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ズルイ男
プープープーッと電話が切れた音だけ
耳の奥に響き続けていた。
最後の言葉、声。
顔が火照ってくるのがわかる。
熱い。
電話で聞こえた声は
耳元で囁かれているようで
会社にいるのに
仕事から強引に剥がされていく。
そっと受話器を戻すと
周りに声をかけられる前に
私はロッカールームに逃げ込んだ。
壁に寄りかかって
ズルズルと座り込む。
顔を両手で覆いながら。
逃げてきたのに
橘さんの声と香りが
私を捕まえにやってくる。
面白がってるの?
からかってるの?
今、電話で言うなんて
「わざと」に違いない。
これまでは別部署だったから
何かあってもまだ平静を保てていた。
だけど⋯⋯
これからは同じ部署にいる。
距離が全然違う。
どんな格好してるか
どんな仕事してるか
全部見られてしまう。
サシ飲み。
行きたくて誘った。
あの言い方だと「今日」?!
でも、このタイミングで行くのはどうなの?
やましいことなんかないけど
2人でいるところを誰かに見られたら。
あぁ。ズルイ。
本当にズルイ。
絶対に狙って言ったでしょ。橘さん。
だけど、そんなこと言われて
嬉しいと思っちゃった私も大分ズルイ。
単に異性だからじゃない。
橘さんは服に多分拘りがある。
だから、褒められたとき
自分のセンスが認められた気もした。




