久我根一族の黄金の護符を頂きました
昨日は生まれて初めて馬に乗って、今朝目が覚めると、あたしは全身筋肉痛になっていた。
腕も脚も手も肩も、腹筋やお尻まで痛くて、少し身体を動かすだけで全身が痛い。
そんな情けない有様なので、当然乗馬の訓練はお休みになり、習字でさえ手指が震えるのでできなかった。
あまりにも動けないので、今日は仕方なく座学になって、まつ様に久我根一族の歴史をお聞きすることになった。
「そもそも久我根一族の始まりは、偉大なる大神官様より始まります」
え、久我根様の初代は大神官様だったんだ。
「そのお方の神通力は誠に凄まじく、神をも凌ぐと言われたほどでございました。
ところが、ご祈祷なさった由緒ある姫君とわりなくも恋仲になられ、姫君と契りを結ぶために大神官様をお辞めになりました。
その方こそ、初代様の久我根様でございます。
姫君と並ばれた初代様のあまりの神々しさに、輝く黄金のようなお二人と、『久我根様』と呼ばれしが初めでございます」
初代様から始まる久我根一族の歴史が、そこから延々と語られたのだが、今まで一度も会ったことが無い、名前も聞いたことの無い人々の話は興味が全然湧かない。
おまけにまつ様の語り口が、まるで観光バスのガイドさんのように節を付けて流れるように喋るものだから、内容が一切頭の中に入ってこない。
次第に眠くなって来て、コックリと頭が揺れる。
まずい、まずい、眠ってはいけない。
あたしは眠気対策に他のことを考えることにする。
すると、巽様のことを自然に考えてしまう。
この前、刀自様に呼ばれた時に、巽様はあたしの方を全く見てくれなかった。
昨日も乗馬をされていた巽様は、あたしのことなど気付いてもくれなかった。
あたしが出したお手紙にお返事もくれない。
別に返事が必要な内容の手紙じゃなかったから、お返事が無くても当たり前なのだけど、何だか寂しい。
あたしの手紙はアイドルに出すファンレターのように(頑張ってください、いつも応援しています)というものだったから、お返事をもらおうということ自体無理があるよね。
だいたい巽様は、今は久我根館を護る事が第一で結婚は考えていない、と言っていたし、那加国が攻めて来ようとしている今は、巽様は武者として馬に乗ったり、武術をを鍛えることしか目に入らないだろう。
「......かぐや様......か、ぐ、や、様!......聞いていらっしゃいますか?」
「えっ、あ、え、ええ、何でしょう?」
「久我根沢の黄金の話でございます。
......その時、久我根の山で炭焼きを生業となす炭焼きの翁が、山より炭を担いて下れるに、ふと傍らの川の流れを見れば、これ如何に、川底にピカリと光る砂を見たり。
これぞ金の砂、砂金の川よと喜びて砂を掬えば、たちまち竹の笊に残りし黄金の砂。富の黄金よ。富貴たちまちにして国に満ちて、名高き久我根の館になりたれば、誠にめでたき神のお導きよ、日見ゆる国よ......」
まつ様のお話はエンドレスで続く。
欠伸を百回ぐらい噛み殺した時に、刀自様からのお呼び出しがかかって、まつ様のお話は終わりになった。
あたしが刀自様のお居間に行くと、今日も人払いがされる。
刀自様は、側に置いてあった蓋の付いた漆塗りの箱から、小さな錦の袋を取り出す。
「これは久我根一族のお印の護符で、この屋敷の外に出る時は、必ず肌身離さず持つべきお護り袋でございます」
そう言うと、刀自様はお護り袋をちょっと拝むようにしてから、中を開ける。
中には薄い和紙に包まれた護符が入っている。
「これは久我根一族のお印の『八咫烏』が刻まれし黄金の護符でございます。どこに行かれても、これが久我根一族の証拠と為りますれば、決して失われなきように、他人には決して見せてはなりませぬ。
心してお持ち下され」
それは直径三センチぐらいの、丸い金色の小さなメダルだった。
表面に小さな鳥が刻印されているようだが、これは三本脚のカラスの絵だという。
三本脚のカラスなんて見たことないけど、これも伝説の久我根一族の鳥らしい。
あかね様があたしの髪を『カラスの濡れた羽根のように美しい』って言ったのは、このカラスと関係あるんだろうか。
その黄金の護符を、元通りに丁寧に和紙に包み直して錦の袋に入れると、刀自様はあたしにお護り袋を渡した。
あたしはスマホを入れる袋をすずちゃんに縫って貰っていたので、それにまとめて入れようと思う。
「刀自さま、あたしの宝物を入れている袋に一緒に入れておいて良いでしょうか?」
「うむ、大事にするのじゃぞ」
あたしの宝物は、八咫烏の黄金の護符とスマホと、そして巽様の短い二行のお手紙だった。
丸い黄金の護符は、太陽の中に八咫烏がいるという神の象徴で、大神官様だった初代様を奉って作られました。




