存在が強くなる
橘さんの香りが
一層強くなるような気がした。
橘さんと私の重なった視線。
私は身動きが取れなくなって
時間が止まったのかと思うくらい
周りの音が静かに感じる。
なのに
橘さんは表情も変えず言葉もなく
スッとそらしていく。
私ばかりが彼を見ているようで
悔しくなった。
だけど
周りの女子たちが言うように
朝からあの人は眩しすぎる⋯
しっかり整えられた髪。
まだ蒸し暑いのに
佇まいが凛としていてクール。
猫背なのは相変わらずだけど
背が高いから多少姿勢が悪くても
シュッとして見える。
ダークスーツが似合っていた。
「ちょっと早いんだけど、朝礼始めてもいいかな?」
高木さんの声がオフィスに通ると
ザワザワが一瞬で静けさに変わる。
「今日は連絡1点あります。人事異動の話」
人事⋯⋯異動⋯
え??
「さっき会議室で⋯話してるの聞こえたよ」
コソッと隣から声がした。
「これから毎日見られるんだね」
は?
「橘さんが来月からこちらの部署に異動になります」
展開が急すぎて話についていけない。
え?
異動?
うちの部署に?
今日発表ってことは
金曜日飲んでた時には確定してたよね?
いつから異動の話が出ていたの?
⋯っていうか
昨日私、サシ飲み誘っちゃったよね。
個人LINEで。
ゾワッと悪寒が走る。
私、これから毎日顔を合わせる人と
何をしようとしてたの。
「⋯ついては⋯⋯引継ぎなど今調整中で⋯」
高木さんの声が頭に入らない。
また周りが静まり返っているような
感覚に陥る。
これから私、どうしたら⋯。
「じゃあ、橘さん、挨拶して」
「いや⋯みんな知ってるし」
「今更別に⋯。あとで個別にするから」
「橘、やる気ねーな」
「酒飲ましたら、喋るんじゃない?」
「うるせーよ」
橘さんの異動で
部署全体が浮き足立っている中で
私一人だけ混乱から抜け出せずにいた。




