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世が世ならあたしだって傾国のかぐや姫になれるんです  作者: 藍碧
第一章 かぐや姫降臨
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マラソンランナーの気分を味わう

明るい時に西の館から外に出たのは初めてだった。


西の館は小高い丘の上に建っていて、南側を見ると三郎様が話していたように開けた土地が広がっていた。その真ん中辺りを川がうねって流れていて、川の両側はたんぼや畑になっているようだ。

丘のふもとには草葺きの小屋がいくつも並んでいて、出入りする人影が見える。


西の館から小さい谷を挟んですぐ東側に、大きな建物の屋根が木の間から見えているけれど、これが熊のお館様の東の館のようだ。


あたしは北の館の刀自様やお供の人達と一緒に、北側にある(この世界に召喚された)神社の横を通って、山道を下った。

先頭は先払いの供の者で、髭を生やして鋭い目線で前後を固める武者達は、大振りの太刀を腰に挿しているので刀自様のボディーガードなのだろう。

こんな長閑(のどか)な田舎なのに、南の大国との争いを今から警戒しているのだろうか。


刀自様は笠をかぶり、裾を縛ったような袴の着物を着ていて、スタスタとあたしの前を歩く。

あたしも出かける前に着替えをして、長い表着と袴を脱ぎ巫女の衣裳の袴を履いて、周りに薄い布を吊した笠をかぶって後に続いて歩く。

今回は侍女頭様が一緒ではないので、足取りは早い。


ニ、三十分ぐらいか、だらだらとした山道を降りると、道の両側に集落が現れてきて、周りの田畑で多くの人が働いている。

子供も手伝って仕事をしていたり、走り回って遊んでいる姿もたくさん見える。

牛や馬もいて、のんびり道の傍に繋がれて草を食べていたり、畑の中で人と一緒に働いていたりする。


あたしが育った田舎町では農作業は機械を使うし、交通手段はほとんど車だけだったので、外に出て道を歩いている人はほとんど目に付かなかった。

だから、こうしてたくさんの人が田畑で働いているのを見るのは初めてだった。


その人達がこちらに気づくと、慌てて頭に被っていた手ぬぐいのような布を取ってお辞儀をする。


「刀自様が......後のお方は......月の国から......かぐや姫様と......」


切れ切れに声が聞こえて来るのを、聞こえない振りして歩く。

あたしのことは、もうすっかり噂になっているようだ。


「ありがたや......神の化身ぞ......お姿を見れば.......生き延びる心地ぞ......」


その噂が、なんか大変なことになっている気がするんですけど。

そう言って騒ぐ声が挙がると、次々に家から、田畑から人が道に飛び出してきて、あたし達を迎える。

まるでマラソンランナーを応援する沿道の人達のような様子になって来るのだが、刀自様は全然構わず、時々周りの人の挨拶に頷いたりしながら悠然と歩く。


今日は本当にいい天気で、歩いているとうっすら汗ばむくらいだった。

時々吹いて来る風が気持ち良い。

風が吹くと、あたしの被っている笠に付けられた薄い布が翻る。

その布が少し強い風に捲れ上がると、あたしの視界を遮るものが無くなって周りがよく見える。


するとその時、沿道を埋めるように集まって来た人垣から(おおおおーっ)という歓声が上がり、


「見えたぞ!光の姫御子様じゃ!......かぐや様じゃ!......ありがたい......」


と叫んで、こちらに手を伸ばしてあたしの着物を掴もうとする男が現れた。

すぐさま北の館の供の武者に排除されたが、その他にも、興奮を抑えられないような男たちが押し寄せて来るので、まるで空港でファンに囲まれてしまうアイドルのような様子になってしまった。


さすがに刀自様は足を早める。

間もなく目の前に長い塀が現れて、いかにも(お屋敷)という建物が見えてきた。


それはやはり刀自様の北の館だった。

西の館に居る時は、これがこの時代のお屋敷の標準タイプかと思ったのだけど、その規模といい、しっかりとした塀の造りといい、北の館は想像を超える大きなお屋敷だった。



短いお話なので、今日中にもう一話投稿します。

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