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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第三章 かぐや様の覚醒(?)
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東の対にも北の対にもプライバシーはありません

北の対に移ってみると、建物の基本的な造りは東の対と同じだったので、部屋の内部はすんなりと馴染める。

もちろんプライバシーが無いのも同じだ。


ただ、東の対では格子を上げると庭園が見えていたが、今は目の前に大きな主殿がドーンと建っているので、母屋の裏側しか見えない。


他の違いは、台所が近いので時々食べ物を調理する匂いや煙がただよって来るとか、北側の馬場に近いので、馬の走る音が大きく聞こえる事だろうか。


北側の塀には使用人が使う通用門もある。

台所だけではなく、食材や道具を入れておく倉庫なども並んでいて、北側は確かにごちゃごちゃした印象だ。

すずちゃんは台所が近くなったので、仕事が楽になったと嬉しそうだ。


刀自様は、毎日忙しく駆け回っているので、日中はほとんど北の対にいない。

侍所を事務室に使っていて、東の対の端にも応接室として使える居間を作ったそうだ。


刀自様が北の対に戻られるのは夜に眠る時だけで、それも随分と遅くなってから戻られる事も多い。

巽様は刀自様の護衛をしているので、刀自様が北の対におられる時は、北の対に入る廊下の端で控えている。

夜遅くになると宿居の武者と交代するのだ。


巽様と密かに結婚の約束をしてから、あたしは毎日雲の上をフワフワと歩いている気分だった。

いつも巽様のことばかり思い出すし、知らず知らずのうちに巽様の姿を探している。


三の殿高至様から頂いた恋文の中に、何を見ても、何を聞いてもあたしの事を思い出す、と書いてあったけど、その気持ちは本当によくわかる。


また巽様と二人きりで会いたい、話をしたい、どうしてもそう思ってしまう。

せめて高至様とのように、毎日巽様と恋文を交わせたら、どんなに嬉しいだろう。


そのためには自分で手紙を読んだり、書いたりしなければならない。

あたしは草書体の練習を必死にするようになって、まつ様に誉められたのだ。



北の対への移動が落ち着いた頃、また国府から通知があって、那加国の軍の有力者である中将様が久我根館にお越しになるそうだ。


中将様は国守様の第一のお方様ききょう様の甥で、そのため従兄弟に当たる一の殿高継様も接待のため久我根館に来られる。


なんでも中将様は那加国で一番の美男で、一目見た女性はあっという間に中将様の魅力の虜になると言う。

日見国でも中将様は色好み(風流人)として名高く、第一のお方様は美男の代名詞として『中将様』を使うらしい。

どんな素晴らしい殿様なのかと、久我根館の侍女達もお会いできる日を楽しみにしている。


この頃久我根館には高貴な方々が何人もいらっしゃるので、接待役の久我根様や刀自様の責任は重い。

特に今は、那加国との争いが始まるか、収まるかの重大な局面らしく、中将様の接待をくれぐれも充分にするようにと国守様よりもお言葉があり、接待のための特別予算も賜ったようだ。


すずちゃんによれば、初めて見る食材が運ばれて来たり、下働きの男女も増え、台所周辺は活気が溢れているそうだ。


侍女達は新しい着物を縫うので大忙しだ。

あたしも少しは手伝おうと思って針を持ってみる。


「すずちゃん、ここを縫えば良いんだよね......このぐらいの針目で良いかな......あれ?......これってずれてる?」


「かぐや様、裁縫は急がぬ時に始めましょう。今は琴の練習をなさいませ」


まつ様にやんわり邪魔だと言われてしまった。


久我根館中が大騒ぎで接待の準備をして、いよいよ那加国の中将様が久我根館においでになる日になった。

久我根様と美原野高継様が国境までお迎えに出るそうだ。


中将様が久我根館に着く前に、中将様からの贈り物が母屋に運び込まれて並べられる。

ここでどれだけ素晴らしい贈り物を並べられるかが、お客様の実力の見せ場になっているらしい。


中将様の贈り物は唐錦(からにしき)五反、唐綾(からあや)五反、平絹十反、装飾鏡一面、櫛等の髪道具一式、綺麗な色のついた手紙用の薄い和紙十帖、唐の硯と筆、香炉と抹香という、豪華なものだ。


全部女性が大好きな品物ばかりで、しかも高品質で貴重な舶来品とくれば、見ただけで侍女達は目をキラキラさせている。


実はあたしは、口から泡を飛ばす勢いでまつ様に贈り物の数々を説明されても、それがどうした、という感じでピンと来なかった。


侍女達の興奮度合いを見て現代式に頭の中で想像すると、フランス製最高級シルクのウェディングドレスを五着、フランス製シルクのイブニングドレスを五着、シルクの外出着を十着、イタリア製のドレッサーやブラシなど化粧道具一式、綺麗なお手紙用紙100セット、最新のパソコン一式、フランス製の最高級香水数年分ぐらいの感覚らしい。


そう思えば、確かに凄い贈り物だ。

刀自様は何をお返しにするのだろう。


「このような贈り物を頂くのなら、どのような殿方でもお付き合いを諾(うべな)いて(承諾して)しまうのに、更に世にも稀な美男で風流な殿様なのですから、ご訪問を拒める方は誰もありませぬ」


「神様より二物も三物も与えられた殿様なのですね」


「中将様がかぐや様に求婚されれば、かぐや様も本当のお幸せというものです」


「それで那加国とも争いにならず、平和が保たれるなら、一番の良きご縁組みとなりましょう」


侍女達は口々に言う。


人の結婚相手を勝手に決めるのは止めてほしい。

あたしには結婚を約束した人が居るのだ。




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