持ちとなれば尚更希少だ」

 敵はそう言うなり、自分を見て目を眇めた。

 状況的に仕方が無いとは言え、コリフェーオ達の協力者扱いされて不快な気分になった。更にねっとりとした視線を浴びて、気持ち悪さから自分は思わず顔を顰めた。

「気持ち悪いから、あれはぶん殴っても良い?」

「殴る分には構わないが、先ずはその剣を寄越せ」

 コリフェーオの言葉に従い、自分は左手に持っていた大剣を素直に渡した。

 この大剣が欲しいのならば、この戦闘が終わったあとに、コリフェーオと交渉すれば良い事だ。こんなところで剣を渡したくないと駄々をこねる必要は無い。

 それに右手に持っているのは、両手を使って振り回す戦槌だ。片手で振り回すには限界が有る。

 コリフェーオは双剣をユカリに返して、大剣の柄を握った。霊力が無いと真価を発揮しないとは言え、普通の大剣としての機能が失われた訳ではない。

 大剣を構えたコリフェーオとは対照的に、敵(名前は知らん)は泰然自若としていた。右手に持ったロングソードすら構えない。

 コリフェーオの発言通りに、どこかにこいつの部下が待機していそうだ。これで部下がいなかったら、こいつは一人で四人同時に相手が出来ると確信している事になる。

 それが己の実力に対する『絶対の自信の表れ』なのか、あるいは『単純な慢心』か。それは分からないが、コリフェーオとユカリを二人同時に相手取っていた点を考えると、見た目以上に強いと見て良いだろう。

 でも、この男が一向に動きを見せない点が気になる。

 顔を少し正面に傾けて、魔法を使い未来を視る。

 数分近く先の未来を視たら、意外な光景が視えた。

 

 自分を含めた四人の中で、真っ先に狙われたのは――グーフォだった。


 一瞬意味が解らなかった。けれど、グーフォが持つ武器の能力について思い出すと、ある意味当然かもしれない。しかし、何かが引っ掛かる。

 ……でもこの四人の中で、一番弱いのは審判者じゃないあたしだよね? ユカリに出して貰った武器を使わないと、攻撃は入らない。ぶん殴って気絶させる程度の事しか出来ないのに。

 現状、自分は殴打以外に攻撃手段を持たない。殴打の手段も、他者から借りている武器を使用して初めて可能となる攻撃手段だ。

 対するグーフォは、自分と違い審判者だ。保有する大剣は魔法を分解し無力化する能力を持っている。

 自分ではなく、グーフォを狙う理由は何だ? 騎士のような見た目の割に、魔法が得意なのか?

 答えは無いまま、敵の姿が消えた。

 未来を先に視て知っていた自分は魔法を――グーフォを中心に球体状に障壁を展開した。

 直後、何かが弾かれる音と舌打ちが響き、一拍遅れてグーフォが気づいて慌てた。

 そんなグーフォの様子を見て、自分はとある疑問を抱いた。


 グーフォは自分と同じ霊力保有者だ。

 霊力を保有しているのならば、自分と同じように『危険予知が出来る』筈だが、どうなっている?


 自分の能力を基準にして物事を考えると、高確率で物事を誤認する事は判っている。

 戦闘が終わったら直接聞くしかない。リッデルの事もそうだが、戦闘終了後に聞く事が多いな。

 でも今は、目の前の戦闘に集中するしかない。

 敵の背後へ空間転移魔法で移動して、戦槌を振り下ろす。当然のように敵は回避したが、気にせず戦槌を振り回す。

 自分の戦闘の役割は、グーフォと共同戦線を張った時と同じだ。要するに、自分以外の三人が攻撃を行う隙を作れば良い。

 戦槌を振り回し、時に目潰しの魔法を使い、休む事無く敵への攻撃を続ける。

 自分が繰り出す攻撃の合間に、コリフェーオとグーフォが大剣を振り回し、ユカリの支援魔法が飛ぶ。

 三方向からの攻撃を受けても、敵は動じない。けれども、必ずと言っても良い法則が見えて来た。

 ……三方からの一斉同時攻撃だと、必ず『グーフォを攻撃して』包囲網を突破する。

 自分を選ばない理由が解らない。

 感覚での判断だが、コリフェーオは自分とグーフォよりも強い。一番弱いのは、審判者に通じる攻撃手段が乏しい自分だろう。

 高純度の魔力の塊による攻撃手段と聞くと、最上級攻撃魔法を重力魔法で十数発分圧縮すれば作り出せるかもしれない。だが、作り出した直後、大部分の魔力を消費する。

 事前にコリフェーオから、魔法の無駄撃ちは控えろと言われている。実行する気にはなれなかった。

 目潰し系の効果を発揮する魔法を使いながら、自分は戦槌を振り回した。



「しつこいな」

 コリフェーオと鍔迫り合いをしている真っ只中、敵が渋面を作ってボヤいた。

 イマイチ攻め切れていないこちらからすると、嫌味にしか聞こえない。しかも、グーフォが頸動脈ギリギリを切り裂かれてしまった。グーフォはコリフェーオの指示で治療役のユカリと共に後ろに下がった。

