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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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あかね様の誘導尋問に引っ掛かりました

せっかく巽様から初めてのお手紙をもらったのに、読めない、と言う事態は本当に困る。

ネットで検索する訳にもいかないし、どうすれば良いんだろう。

たった二行の、手紙とも言えないような短い手紙だけど、誰かに読んでもらうという残念さだけは避けたい。


すずちゃんも草書体はまだ読めないし、巽様が内緒で急いで書いたのか、走り書き風で余計読みにくい。

でも何と書いてあるのか早く知りたい。

かといって、侍女のまつ様には絶対に見せたくないし、刀自様に読んでもらうのも躊躇ってしまう。


お手紙をもらったのだから、お返事もしなければならないのだけれど、あたしはまだ楷書でしか字が書けないのだ。


暗号解読のように何度もお手紙を見返して、この字は(し)かもしれない、なんて見るけれど、たった二行の解読なのに道は遥かに遠い。


散々悩んだ挙げ句(そうだ!あかね様に相談してみよう)と、思いついた。

巽様からの手紙といわずに、部屋の中に転がっていて、誰が落としたのか判らない、といえば良いんじゃないだろうか。


色々と思い巡らせていたせいか、寝付いたのはもう鶏が鳴くような時間で、目が覚めたのもすっかり遅くなってしまった。


遅い朝ごはんが済んでから、すずちゃんに北の対に行ってあかね様のご都合を聞いてきてもらう。

北の対ではゆうべ三郎様やお供の方達がお泊りになったので、まだバタバタしていたそうだ。


それに今回の那加国との交易で、あかね様の結婚生活の為のお道具類を色々と買ってこられたので、それらのお荷物も部屋にたくさん積んであったとすずちゃんは言う。

西の館にお移りになる時に持って行かれる荷物の一部らしい。


(そういう荷物の確認もあるので、二日後の午後辺りに行ってみます)と、いうあかね様のお返事だった。


あかね様が来られるまでの二日間は、あたしは特に草書体の練習に熱中していたので、まつ様も驚いていた。

ただ、現代は平仮名一つには一つの字しかないけれど、この世界では一つの音に何個もの字の形があるという事が分かって更に絶望的な気分になる。


とりあえず、お礼の手紙に使うような(誠にありがたく)とか(重ね重ね)とか(申し訳なく)と言う様なフレーズを、まつ様に草書体で教えてもらう。

巽様へのお返事を書くのだ、と思って真剣に練習する。


すずちゃんも自分の仕事をしながら、時間が空いたときに一緒に習字をしているのだけれど、いつになくあたしが必死で草書体の練習をしている理由を知っているので、生温かい目で見守ってくれる。


あたしが絵里に玲君が告白したと聞いた時、自分の気持ちだけを考えてすごく落ち込んでしまったのだけど、すずちゃんも巽様に憧れていたのに、あたしが巽様から手紙をもらっても一緒に喜んでくれた。


すずちゃんは、本当になんていい子なんだろう。


習字漬けの二日が経って、ようやくあかね様が東の対にやって来られた。

長い長い挨拶の後、那加国から買ったお道具類の話とか、あと一ヶ月ぐらいしたら三郎様の西の館に移られることなどをお話する。


あたしは巽様から頂いたお手紙の解読の話をしたいのだけど、どう話したら良いのか分からずに迷っていた。


「この前の宴では三郎様はだいぶ酔われていらっしゃいましたね。大丈夫だったでしょうか」


すずちゃんが宴の時の話を出して、話のきっかけの助け舟を出してくれる。

あかね様は苦笑いされる。


「それほど酔われていたとは思えませぬが、酔ったことにして騒ぎたい人が多いのでしょう」


あかね様にも三郎様が酔った振りしてたのはバレバレだったようだ。


「東の対にも酔って押しかけた殿方が多かったとお聞きしましたが」


「そうでございます。かぐや姫様は塗籠に隠れられていらっしゃいました。

たくさんの方が酔って押しかけて来られたものですから、几帳なども壊れたりしたのでございます」


すずちゃんが答える。

あたしは話をするのは今だ、と思って


「それで、部屋を片付けたら、こんなものが落ちていたのですが、何と書かれているのか、あかね様はわかりますか?」


あかね様はちょっと興味を引かれた様子で手紙を開いて見た。黙って読む。

何かを考えている様子だったけど、頭を少し傾げ、にんまりと笑った。

あたしの方にぐっと身を寄せると扇で口元を覆い、まるで内緒話でもするように小さな声で


「(失礼をいたしました。花よりもなほ)と書いてあるようですよ。これは恋文ですね。どなたが落としたのかしら?......書いてある字は見たことがあるような気もしますが......」


あたしはあっという間に真っ赤になってしまった。

どうにか誤魔化そうと頭をブンブン振る。


「ああ、いや、これはあたしが貰ったものじゃないんです......床に落ちていたんです。誰が落としたんでしょう?」


あかね様は可笑しくて仕方がないという様子で


「桜の花よりも美しい方に、というのだから、すずやまつに宛てたものではないでしょうね。手紙を書かれた方は何か(失礼なこと)でもなさったのかしら?」


「あ、まさか、巽様はそんな失礼なことをなさる方じゃ......!」


あかね様の誘導尋問に見事引っ掛かってしまった。




あかね様は子供のころ巽様と何年も一緒にお勉強されたので、巽様の字は見ただけで分かってしまうのです。

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