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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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寝殿造りの久我根館は凄かった

長い塀の周りをぐるっと回って東側の門からお屋敷に入る。


「お帰りなさいませ、刀自様......お戻りになられたぞ!」


東門は建物のようになっていて、その中から門番らしき人や警備の武者が出てきて刀自様を出迎える。


門からすぐに建物の上がり口があり、そこで履いてきた巫女の草履を脱がせてもらう。

長い距離を慣れない草履で歩いてきたので足が痛い。


中の建物に入った所の廊下からお屋敷の全体が見えた。


(うあ~ぁ~すげ~ぇ)心の中で思っただけで、声には出していませんので悪しからず!


このお屋敷は教科書で見た『寝殿造り』って建物だと思う。

中心の大きな屋根の建物の両側にも廊下で繋がった建物があって、南側には大きな庭園が広がっているし、本当に(平安時代)って感じだ。


このお屋敷(もう御殿って言ってもいいんじゃないかと思う)と比べたら、西の館は砦(とりで)に毛が生えたようなものだったし、熊のお館様のお屋敷よりも更に規模が大きいと思う。


こんな本格的なお屋敷に住んでいる刀自様って何者?

皆が刀自様の言うことを聞くのもこの経済力を見せつけられたら、なるほど、って思う。


東側の建物(東の対(たい))の一角に、屏風と几帳で区切られた所があって、あたしはそこに案内された。

今日は久しぶりで四十分ぐらい歩いたので、座れるのが嬉しい。

しかも置いてある畳の厚さが、西の館の時の二倍くらいある。


「着替えをされて、しばし休まれるが良い」


刀自様が言うと、すぐに控えていた侍女が、今朝着ていた着物に着替えさせてくれる。


その後で西の館でも食べたことのある、甘くなく固いホットケーキのようなおやつと薬臭いお茶のような飲み物が出てきた。

これはこの辺りで定番のおやつなのだろうか。


あたしの周りに居るのは初めて会う侍女ばかりなので、落ち着かない。

躾(しつけ)が行き届いて居るのか、すずちゃんみたいにはしゃがないし、余計なことも言わない。


......全然気が休まらない......


このお屋敷では廊下から部屋に入るところに御簾が掛けてあるし、所々に格子も在って上半分が外側にあげられている。

きっとこれが正式のお屋敷の有り様で、西の館では内装ががまだ整っていなかったのだろう。


侍女頭のかえで様が西の館に先に行っていたのは、その辺りを準備するためだったようだ。

そういえば、西の館ではトントンと何かを叩くような物音もしていたので、増築などの作業もあったのかもしれない。

西の館では女手も無く色々と行き届かない事が多い、と熊のお館様が言っていたのはこのことだったのかな。

こちらの屋敷では侍女も多く、侍女の着ている着物も明らかに高そうで、色鮮やかなものが多い。


それから、あたしがこの屋敷のことを『北の館』と言ったら、中年の侍女にやんわりと注意された。

北の館と呼ぶのは東や西のお館関係者だけで、単に方角で簡便に呼んでいるだけなのだそうだ。

つまり、自分の家から見て『東側の家』とか、『北側の家』といっているのと同じで、北の館の屋号は『久我根館(くがねやかた)』と言うそうだ。


刀自様は『久我根様』とも呼ばれるらしい。

侍女の言い方が、(そんなことも知らない愚か者)と言外に言うような、いかにも偉そうな様子だったので、きっと由緒正しいお屋敷なのだろう。

自分が場違いな所に居る気がして、本当にこの久我根館に移ってきて良かったのだろうかと思う。


夕方になって、すずちゃんが夕食を持って来てくれたときは本当に嬉しくて、思わず


「すずちゃん!......良かった......」って、すずちゃんの手を取って涙ぐんでしまった。


すずちゃんは仕事の引き継ぎをして、自分の荷物をまとめてから、やっとこの久我根館に来てくれたらしい。

すずちゃんもこのお屋敷の中に入るのは初めてだそうで、お屋敷の豪華さに気後れしていたらしく、とても嬉しそうにニコニコすると、あたしにペコリとお辞儀をした。


すずちゃんと感動の再会を果たした後、夕食を食べる。


西の館では離れの部屋で暮らしていたので、食事中もすずちゃんと話したりしていたんだけど、この久我根館ではとても大きな部屋を几帳や屏風、衣裳等を入れる箱で区切っているだけなので、大きな声で話すと隣の仕切りの人に全部筒抜けになる。


侍女頭様に大きな声で話すことを叱られたけど、こういう環境に来てみると、その理由がよくわかる。

あたしはヒソヒソ声ですずちゃんに話す。


「ねえ、すずちゃん、このお屋敷では食器や入れ物も豪華だね。木のお椀や素焼きのお皿じゃなく、漆塗りだし、食器を乗せる台も足付きで漆塗りだね」


すずちゃんも声を出さずにコクコクと頷く。


「それに同じような食事だけど、ご飯の盛りもいいし、おかずも汁物が一品多いね」


しかも!汁物は野菜がたっぷりと入って具だくさんだし、なんと!出汁(だし)が取ってあった!

西の館で食事をしていなかったら分からなかったかもしれないが、ただの薄い塩味の味付けばかり食べていたので、この久我根館の汁物に出汁が入っていることは少し飲んだだけですぐ分かったのだ。


出汁、最高!

同じ出汁の効いた食事をすずちゃんにも味わってもらいたいものだ。


久々に外に出て歩いたし新しい環境で緊張して疲れたので、その夜は早めに眠ることにする。

すずちゃんも同じ仕切りの中で眠ってもらう。

とにかく一人ではトイレもできないのだから、侍女に一緒に居てもらうしかないのだった。


それがすずちゃんで本当に良かった。


初めての場所は、不安でいっぱいいっぱいになるのです。

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