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その七
総勢十人ほどで演じられた「青春キャンディーズ」というミュージカルは、ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんという三人の女の子の出会いから別れまでを、だいたい一時間程度にまとめたものだった。
劇団員のなかには、なにげにつぐみさんもまじっていた。
「キャオ」
義姉を見て先のような驚きの声を発しつつも、ぼくはスーちゃん役だった、めちゃくちゃ小柄な女の子にちょっとグッときていた。
しかし、となりには和貴子さんがいたのである。和貴子さんにもとうぜんグッときているのである。だからぼくは、その子ばかり観ないよう気をつけていたのである。
ミュージカルの最後には劇団員全員で「暑中お見舞い申し上げます」をうたっていた。それは、
「うーん……」
と五郎叔父さんをも唸らせるくらいの統一感があった。歌がおわり、劇団員がそろっておじぎをするあたりでは、
「ランちゃーん!」
だとか、
「スーちゃーん!」
などと声援を送っている者もちらほら出てきていた。
K市民少女歌劇団が舞台から下がると、さっきのマキマキこと竹谷真紀ちゃんがふたたび登場してきて、
「はーい、みんな、おもしろかったマキ?」
というようなことを言っていた。その真紀ちゃんの、
「はーい、それではね、つぎは会長に出てもらいたいと思います。会長、お願いしマキ」
という呼びかけを受けて、舞台の袖からいよいよ会長が大股であらわれる。
「今夜『青春キャンディーズ』というミュージカルをみんなに観てもらったのは理由があってのことなんだ。その理由をいまから話す。ちょっと長くなるかもしれないから、ショッピングに行きたいやつは、いま行ってくれ」
会長がいった〝ショッピング〟というのは、この組織内だけで通っている一種の隠語である。意味は〝トイレなどで用をすませる〟である。まあそれはともかくとして、会長の話は思いのほか長かったが、要はつぎのようなものだった。
会長が若いころお世話になった方の息子だか孫だかに、たいへんなキャンディーズ狂の人がいた。その人はキャンディーズ結成三十年だか四十年だかの年にキャンディーズが復活してくれないのに心底がっかりし、キャンプ道具を一式もって、どこかへ行方をくらませてしまった。
寿司屋でその恩人にばったり会った会長は、
「一男を、どうにか捜し出してもらえないだろうか……」
と手をつかれてしまう――で、まあ手始めとして、この会合にK市民少女歌劇団を急遽招いたようなのだ。
一男氏を捜し出すプロジェクトは、専門チームを別枠で設けていた。案の定ぼくも五郎叔父さんも選出されていた。
「ねえ、五郎叔父さん、その一男さんていう人の心当たりはあるの?」
チーム「KAZUO」専用の別室に移ったのちにぼくはたずねる。
「ああ。あいつのことなら、よく知ってるよ。なにしろ戦友みたいなものだからな」
チームの監督に任命されている五郎叔父さんからの指示は、
「ひずるはキャンディーズの商品がありそうなところを、くまなくまわってくれ」
というものだった。
ということは、ぼく個人はこのチームのメンバーになったからといって、とくべつ明日から生活の習慣が変わるわけではなさそうだ。しめしめである。
先ほどのミュージカル劇でスーちゃん役を務めていた小柄な子もメンバーに選出されていた。その三永モモヨちゃんという若い女の子が、
「はい!」
と手をあげる。
「わたし、音楽教室に通ってるんですね」
「ほお」
「で、その教室の先生、たしかキャンディーズのベストアルバムをもっていたと思うんです」
「うーむ……もしかしたら、その先生はなにかいい情報をもっているかもしれないな。よし、三永さん、それじゃきみは、まず、その先生をあたってくれ」
「はい。わかりました」
三永モモヨちゃんは五郎叔父さんからの指示を了承すると、
「あのう、わたしって、ちょっと小柄すぎますか?」
と今度はぼくにしゃべりかけてきた。
「そんなことないよ。ちょうどいいよ」
「でも、本物のスーちゃんよりずっとちっちゃくて、身長一四五センチしかないんです」
「だからこそ、ちょうどいいのさ。つまりモモヨちゃんはね、とにかくそのミクロ感が魅力なんだよ」
「わたしのこのミクロな感じって、大人の人からみて、かわいいですか?」
「めちゃくちゃ可愛いよ」
「沢田さんて、小柄な女の子が好きなんですか?」
「そうです」
「だから劇のとき、わたしのことを隙をみてはギラギラした感じで凝視してたんですね」
モモヨちゃんはいきなり火の出るようなすごいボールを投げつけてきた。ぼくはしどろもどろになってしまう。
「わたし、ファストフード店でバイトしてるんです」
「う、うん」
「喫茶店でもバイトしてるけど」
「かかか掛け持ちなんだね」
「はい――明日は夕方の四時まで〈がぶりえるバーガー〉のほうでお仕事なんですね」
「ううう、うん」
「だから、それくらいの時間に迎えにきてください。ほら、その音楽教室に行くんだもん」
「はあ……」
「あんなにガン見してたんだもん、それくらいやってください」




