記憶の在処
4:00
店が閉まり
私たちと同じように
一夜飲み明かした客たちが
ぞろぞろ店を出ていく。
今日も財布を出させてもらえなかった…
今度お菓子でも差し入れして
お返ししないと
高木さんにご馳走になる、が
通例になってしまいそうでーー
「それでいい」と言われても
私の気が済みそうになかった。
外はすっかり明るいけど
始発まではまだ大分時間がある。
水でも買って飲みながら
ゆっくり駅に向かうくらいで
時間的にも気分的にもちょうどいい気がした。
「私、コンビニ寄りま…」
コンビニの方を指差しながら
言葉を発しようとしたとき
「はい!深山さんは梅酒ね」
いつの間にコンビニに行っていたのだろう。
橘さんが手に袋を下げていて
中にはお酒の缶が数本入っていた。
そして、私の手に握らされる梅酒の350ml缶。
しっかり飲み口は開けられている。
「高木さんは、レモンサワー濃いめ」
500ml缶。
ハイボール500ml缶を手にした橘さん。
「はい!かんぱい!」
始発までのプチ飲み直し会が始まる。
「そういえば」
「高木さんと橘さん、キャンプ行ったの?」
前回高木さんが誘っていたのを思い出して
話題に出してみる。
「は?何それ?」
反応があったのは橘さんだった。
眉間にシワを寄せながら。
ーーあ…マズイ。
私、蒸し返してる?…これ。
ダメなやつ?だった?
だけどーー
本当に覚えていない様子…に見える。
でも
それなら
『あのこと』も忘れてるかーーー
ホッとする気持ちと
何故かチクンとする気持ちとで
胸が慌ただしい。
聞かなくてよかった。
確かめないでよかった。
心底そう思う。
だけど、
それならアレには何の意味が?
私も釣られて眉間にシワが寄ったのだろう。
「深山さん、違うの」
「潮干狩り行ったの」
「すごいたくさん採れてねー」
表情に勘違いしたのか
高木さんがフォローを入れてくれる。
ん?
『違うの………??』
何が違うの?
キャンプの話?
覚えていたの?高木さん。
この2人、わけがわからないーー
もしかしたら
記憶に穴が空くタイプなのかもしれないーー
それか
高木さんは覚えていて
橘さんは忘れる人?
だとしたら
橘さんが飲み会の話を
後日されるのを嫌う理由になるーー
もう
忘れるなら全部忘れる
覚えてるなら全部覚えてる
どちらかに振り切ってほしい…
記憶が全部残るタイプの私は
全部飲み込むしかないのかもしれない
なんて遠くを見つめながら
2人の話を頭のほんの片隅で聞いていた。




