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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第三章 かぐや様の覚醒(?)
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刀自様とまつ様は徹夜明けでした

次の日、北の対の塗籠で気持ち良く目覚めたあたしは、すぐ側の自分の居間に向かう。

すずちゃんにいつもの朝の支度をしてもらい、朝食のお粥を食べていると、まつ様がやって来た。


珍しく眠そうで、白塗りの化粧も禿げかかって目の下に黒いクマが出来ている。


「あら、まつ様、ゆうべはよく眠れませんでしたか?お疲れのご様子ですね」


あたしにとってまつ様は侍女だけど、習字や琴の先生であり、年上でもあるので敬意を表してずっと『まつ様』とお呼びしている。


「はい、ゆうべはかぐや様へのお文のお返事を如何にするかで大層悩みまして、刀自様ともご相談して遅くなりました」


しまった。寝不足はあたしのせいだった。

だけど、どうせ儀礼的な手紙だろうから、パパッとお返事を書けば良いんじゃないかな。


「それはご面倒をおかけしました。あとでお昼寝でもして下さいね」


「今はお客様も多くて、そのような暇はございませぬ」


あ、ほんと、失礼しました。ごめんなさい。

あたしは暇でも、侍女達は大忙しですね。


今日は中将様が国守様にご挨拶に行かれるそうで、久我根様も同行される。

中将様は今夜は国府にお泊りになって、明日また久我根館に戻ってきて泊まり、明後日に那加国に帰られるそうだ。


位の高いお客様がいらっしゃると、随行者や従者の方も多いので、侍女はその方達の世話も多くなって忙しい。

帰られてからも片付けが大変なようで、すずちゃんもずっとあたしに付いていることも出来ない。


そういう時あたしは、刀自様の乳母子で侍女のうめ様と一緒に刀自様の居間にいるか、一人で塗籠に入っている。

うめ様は東の対で巽様の侍女をしていたのだが、巽様が侍所に小さい曹司(部屋)を頂いたので、また刀自様の侍女として戻ってきたのだ。


中将様と久我根様が国府にお出かけになり、中央の寝殿が静かになると、刀自様が北の対に戻って来られた。


あたしは刀自様のお居間に呼び出される。

お説教に違いない。


あたしが言い訳を考えながら刀自様の前に座ると、刀自様は眉間をぐりぐりと押さえている。

刀自様も睡眠不足らしく、疲れたご様子だ。


「刀自様もゆうべは遅くまでお仕事で、お疲れのご様子ですね」


刀自様はギロッとあたしを見た。怖い。


「かぐや様はご自分が何を為されたか、お分かりか?」


「刀自様にご迷惑をおかけしてごめんなさい」


取りあえず謝ろう。


「これをご覧なされ」


刀自様の横の大きな衣装盆に、沢山の紙包みが積み上がっている。

すごい量だが全部手紙のようだ。


「これが総て、昨日から今迄にかぐや様宛てに届いたお文でございますが!」


何ですって!そんな大量の手紙がどうして一日で届くのでしょうか。


「中将様は元より、一の殿高継様、三の殿高至様、その他那加国より随行されし武者や殿方、高継様に随行なされし殿方よりお文を頂きました。皆様、それは熱心なる求婚のお文でございます」


嘘!なぜそうなるんだろう......あたしは誰にも求婚されないようにと思って『姫様の禁止行動一覧表』を破りまくったのだ。


「かぐや様は後先を考えず、誰にも相談せずに危なき事をなさる。ご自分の勝手なる行動が、どのような重大事に繋がるか、よく考えねばなりませぬ」


「はい、済みませんでした」


「姫様はむやみにお顔を人前に出されたり、お声を聞かせたりしてはならぬと、刀自はあれ程注意致しておりましたのに」


「だって、刀自様やあかね様は普通に外にも行かれますよね」


「だって、ではございませぬ。第一、刀自やあかねと比べてはなりませぬ。お立場が違いすぎます」


「立場が違うって、どう違うのでしょう?」


刀自様は深いため息をつく。


「そういう所でございます。かぐや様は余りにご自分を分かっておられない。

......ようございますか」


「はい」


「未だ人にかぐや様の真実のお姿が見えぬ時ならば、かぐや様はご自分のお好きな方と縁を結ばれて、人に知られずひっそりと暮らせたかも知れませぬ。

然しながら、絶世の美女、傾国の美女と世に知られ、殿方の熱き視線を集める今となりては、お姿を外に現されれば益々殿方の熱が高くなるは必定」


「あたしはそんな美女じゃないし、姫様らしくないことをすれば失望されると思ったんです」


「美女かどうかは、かぐや様が決める事ではありませぬ。皆が恋焦がれる美女が為すことは、規範に合わずとも逆に懸想の熱を高めるのです。

現にかぐや様が歌いし謡は、ゆうべ早速踊り手が真似を致しました。

宴の終わる頃には皆様が(夏の夜はまだ宵ながら)と歌っておりました」


そういえばアイドルが変な服を着ていると、それが新しい流行になったりするんだった。

あたしの歌や踊りもこの国の流行になるんだろうか。


「確かにかぐや様の謡と舞は、刀自が見ても素晴らしく美しい技でございました。刀自ですらそう思うのであれば、殿方は如何に思われるでしょう。

かぐや様は満場の殿方の胸に消せぬ火を燃やされたのです」


あたしの思いつきの歌と踊りが、そんな事を引き起こしていたなんて想像もしてなかった。

刀自様とまつ様は沢山の手紙の山を目の前にして、ゆうべは寝られないくらい大変だったんだ。

あたしは塗籠の中で何も知らずにぐっすりと寝てしまっていたけど。


「中将様は今日国守様に会われて、おそらくかぐや様との婚姻を願われるでしょう。そうなれば事は国家の問題となります。もう誰にも止めることなど出来ませぬ」



あたしが巽様と結婚できるように、あと一年だけ誰とも結婚しないようにと思ってしたことが逆効果だったなんて!




巽様の曹司は、薄い板や襖で区切られた畳二枚分の狭い部屋で、プライバシーなど有りません。

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