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その十二
普段は完全に喪に服しているので、こんなときはその反動で必要以上に解放的な気持ちになってしまうのだろう、喪服レディさんはいつごろからか、もよりの岩のうえに解放的な体勢で寝そべって、火照ったからだに風をあてていた。
そんなことになっていたので、さすがにわれわれも、
「そろそろ温泉からあがりましょうか」
と満場一致で移行する。そしてなんとなく晩御飯も市長と一緒に食べることとなる。
けっこう早いペースで酒を飲んでいた森中市長は、
「いやねぇ、沢田先生、わたしは、あなたが、そのような、すばらしい住居に、住んでいるとはねぇ、思わなかった。感動した! ですからねぇ、みんみん先生、わたしは、これから、この沢田先生をつれて、わたしがお世話になっている例の大先生のところへ行きたいと、思っている。このことは、なんとしても実現させたい!」
と突然言いだす。すっかりはめをはずしている側近さんは、もうマッサージの予約を取ってしまっていたし、喪服レディさんも湯当たりぎみであれなので、けっきょくその宗教家だか霊能者だか大先生だかのところへは、ぼくと市長とみんみんくんの三人で行くことになった。
「それじゃあ、両先生、そろそろ行きましょうか! いや、場所はねぇ、ここから歩いてすぐですから。すぐそこ! ね、とにかく、行きましょう!」
という市長にうながされて、たしかにすぐそこだった大先生のところへおもむく。
「こんばんは」
「はーい♪」
玄関口に出てきた大先生は、その称号とはうらはらに、ややボーイッシュな明るい感じの女性だった。そして、
「大先生、おじゃましまーす」
という呼び方もじっさいは定着しているわけではなく、お名前は――こちらはクリスチャンネームらしいが――とにかく「マリア・ローザ」さんなのであった。
マリア・ローザさんに、
「沢田ひずるです」
とぼくがおじぎをすると、まだ市長もぼく自身もキャンディーズのことはなにも話していないのに、すぐ、
「あら、沢田さん、キャンディーズフリークなの?」
と聞いてきた。ぼくは、
「はい、そうです」
とこたえる。
ちなみにこれはぼくが着ていたアーノルド・パーマーのシャツからそう見破ったようである。つまり、アーノルド・パーマー=傘のマーク=雨=飴=キャンディ=キャンディーズ……よって、アーノルド・パーマー愛好者はキャンディーズのファン、という考えをマリア・ローザさんはもっているらしいのだ。
マリア・ローザさんはさらに、
「沢田さんは、キャンディーズの三人のなかで、どの子が好きなの?」
と質問してきた。ぼくは、
「スーちゃんです」
とこたえる。
「ふーん、スーが好きなんだ……ランは?」
「ランちゃんも好きですよ」
「ふーん、ランは人気あるもんね……でも沢田さん、キャンディーズのなかでは、やっぱりなんといっても、ミキちゃんがいちばんかわいいんじゃない?」
「どうですかね」
「歌はいちばん、ミキちゃんが上手でしょ?」
「歌のうまさは、みんなおなじくらいじゃないですか」
黄色いエプロンのすそをつかんで、こころもち、お目目をうるうるさせながら、
「スーともおなじくらいなんて、マリア、く、くやしい……」
とマリア・ローザさんはつぶやいていた。まるでミキちゃん本人のような悔しがりようであった。
こんなやりとりの最中、森中市長は
「ルービック直美は強い……どうしたらいいものだろうかねぇ、みんみん先生」
と弱気になったり、
「市長、最近わたしはこんな話をちょっと聞いたのですけれども……」
というみんみんくんの耳打ちに、うんうんと、うなずいたりしていた。
みんみんくんの耳打ちがおわると、今度は森中市長がみんみんくんにこそこそと耳打ちをし、それを四、五セットほどくりかえすと、ふたりはそのうち肩なども組んでいた。そんなわけで、ふたりのことはうっちゃっておく。
マリア・ローザさんに住まいについて質問されたので、ぼくは例の教会のことをざっと話す。
「あらぁ、それなのに、まだ沢田さんは洗礼を受けてないの」
マリア・ローザさんの発案で、ぼくだけはここに残って、明朝このローザ邸のお庭で、ローザさんから水の洗礼をさずかることになぜか決まってしまった。
「じゃあ、その話は、もう一回、あっちで飲みなおしながらしましょうよ、市長」
「そうしましょう、みんみん先生」
ふたりは肩をがっちり組んでいた。まだうっちゃっておくことにする。
ふたりはそんな感じなので、喪服レディさんに、
「あしたは洗礼を受けます。お昼前には、そちらにもどります。みんなにそのことを伝えておいてください」
というメールを送った。喪服レディさんは「わかりました」とすぐ返信してきてくれた。
ふたりは熱心に話し合いながら旅館にもどって行く。ふたりとも何かをたくらんでいるような顔つきになっていた。時代劇の悪い奴らみたいだった。
「明日は早いので、そろそろ寝ましょう」
マリア・ローザさんはぼくの布団も敷いてくれた。
「ん! ということは、ととととなりで、ねねね寝ることに寝ることになるわけですね」
「狭くてごめんね。いちおう屋根裏部屋もあるんだけど、その部屋は衣装とか土偶とか置いてあって、ある意味異空間なの……」




