16
その十六
最初に視聴することとなった「おしん」というテレビドラマは、スーちゃんがなかなか嫁ぎ先が決まらない〝はっちゃん〟という役で出ていた。
しかし、あんなにいい女なのに誰もはっちゃんをもらおうとしないなんて、まったく説得力がない。
「スーちゃんを、ぼくにください!」
ぼくは画面のおしんさんに土下座した。飲みすぎである。
「もう一度言います。スーちゃんをスーちゃんをどうか、わたくし沢田ひずるにください!」
「バカだなぁ、ひずる。スーちゃんは結婚してるんだよ」
五郎叔父さんによると、キャンディーズの三人は、ランちゃんもスーちゃんもミキちゃんも、もうずいぶんまえに結婚してしまっているということだった。
ぼくはいつごろからかテレビをまったく観なくなっているので、スーちゃんの女優としての近年の活動は五郎叔父さんがするどく指摘してきたとおり、たしかにほとんど取りこぼしていた。
「テレビはあるんだろ?」
「うん」
「DVDは?」
「あるよ」
「だったらとりあえず、このDVDだけでも観てみろよ」
叔父は現代のスーちゃんにかんする教材をみつくろってくれた。さすが新キャン連の元幹部である。
ところで、モモヨクンは一足先に教会に帰っていたのだが、浴室の窓にヤモリが張り付いているらしく、メールでぼくに帰宅するようせがんできていた。
そんなわけで、ぼくは会長らを五郎邸に残してお暇する。
教会に帰ると、すでにヤモリは自主的に退去してくれていた。
入浴後、例の教育をほどこす。二度ほど入念にほどこした。
翌日のモモヨクンは早い時間からバイトが入っていたので、なんとなくぼくは取り残された気分になっていた。
「そうだ、DVDでも観るか」
五郎叔父さんからお借りした教材をプレーヤーにセットする。
「ええ!」
のっけからスーちゃんはドラマ上とはいえ三人の子どもをもつお母さんということになっていた。ぼくはココアをこぼしてしまうほど激しく動揺してしまう。
つぎのチャプターでは、スーちゃんはずいぶん髪の毛が短くなっていた。それでも司会者のような人が、
「田中好子さんです」
ではなく、
「スーちゃんです」
とスーちゃんを紹介していたので、ぼくは、
「これはなかなか期待できるかもしれないぞ」
と思って音量をすこしあげた。
趣味講座か何からしいこの番組で、スーちゃんはお魚の水墨画を描いていた。
「スーちゃんの、いいねえ」
と絵の先生らしき人もほめている。
しかし、ほかの生徒役みたいな出演者は誰もそこから、お魚=カルシウム=牛乳=しろ=ハツ=モツ=おでん=神田川=喜多條忠=「暑中お見舞い申し上げます」と展開していって、
「んんっ、んう♪」
とキャンディーズの歌をうたわなかった。
だからその番組を視聴しおえると、だんだんいまの女優さんはほんとうにスーちゃんだったのかと不安になってきたのである。
とりあえず以前新品で買ったキャンディーズのファイナルコンサートを観てみる。
後楽園球場でおこなわれたキャンディーズの有名なこのコンサートでは、
「なぜ、こんなにも押しせまってきているところで?」
と思わず首をかわいくかしげてしまうが、とにかくお三方はあらためてファンに自己紹介をしていて、スーちゃんも、
「田中好子――『スー』って、呼んでください!」
といよいよ引退して明日からやっと普通の女の子に戻れるのにファンに訴えていた。
「やっぱり田中好子さんは、スーちゃんなんだ」




