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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第二章 久我根館のかぐや様誕生
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久我根館のかぐや様の一歩を踏み出してコケました

あたしは月の国のかぐや姫ではなく、刀自様の娘として『久我根館のかぐや様』と呼ばれることになった。


あたしはあまり(新しく生まれ変わった!)という気分でもないのだけれど、これからは久我根一族の一員として恥ずかしくないように、色々と覚えていかなければならないことが多いらしい。


いままでの習字と琴の練習に加えて、次の日から乗馬の訓練が始まった。

久我根館の娘としての必修科目らしい。


あたしはまず、鎧をつける所で躓(つまず)いた。

金属製の兜と鎧を付けたままでは、立って歩けなかったのだ。


仕方がないので、兜は子供用の簡略的な物を使い、金属製の頬当ては使わず、麻布で顔と髪を覆うことにする。

鎧は革の鎧で最小限にしてもらう。

それでも、ヨッコラショッと声を掛けて立ち上がったあたしに、まつ様は呆れて打つ手無しという表情だ。


乗馬用の革でできた靴を履いて、東門からようやく屋敷の外に出る。

もちろん、すずちゃんも短めの着物を着て、頭に頭巾をかぶって付き添ってくれる。

外に出る時は武者が二人、交代で護衛として付いてくれるのだが、今日は巽様の担当ではなかったのが残念だ。


馬場に行くと、もう既に何人もの人が馬に乗ったり、弓場で弓を引いたりしているのが見えた。


あたしの姿を見かけて、あかね様が近寄って来る。

あかね様が、あたしに乗馬を教えてくれる担当のようだ。


「かぐや様が久我根の一族となるは、悦ばしい事でございます。これからは姉と思いてお親しみ下され」


あかね様は兜を外し、ニッコリと笑って挨拶してくれる。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。何もわからない不束な半人前なので、あかね様が宜しくお導きください」


あたしも少しは挨拶が上手に言える様になって来たのだ。

昨日巽様が言った言葉をちょっと借りたりはしたけど。


厩(うまや)から馬丁(ばてい)が鞍を付けた馬を引いて来る。

思ったよりも馬が大きくて怖い。

あたしは今まで馬に乗った事など無いのだ。


馬が首を振ったり、蹄(ひずめ)で土を掻いて脚を動かしたり、尻尾をバッサリと振っただけで、あたしはビビって腰が引ける。


「かぐや様、この馬は年寄りの穏やかな馬なれば、怖じずにお乗りくだされ」


すずちゃんに馬に乗るための台を押さえてもらい、あかね様にお尻を押してもらって、鞍に掴まって這(は)い上がるようにしてようやく馬に乗れた。

視点が高い。

足元を見ると落ちそうで怖い。


「遠くを見て、背を立ててお乗りくだされ」


あかね様はそう言うと、サッと一人で馬に跨がって歩き出す。

あたしが乗った馬の馬丁が、手綱(たずな)を持ってそれに続く。


「あ、ちょ、ちょっと、待って、ま、まだ、歩く、歩くのは、早い、早っ!」


あかね様はゆっくり馬を歩かせているつもりかもしれないが、馬丁は駆け足になっているから、あたしは馬の背で揺さぶられて、必死で鞍にしがみつくばかりだ。


笑いながらあかね様が戻って来て、馬丁にゆっくり馬を歩かせるように指示した。


「かぐや様は馬には初めて乗られるゆえ、まずは馬に慣れる事が第一でございましょうか」


そう言ってあかね様は馬に鞭を入れると、風のように走って行かれた。

実にかっこよくて、おまけに美人で、とっても憧れる。


今日は三郎様も来ていて、お二人で一緒に馬を走らせている様子は、まるで映画のように素敵だ。

あとは、もう少し砂埃が立たなければ最高だ。


一時間ぐらいもノロノロと馬に乗っていたのだろうか、緊張でガチガチに身体が固まって、脚も震え出したので馬から下ろしてもらうことにする。


またあかね様にも手伝ってもらって、やっと馬から下りられたのだが、脚がガニ股のまま戻らず、歩こうとしてカックンとなって転んだ。


すずちゃんが慌てて引き起こしてくれたんだけど、失礼な馬丁が「ぷ、ぷっ」と笑って、慌てて口をふさぐ。

ひゃー、見られた!他に気がついた人は居なかっただろうね。


脚が落ち着くまで、少し小高くなった場所に建っている小屋に座って、大勢の武者の馬駆けを見学する。

何騎もの馬が揃って走って来る馬駆けは、ドドドドドッと大地を揺るがす音も凄まじく大迫力だった。


先頭を切って走って来られたのは鎧を付けた此春館の大熊様だった。

大きな刀を身につけ、弓を持って腰に矢を何本も入れた箙(えびら)(矢筒)を付けて、真っ直ぐに走って来られる様子は本当に逞しい武者の大将の貫禄で、戦いの味方と思って見ると頼もしさが限りなかった。


熊にそっくりで気持ち悪い、なんて思ってホントごめんなさい。

大熊様は素晴らしい侍の大将様でした。


「かぐや様が見ておられると、我が武者振りを見せむと郎党が張り切りて、普段よりも良く馬駆けするようだ」


お褒めの言葉を大熊様から頂いたけれど、誰かに見られていると思うと、誰でもそりゃあ張り切るよね。


巽様の乗馬も初めて見ることができた。

今日は警備の担当の日じゃなくて、武術の訓練の日だったようだ。


巽様は神官の時よりもずっと活き活きとしていて、本当に馬駆けを楽しまれている様子だった。

今まで捕らえられていた野生の生き物が、ようやく本来の自分の生きる場所に戻って、思い切り自由を楽しんでいるような、そんな心の弾みさえ感じられた。


巽様は馬に乗って一直線に走って、途中の的を射落とす流鏑馬(やぶさめ)もされたのだが、ほとんどの的に当てていたので、弓も上手なようだった。


額に結んだ鉢巻きが翻るのも凛々しいし、額が汗で光っているのも、キラキラして見える瞳も麗しい武者振りで、神官姿よりも更に胸キュンの武者姿だった。






巽様は今日は乗馬に集中していたので、他を見るゆとりがありませんでした。

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