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その六
「ああ、ほんとに教会みたいになっているのね」
和貴子さんはぼくの住居を一通り見学した。
「あら、キャンディーズのポスター」
「ええ」
「これから会長邸でグループの会合があるの。なにかスーツみたいなお召し物はなくって?」
「確か、冠婚葬祭用のなら一着もっていたはずだけれどもな……」
とりあえず、祖父のタンスを物色する。
「まあ! これなんかよくってよ、沢田さん」
和貴子さんは羽織袴をチョイスした。
断るのも悪いので、ともかくぼくはそれを身につける。そして鏡のまえでポーズをとったり、笑ってみたりする。
しかし鏡のまえで、そんなふうに笑っている自分を見ていて、
「ん?」
とすこしばかり思うところがあった。
「でも、その会合とかいうものに、どうしてぼくも出なくちゃいけないのかな? 会長には、なにもいわれてないけれど」
「会長、きょうのお昼ごろに何度か沢田さんに電話したらしいんです。でも、どうしても繋がらなかったんですって。だからわたしに途中で寄って連絡してくれって――」
「おれ、昼間はご専門の方の指示に従って、電源切っておいたんだ……」
「もうすぐコミュニティバス来ますから、そろそろ出ましょうよ」
和貴子さんが急かすので、会長邸に向かう。お聞きすると案の定、会合というのは体裁上のもので、じっさいは会長がつねに躍起になっている例のドンジャラがメインのようだ。
はじめてお邪魔した会長邸には、ちょくちょく見かける側近連中のほかに、バー〈浮沈〉に出ているほかの歌い手さんや五郎叔父さんなどが座布団にすわっていた。
「あれ?」
びっくりしたぼくは五郎叔父さんに声をかける。
「おお、ひずる!」
叔父も目をまるくしていた。
「みなさーん、用意はいいマキ? はーい、ばっちりみたいですねー。今夜の司会を今回も務めさせていただきます、マキマキこと、竹谷真紀です」
みんなが集まっていた続きの間でこんな感じでとつぜん仕切りだしていたのは、かなりむちむちしているたぶんまだ若い女の子だった。
ちなみに「マキマキ」というのは、やはりお名前の「真紀」からの着想のようである。ちなみにこの質問を真紀ちゃんにぶつけたのは、他でもないわたくし沢田ひずるである。ちなみにマキマキは一見若くみえるが実際は三十前後のようである。ちなみに「マキマキ」というニックネームは、いまいち定着していないようで、幹部の某氏も軽い感じで「ねえ、真紀ちゃん――」と呼んでいたのである。
「はい、それでは会長杯のドンジャラ大会を開催するまえに、舞台劇のほうをみなさんに観てもらいたいと思いマキ。うーんと、この劇団は、はじめてこの会合に出るんですかね? うんうん、そうですねー。はい、いま側近さんが教えてくれたように、はじめてみたいですねー。はーい、それでは、はじめてもらいましょうねー。はい『K市民少女歌劇団』のみなさまで『青春キャンディーズ』です♪」
真紀ちゃんは、ツツツツゥーッと袖に下がっていった。




