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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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久我根館の宴は思ってたのと違ってた

「女の童が小賢しくも一人前の振りをなして、几帳の陰で偉ぶりたることこそ笑止なり」


大神官様はあたしの居る方に近づいてきて、あたしの前にあった几帳の垂れを引っ張る。

顔を隠していた几帳が傾いで、あたしは部屋に置いてあった燭台の明かりに照らされてしまった。


見れば大神官様のお顔も下から明かりに照らされて、まるで瓢箪の妖怪のようで不気味過ぎる。


「......これは......げに常の人ならぬ美しき姫よ......」


大神官様は、更にふらふらとあたしの方に近づいて来ようとする。


「大神官様、お待ちください」


そう言って大神官様の服の裾を押さえてくれたのは、巽様だった。


「かぐや姫様のお心をを害し奉れば、月の国より恐ろしき軍勢が攻めて来るそうでございます」


大神官様はぐっと後ろを向いて、憎々しげに巽様に反論する。


「控えておれ、何をそのような戯言を。

我は先日、国守様よりの急なお招きにあずかり、ご母堂様の御不快を我がご祈祷でお直し申し上げたのだ。

ご母堂様は(三国一の大神官様よ)と我が手を取られて、感涙に咽(むせ)ばれ、国守様よりも重ねてのご褒美を頂いて戻ったのじゃ。

我のごとき尊き大神官に見(まみ)える事こそ、勿体ないほどの光栄というべきであろう」


つまり、大神官様に見られてありがたく思えってことなのかな?

全然そうは思えない。

あたしは大神官様を追い払うために、ここはまたスマホのライトの出番かと思って、手の中にスマホを握り締めていた。


「おや、これはこれは大神官様、かような所で何のお戯れをなさっていらっしゃいますか」


良かった、刀自様が来てくれた!


「これは刀自様、いや、なに、ちと酔い醒ましにお庭の桜でも拝見しようかと思いましてな」


バレバレの言い訳するのは三郎様だけじゃなかった。

刀自様もふん、と鼻を鳴らす。


「だいぶご酒(しゅ)が回られたご様子でございますな。我が屋敷の庭はこちらでございます」


「おお、そうであったか。酒に酔いて、広い屋敷ゆえ方角を違えたかもしれぬ。

巽、間違えずに、しかと案内(あない)せねばならぬ」


「申し訳ございませぬ」巽様が謝った。


自分がしたことなのに、巽様の案内のせいにするなんて、なんて卑怯な男なんだろう。

これであたしの評価は決まった。

大神官様は青瓢箪のろくでなしに違いない。


大神官様は思い切り悪く、またあたしの方をジロジロと見てから、刀自様に促されて渋々と部屋を出ていく。

廊下に出たところで


「は、は、はぁ、ぶぇーくしょいっ!......ええぃ、くさめ......くさめ......」


大神官様は大声でくしゃみまでした。

刀自さまは、ちょっと顔をしかめて言う。


「ご酒も過ごされたようでございますし、お風邪など召されぬうちにお帰りになられたほうが宜しいかと存じます」


巽様はちょっと情けないような顔をして、あたしの方をちらっと見ると、丁寧にお辞儀をしてから大神官様の後をついて行かれた。


あたしも几帳の陰から巽様を覗いていたので、ほんの一瞬だけ巽様と目が合った気がする。

ピキンとあたしの心臓が跳ねる。

じんわりと頬が熱くなって来るのは、恥ずかしくて本当に困る。


大神官様は嫌々ながら巽様に担がれるようにして帰られるし、三郎様は北の対の侍女達に拉致されてしまった。

それからは宴はもう無礼講になり、肩を組んで大声で歌う者達や、何やらグズグズとかき口説いて泣き出す者や、喧嘩になって庭に出る階段から転げ落ちる者や、東の対の御簾や几帳にしなだれかかって中を覗こうとする者やら、ひどい混乱状態になってしまう。


平安時代の宴といったら、優雅に桜を見て歌を作ったり、横笛とか琵琶とか琴を鳴らして音楽を楽しんだりするのだと思っていた。


それはあくまで物語に書かれた美しいイメージで、実際は今の日本の居酒屋の飲み会とか、あたしの住んでいた田舎の消防団の新年会よりもひどい有様だった。


あるいは都ではそれなりにお上品で優雅な宴が行われているのかもしれないが、この辺りではこれが普通の宴会のようだ。

何事もローカルルールだから、侍女のかえで様やまつ様は都風にさせようと一生懸命努力しているのかもしれない。


あたしは刀自様の指示で、東の対の塗籠(ぬりごめ)に入って隠れる。

窓がなく周りが土壁で囲まれて、箱やお道具などが置いてある蔵のような狭い所に、まつ様と一緒に座った。

まつ様は(全く、これだから田舎者は)とぶつぶつ言う。


大騒ぎしている声がしばらく続いていたが、やがてだんだん静かになって夜中過ぎにお祝いの宴は終わった。

ガタガタと周りを片付ける音がして、(あぁ、やれやれ、やっと終わった)なんて言っている人もいる。

ざっと寝る場所を片付けて、東の空が少し白くなって来る頃にようやく眠れる。


すずちゃんも片付けが終わってあたしのところに戻って来たのだが、袖の中から何かを出すと、ニコニコしながら「これを」という。

「何?」と見ると、桜の小さい枝に細く折った紙が付けられている。


「巽様からでございます」


えええええーっ、巽様からのお手紙!神官の巽様は女性との交渉はできないと聞いてましたけど!

し!か!も!あたしは男性からお花付きの手紙貰うのなんて、ホントに初めてなんですけど!

初めてのお手紙が巽様からなんて、嬉しすぎる!!!!!


あたしは顔が緩むのを抑えきれない。震える手で小さい紙を枝から外し、紙を広げて見た。


......読めなかった......





大神官様がくしゃみの後で(くさめ、くさめ)と言ったのは、休息万病《くそくまんびょう》というおまじないの言葉だったそうです。

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