 自分とコリフェーオはグーフォの治療が終わるまで、敵を釘付けにする必要がある。休み無く執念深く執拗に、攻撃を繰り出さねばらなくなった。

 ここで、『休み無く~』の文言のところでね、脳裏には『積み上がる仕事の山』を思い浮かべてしまった。スウィフト大尉が泣きながら書類を片付けている姿を連想してしまう。

 ……早くこいつを()らないと、徹夜残業が自分を手招きしている。何としても、早急にこいつを()って仕事に戻らないと!

「そう言うのなら、とっとと本拠地に帰れよ」

 自分が戦闘と全く関係の無い事で焦っていた間、コリフェーオは敵のボヤキに対応していた。

「はっ、部下の損失を手土産にする訳にはいかん。最低でも、そこの協力者の女の情報を持ち帰らねば、割に合わん」

「だとよ」

「冗談抜きで気持ち悪いから帰れ」

 敵の言葉を聞いた自分は、戦槌で背後から敵の頭部を狙う奇襲を仕掛けた。だが、自分が戦槌を振り抜く直前、コリフェーオが自分を見たので呆気無く敵に回避された。

 ただ一度、攻撃を回避された程度で下がったりはしない。時間を縮める時間魔法『石火』を連続使用して、己の動きを加速させて敵に追い縋る。

 戦槌を振り回す事六度目で、敵はロングソードの腹で戦槌を受け止めた。

「しつこい! やたらと頭を狙いおってっ」

 戦槌の打撃面と剣の腹で、鍔迫り合うように押し合う。力負けしないように、自分は限界ギリギリまで身体強化魔法を己の体に掛けて対応する。

「煩い。気絶するまで頭を殴れば気絶するんでしょ?」

「何を言っているのか自覚しているのか!? いや、それ以前に正気か?」

 この野郎。六日も徹夜している自分に向かって、『正気か、否か』を尋ねて来た。ブチッと幻聴を聞いてしまった。全能力を向上させる魔法『星虹(せいこう)』を、己に多重掛けして戦槌を押し込む。

 現在、身体強化魔法をギリギリまで掛けているので、十秒を越えたら自分の体のどこかに異常が発生する。

 故に、数秒間だけしかこの魔法は使用出来ない。この数秒の一撃は色んな意味で重い。気炎を吐いて、戦槌の柄を握る手に力を込めた。


「正気を残して、徹夜残業から逃げられるかぁあああああっ!!」


「貴様は何を言っているっ!?」

 戦槌を横にずらしてロングソードの腹を素通りし、何故か動揺した敵の顔を真正面から戦槌の打撃面で捉えた。そのまま全力で振り抜いた。同時に、星虹の効果が切れた。若干の疲労感を感じるが、まだ戦える。

「ん?」

 だが、頭部を殴ったにしては余りにも軽い手応えに、思わず疑問の声が漏れた。手応えの軽さ以外にも、奇妙な事が発生した。

 頭部を殴られたにも拘らず、敵は怯みもせずに反撃して来た。思わず背後へ飛び退った。

 何が起きていると、回避ついでに敵から距離を取って確認してしまうのはある意味当然だと思う。

「――はぁ!?」

「クソッ、首が外れるとはな……」

 敵は眼下の海へ落下する生首を猛スピードで回収するなり、アリウープのような感じで掴んで投げて、首の断面を合わせて繋いだ。

 何とも理解し難い状況を見て、目が点になりそうになった。けれども、呆けている場合ではない。自分は敵から視線を逸らさずに説明を求めてコリフェーオを呼んだ。

「コリフェーオ!」

「あの野郎は元首無し死霊騎士。頭を狙っても外れるだけだぞ」

「最初に言えぇ!!」

 今更過ぎる情報を口にしたコリフェーオに向かって自分は怒鳴った。

 敵の情報を聞かなかった自分が悪いのかと思ってしまうが、首を殴り飛ばしても平気な敵がいるなんて、事前に教えられないと気にも掛けないよ。

 自分は慌てて追撃を仕掛けようとしたが、背後から何かに掴まれた。肩を掴まれたのではない。腕ごと胴体を掴まれた。己の体を見下ろすと、鋭い爪と空色の鱗を持った巨大な指が自分の体を掴んでいた。頭上から巨大な影が差し込んで来た。

 影の正体を求めて首を動かすと、巨大な何かが空中に存在した。全貌が判らない。一枚当たりの大きさが、自分の身長ほどの大きさを持つ、蛇の鱗にも似た空色の大きな鱗が見えるだけだ。

 自分の頭上から差し込んで来た巨大な影は敵にも届いた。敵はこれまでに見せなかった焦り顔になる。

「コリフェーオ! 貴様――」

『悪いな』

 コリフェーオの声音で、脳内に直接響くような声が聞こえて――視界が真っ白に染まった。否、視界を埋める程の極太の白いレーザー光線としか思えない、真白の閃光が眼前を駆けた。


 敵は逃げる間も無く、一瞬で閃光に飲み込まれた。

 閃光が通り過ぎたあとには何も残っていなかった。

 

 そして眼前を駆けた閃光は海面に着弾するも、巨大な水柱が上がる事は無かった。

 何故、水柱が上がらなかったのかって?

