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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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久我根館は迎賓館でした

あっという間に十日が過ぎた。


巽様からの(もう少し時間がかかる)という言付けがあっただけで、その後は大神官様からも巽様からも何の連絡もない。

あたしは時々北の対のあかね様と歌のお話をしたり、いつもお忙しそうな様子の刀自様とちょっとお目にかかったりしながら、毎日習字と琴の練習と正座の苦行に明け暮れていた。


毎日の苦行の合間にまつ様に久我根館の事を色々と聞くと、いつもの(そんなことも知らないのか)という上から目線で、それでも誇らしげに教えてくれる。


「この久我根館の今のお館様は、刀自様のご次男で清高様と称されます」


刀自様のご長男様は先代のお館様の補佐をなさっていらしたのだが、都からお戻りの途中、盗賊団の襲撃にあって亡くなられたそうだ。


「代々、久我根様のご当主は清高様とお呼びする習いでございます。

そもそもこのお名前というのは、日見国で第一のお家柄の国守様より一字を頂いた、有り難くも尊いお名前で、先先代の久我根様が先の大戦の砌(みぎり)に......(以下略)......」


と、一度聞いただけでは何のことかサッパリ理解できない話が続き、飽きるくらい延々とその起源が語られたくらい、有り難いお名前なのだと言う。


公文書に書いたり、正式に名乗りを挙げたりなさるときは、『久我根次郎清高』様と称されるが、普段はお館様とお呼びするそうだ。


そのお名前はちょっとカッコイイと思う。

少なくても『此春大熊』よりはいい感じだ。(ごめんね、熊のお館様)


刀自様は先代のお館様の第一のお方様で、五年前に先代がご病気で亡くなられてからは、留守にされる事の多い次郎様や四郎様に代わってこの久我根館を差配されている影の権力者らしい。


うん、そんな感じだとあたしも思ってた。

刀自様の言うことは、人の意見を聞いているように見えて、実は結局刀自様の思う通りになっているもの。

あれ?やっぱり人の話を聞かない『此春遺伝子』はここでも健在?


刀自様にちょっとお目にかかった時に、習字がどれだけ上達したのかを確認されたのだ。

あたしは何とか細筆で書くことに慣れて、字を続けないで楷書体(かいしょたい)で書くのだったらできるようになっていた。

たまたま刀自様に平仮名に漢字を混ぜて書いて見せたら


「姫様は真名(漢字)も書かれるのか?」と驚かれて、全部漢文の和綴じ本とか中国の漢詩のような漢字だらけの冊子を持ってこられた。

確かに全部楷書体で書かれているけど、いや、それって違うから。


でも何事も慣れというのは恐ろしいもので、朝のお粥や長い袴の取り扱いや、ついには正座にも慣れてきた頃、お留守だった久我根館のお館様がもうすぐ旅から戻られるという知らせが入った。


日見国では、馬や毛皮等の様々な特産物を、那加国や時には遠く都まで運んで交易をしているのだけれど、その窓口になっているのがこの久我根館で、日見国の迎賓館としての働きもしているそうだ。


それでこんな風に田舎には似合わないような豪華なお屋敷があって、南からの交易の使者のおもてなしをしたり、国の大使の宿泊所にもなっていたのだ。


代替わりした後は、次郎様が先代の後を継いで交易のために出かけられていて、今年は雪解けを待って早春に那加国に出かけ、ようやく帰られると言うのだけど、那加国が攻めて来るという話はどうなったのだろう。

のんびり交易なんかしていられるのだろうか?



次の日の午後、久我根様達が旅から戻られた。

西の門が開けられて、大勢の人が入ってくる音が東の対にまで響いて来る。


荷物を積んだ馬だろうか、何頭もの馬のいななきや、久我根館の家司(けいし)が大声で指図する声、侍女達の嬉しそうなさざめきも聞こえ、今まで比較的静かだった母屋(主殿)も活気づいている。


次郎様には四郎様が補佐として就かれていらっしゃるので、お二人がお屋敷に戻られると一気に賑やかになる。

刀自様も忙しげにあちらこちらの対に出かけられて、屋敷全体が浮ついた空気に包まれる。


すずちゃんも浮足立ってワクワクした顔を隠せない。


「今回のご旅行では、何をお買い付けなさったのでしょう。様々な珍しき物がたくさんおありだと思いますので、是非一目なりとも拝見してみたいものです」


那加国や都から持ち込まれる物はほとんどが贅沢品なので、庶民は見るだけでも目が潰れるような気分になるらしい。


「いつも久我根様は、下々の者にまで何かお土産の品をくださるので、それがとても楽しみなのでございます」


すずちゃんは本当に嬉しそうに言う。

実は時々おやつに出てくる固いホットケーキのようなものと薬臭いお湯は、那加国の特産品で庶民の口には入らない贅沢品だったそうだ。


知らなかった......あれが贅沢品だったなんて......


そしてそれが今回、久我根館のお勤めの人達へのお土産だったようで、すずちゃんは初めて食べたそのお味にいたく感激している。


「初めて雅なる菓子というものを頂き、勿体なくも薬湯まで飲むことができましたので、つまらないわたくしのような者でも、命の延びる心地がいたしました」


嬉しいのはわかるけど大袈裟過ぎる。

あの固くて甘くもないお菓子が、それほどのものだろうか。

あたしが知っているお店のふわふわのショートケーキと美味しいタルトを、ぜひすずちゃんに食べさせてあげたい。

すずちゃん、命が延び過ぎて死んじゃうんじゃなかろうか!



それから二日後、お館様のご帰還をお祝いする宴が久我根館で行われる事になり、東の館の大熊様や西の館の三郎様、ご親戚の皆様などが集まり、大神官様もいらっしゃるそうだ。


漢字は書けるのに、草書体で菜摘が平仮名を書こうとすると、ミミズが酔ってヘロヘロになったような字になるので、まつ様も呆れてしまうのです。

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