日見国の国守美原野高見様の深慮
余の第一のお方様の発案により、那加国の中将加賀美経宣様が久我根館を訪問された後、国府にご挨拶に来られた。
中将様は沢山の随行者を連れ、那加国の威勢を感じさせる数多の贈り物も持参された。
ほとんどが女人が喜ぶ贅沢な装飾品や沢山の絹織物である。
お方様や女官達は、贈答品を見るや目を輝かせたので、さぞかし手に入れ難き舶来品や都で作られた品々だろう。
中将様は、那加国の国守東藤春宣様の第一のお方様の御実家である加賀美一族の一の殿にして、若くして軍の中枢たる中将の位に就かれている。
那加国の国守様の覚えもめでたき中将様であり、那加国でも随一の色好みと名高い美男だ。
中将様が余の館に入られると、周りの女官や侍女達から驚きの声が上がった。
余も見れば、なるほど実に立派な風采の若殿様ではあった。
然しながら、己の出自、権力、美貌を恃みて自信に満ちあふれ、妙に馴れ馴れしげに余に語りたるは片腹痛し。
余のお方様が年甲斐もなく、中将様の手を取らんばかりに喜ばれるのも見苦しい。
中将様はまず那加国の強大さを語り、己の地位を誇った後で、日見国の産物を褒められた。
そして久我根館の富貴を褒めた後で、刀自様の養女であるかぐや様との縁組みを申し出られたのだ。
中将様は己が申し出れば、どのような事でも叶うべしと信じる様子で、余が許可は既に決まりたる如く話される。
余のお方様も、我が意を得たりと大きく頷かれた。
しかしその時(畏れながら)と、一の殿高継様が異議を唱えた。
かぐや様は一の殿にお輿入れされるべしと言うのだ。
更に三の殿高至様まで(畏れながら)と言い出すに到っては、余も事態の混乱をどうすべきか迷う程であった。
取り敢えず殿様方を下がらせ、中将様の随行者も下がらせた上で中将様の本意ををお聞きした。
中将様は如何にかぐや様を思慕されるかを滔々と語り、もし輿入れされれば日見国に相当な贈答をされると言う。
以前の争いで那加国になりたる土地を返しても良いとさえ言われた。
そして決して諦めぬと固い決意を語り、もしかぐや様と縁組みの叶わざれば武力を使っても己の意志を通すと、余を半ば脅迫した。
余は決して脅迫には屈さぬ。
中将様がへりくだりて、伏して懇願されれば考えぬものでも無きに、大国の力を使い上から己を通そうとしても、余は簡単には屈さぬ。
ただ、中将様の願いを拒めば必ず那加国との戦いは避けられぬであろうし、かぐや様を一の殿に輿入れさせても、三の殿に輿入れさせても、今度は日見国の兄弟同士で争いが起きよう。
一の殿高継様にはお方様より理を諭して頂き、かぐや様の輿入れを諦めさせよう。
いずれ那加国か都のお貴族様の有力な姫を娶る事が一の殿に課せられし義務なのだ。
三の殿高至様は母上に似たあのご容貌であるから、かぐや様の好意は頂けまい。
他の姫との婚姻すら難しいものを、何故そのように高望みなさるのか。
二の殿高雄様はかぐや様のお顔を見なかったと言う。
二の殿が執着せざるは、そのせいであるのか。
それにしても、色好みと世に知られたる中将様を始め、見た殿方を皆虜にするかぐや様とは如何なる美女なのか。
あと五日後に、久我根館でかぐや様の裳着の式が開かれる。
余が裳着親としてかぐや様を見れば、その真偽は明らかになろう。
ともかく日見国に争いを起こしかねぬ『傾国の美女』は、避けるのが良策だ
ここはやはり以前に考えていた通りに、かぐや様を那加国に輿入れさせた後、那加国が更に日見国を侵略する時には、密かにかぐや様を害し奉り、その罪を那加国に負わせ、月の軍勢に那加国を滅ぼさせる策を使うのが最適であろう。
裳着の式の前に久我根館に行きて、刀自様と相談致そう。
刀自様の実の娘ではなく養女であれば、刀自様も利害によって余の策に協力してくれるであろう。




