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その十一
「そんなわけでねぇ、お嬢さん、ようやく、擬音以外の言葉を、発することができるようになった。うれしかったねぇ、いまでもよく、おぼえていますよ。ん? 最初に発した言葉? それはねぇ、『わたしはねぇ』だったんだねぇ。それでもねぇ、当時は、いくらわたしが演説をしても、だれも聞いてくれなかった。選挙カーの上で、『わたしはねぇ』とさけんでも、誰一人、見向きもしない。風船なんかをくばっている着ぐるみしか、拍手をしてくれなかった」
ジャブジャブと三人で接近していくと、先ほどから熱心に政治のお話をしていたその紳士は、このようなことをいわゆる〝お嬢さん〟に向かってぶっていた。
しかし紳士のくせして、お話の長さをまったく考慮しないものだから、ずっとお話を聴いていたお嬢さんは、いいかげんのぼせてしまったようだ。
「あれ!」
とみんみんくんがお目目を見開く。
最初は〝お嬢さん〟が喪服レディさんだったので、おどろいているのだと思ったが、そうではなかった。
「しばらくですね、市長」
「おお、みんみん先生、ひさしぶりだねぇ」
初老の紳士は森中市長だったのである。
ご存知のようにぼくは先日この森中市長と山本富士子などがパイになっている例のドンジャラをやっている。
「こんにちは」
とだから念のため、いちおうあいさつする。
「ああ、先日はどうも!」
市長は意外にも、ぼくのことをおぼえていた。
森中市長は、
「わたしはねぇ、沢田さん、この村に住んでいるある神々しいお方に用があって、はるばるここまで来ている。そして、こっちに来たときには、かならずこの旅館で一泊することにしている。わたしはねぇ、沢田さん、この方針を一度も変更したことはない! そしてこれからも、かならず、この方針を、実行していく!」
とのことだった。よくしゃべる人である。
お話をさらに聞いてみる。
「ほおほお、その神々しいお方に選挙に勝つための秘策をおしえてもらうために、村にお忍びで来てるんですね」
「あんなルービック直美なんかに市政は任せられない!」
先ほど、ぼくの家まで迎えにきてくれた側近さんは、例の教会ふうの小屋のことを市長に話していた。すると、
「そうだったんですかぁ! それでは沢田神父、わたしは、この市長選にどうすれば勝てるでしょうか?」
と市長はぼくにもアドバイスをもとめてくる。相当追い詰められているのであろう。
「いやいや、市長、ぼくはその教会でのらくらしているだけで、二階なんかは、まったく使ってないんですよ。ん? いやぁ、まあ祈るときはありますけど、でも、たまにですよ……だいたいキャンディーズと太田裕美ちゃんのことばかりですしね」
とぼくは説明する。アドバイスなんてとんでもない話である。それでも森中市長は、
「むむ! キャンディーズ――やっぱりキャンディーズだったのかぁ……」
と妙に確信した顔つきになっていた。
森中市長がおっしゃるには、なんでもその神々しいお方も、今回の選挙はキャンディーズが鍵を握るうんぬんと助言しているらしいのである。




