↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第三章 かぐや様の覚醒(?)
64/82

那加国の中将様の加賀美経宣様

我は人も言い、自らも世に名高き色好み(風流人)の中将と思いしに、今日の心の動揺(ゆらぎ)はどうしたことか。


日見国に、月の国よりかぐや姫様が降臨され、世に稀なる美女との噂は以前より聞き及びしが、いずれ名を騙(かた)りたる食わせ者に相違無しと思いたり。


日見国の第一のお方様ききょう様よりお文を頂きたる時も、戦の前の偵察に丁度良しと来てみれば、なんと噂は真実であった。


我は那加国の偉大さ、繁栄の有様、文化の面でも大国と日見国の者共に見せつけるため、繊細にして豪華な贈り物を数多く持参した。


北の小国の日見国であるし大した事は有るまいと軽視していたが、今回初めて久我根館に来てみれば、鄙《ひな》には稀な広大にして雅な屋敷だ。


屋敷の中の装飾なども中々で、やはり黄金や銅(あかがね)を産し、馬の牧場をも持つ久我根館は富貴の館であった。


歓迎の宴も旨い酒と肴を揃えてあり、国府より招きし踊り手は、それなりの美しさであった。

普段であれば踊り手が宴の酒の相手を致し、そのまま朝まで共に過ごす事も多いが、この度は踊り手に(美しきお殿様よ)と橈垂(しなだ)れかかられても煩わしとばかり思えたり。


宴の半ばでかぐや様が部屋を去られしが、その折のかぐや様のご様子が想像を絶する美麗さで、他の者は全て霞みてしまいぬ。


かぐや様は、珍しき唐渡りの螺鈿を用いし絹張りの扇を掲げて部屋の中央に立たれると、清く澄んだお声で謡を歌われ、天女のような舞を舞われたのだ。


かぐや様が舞いながら歌われた謡は、初めて聞きし謡なれど誠に優雅極まりなく、天上の楽とはこのようなものかと自然と悟られるものであった。


かぐや様は、雪の如き白きお顔に涼やかな切れ長の目元で、口に僅かに紅を差し、漆黒の髪が背に広がりて、未だ御歳十二歳にもかかわらず、誰にも負けぬ際立つ美しさが感じられる。


まだ裳着の式の前でこの美貌なのであるから、もし眉を描きお歯黒などの化粧の後は、どれほどの秀麗なるか想像したるだけで眩暈がする。


美しき扇を持たれて、上へ下へと波打つように舞われた時に、かぐや様のふっくらと白い小さなお手は袖口よりこぼれ、妖しき官能の炎を我が胸に点じたのだ。


舞いの最後にかぐや様がくるりと回られて、我を流し見てふっと微笑まれし時は、我が魂が抜け出るようであった。


我は初めて真に美しきものを見て、全身が総毛立つという経験をした。

我が身が我が身ならざる思いをしたのも初めてであった。


その場にいた男達は全て同じ思いに到ったであろう。

かぐや様がその場より歩き去って初めて皆の緊張からの強張りが溶け、今見たものは真実見たものであったか、それとも美しき幻かと疑いしほどであった。


その後で聞いた琴の音も優雅で、かぐや様は欠点の無き噂以上の美麗なる姫である。

美しきと評判の姫でも実際に会いて見れば、己の美しさばかりに驕(おご)りて人の気持ちを顧りみない者や、機知に欠けて面白みの全く無き人形のような姫も多い。


しかるに、このかぐや様は、姫の規範を破ることも恐れず人前で優雅に舞い、惜し気もなく清らかなる声を聞かせる。

舞いの最後に莞爾と笑いたるは、総てかぐや様が勝利を確信なさった故に違いなし。


確かにその通り、我も、あの場におりし誰もが、自らの負けを認めたり。

さすがに月の国の姫だけあって、話しても手応えのある、恋の駆け引きも簡単には行かぬ相手となりぬべし。


かぐや様は数多くの殿方より求婚されても、未だに誰とも縁を結ばず拒みたるは、我にとっては攻略し甲斐のあるというものだ。


我は生まれてこの方、言い寄りて拒まれしことは一度も無し。

既に他の殿方と縁を結びたる方でも、言い寄れば色良きお返事が頂ける。


女人の方より靡(なび)かれし事も限り無し。

もはや余りにも楽に手に入りたるは詰まらぬと思うほどである。


この久我根館にいるうちに、情のある雅な文を出したり、我の美貌と権力を見せ付ければ、必ずやかぐや様は我に靡くであろう。


日見国の国守様やききょう様にお口添えもお願い致そう。

明日は国府に行きて国守様にお会いし、お話申し上げねばならぬ。


もし万が一、かぐや様が傲慢な思い上がりで我を拒むことがあれば、その時は武力を持ってしてもかぐや様を手に入れずにはおかぬ。


今、鷹狩と称して、少なからぬ武者を国境に程近き野に伏せてある。

那加国は田植も麦の収穫も終わりたれば、武者の将官のみではなく、普段は農作に就きたる兵を動かすことも容易い。


しかるに、日見国では麦の収穫も未だ終わらず、武者は有りとも農作に忙しき兵を集める事は難かしかろう。

今、日見国を攻めれば、久我根館ごとかぐや様を手に入れ、黄金も銅も馬さえも手に入るのではないか。


むろん、我はかぐや様を手荒に扱いて、嫌われることは避けたきが、このまま手を拱(こまね)いて、他の男にさらわれる事だけはどうしても我慢ならぬ。


まさに『傾国の美女』とはかぐや様に相違なし。

我は如何なる手を用いても、かぐや様をこの胸に抱かずにはおかぬのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。