 閃光は超低温だったのか。閃光が着弾した部分の海面だけが、一瞬で凍り付いたのだ。

 僅かな時間で、訳の分からない事が連続して起きた。そろそろ説明が欲しい。

「コリフェーオの『龍化』を見るのは久し振りだけど、相変わらず凄いね~」

 説明を欲求した時、暢気な声が響いた。誰かと思い、首を動かすとグーフォを連れたユカリの発言だった。

「ねぇ、そろそろ放してあげたら?」

『そうだな。その前に降りるぞ』

「どこに降りるのよ?」

 ユカリの声に対応したコリフェーオの声に、未だに掴まれたままの自分は思わず疑問を口にした。

 自分の疑問に回答は無く、下腹部を撫でるような浮遊感と共に降下が始まった。そよ風が肌を撫でる。一応、コリフェーオは自分に気を使っているのか、落下速度の割にそよ風しか感じない。

 数十秒程度の降下を経て、凍った海面に降り立った。

 降り立った場所の氷は見た目以上に分厚かった。ブーツの爪先で叩くと、堅い感触が伝わる。四人が氷の上に立っても割れたり沈んだりはし無さそうだ。

 安全を確認した自分は空を見上げて、目を点にした。

「色違いのシ〇ン〇ン?」

『……ユカリも同じ事を言っていたけどさ、シ〇ン〇ンって何?』

 そう、某格闘技漫画に出て来る『願いを叶えてくれる龍神』の色違いとしか思えない、胴体が蛇のように長い空色の龍が蜷局を巻いた姿で宙にいた。

 この龍がいる代わりに、コリフェーオの姿が見えない。

 敵は殺れたのかとか、この龍は何なのかとか、そもそもお前らは何の用でこの世界に戻って来たんだよとか、この三つを始めとした、様々な疑問が頭の中をぐるぐると回る。

 疑問が纏まらない中、空色の龍が一瞬だけ白く発光した。次の瞬間、龍は消えて、代わりにコリフェーオが出現した。

 ……空色の龍の正体は判明したけど、この三人がこの世界に来た理由は判明していない。それに、あのユカリって女は一体……?

 聞かなくてはならない事が存在するのに、次から次へと疑問が湧いてしまう。

「ふぅ、久し振りに龍化したぜ。集中する時間を作ってくれてありがとな」

 コリフェーオは自分に対して礼を言い、両手を組んで軽く伸びをしている。その姿は人間と変わらない。でも、龍化したと言う事は、コリフェーオは『龍種に関係する種族の出身』と言う事になる。

「コリフェーオのドラゴンブレスは相変わらずの威力だね。仕留めたの?」

 ここで漸くユカリとグーフォが氷の上に降り立った。グーフォは体の左半分を血で赤く染めているけど、ユカリの治療が終わったからここに来たんだろう。

「いや、直前で逃げられた」

 ユカリの質問に対して、コリフェーオは首を横に振って否定した。ユカリがコリフェーオに投げ掛けた質問は自分も抱いたものだ。だからこそ、追わなくても良いのか考えてしまう。

「連中は放置で良いの?」

「構わねぇよ。レギオの野郎が退いたんだ。他の奴も『撤退した』と考えて動く」

「レギオ?」

「あの騎士野郎の名前だ。そういや、急いで来たから野郎どもの事を殆ど教えずに来たんだったな」

 そう言ってから、真剣な眼差しをしたコリフェーオは自分に向き直った。自分は反射的に戦槌を構えたが、コリフェーオから聞き出さなくてはならない事が大量に存在する事を思い出して、戦槌を下ろした。

「その前に、色々とお前に教える事が山積みなんだよな……」

「長話になるのなら、場所を変えたいんだけど」

 コリフェーオから聞き出さなくてはならない情報について考えると、立ち話では終わらないだろう。座り話をするとしても、氷の上でするのは、ちょっとアレだろう。冷たいし。

 場所変えを提案したが、意外にもコリフェーオは拒まなかった。

「俺らは押し掛けたも同然だ。そっちの都合に合わせるが、良い場所があるのか?」

「その前に戦闘終了の連絡を入れたい。その時に場所を借りれられるか相談するから、ちょっと待ってて」

「分かった。グーフォの治療具合を見て待っている」

 コリフェーオに待たせる事への了承を取ってから、自分はヒース大佐に連絡を入れた。


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