苦し紛れに漏れた願い
「…あ、あの!橘さん」
「こないだ…」
「ん?」
私のいる左肩を少し傾けて
距離感を詰めてくれる橘さん。
今ならー
聞けるかもしれない……
騒がしい店内で
高木さんがいないこの状況ならーー
トクン…
時間がゆっくり流れる…
遠くなる物音…
なのに、私の心臓の音がうるさい。
私も自然と身体を右に傾けるから
そっと目が合う。
ドキン……
ーー
目をジーッと見つめる癖があるよね
ーー
橘さんから
数分前に指摘された私の癖。
あ、ダメだ。
目を見ちゃダメ…
感情が漏れているであろう
私の瞳。
余計に見てはいけない…
橘さんは鋭いから。
えっと…
首元を見ればいいんだっけ?
スッと下にそらしていく目線。
ドクンッ!!!
橘さんの唇が目に飛び込んできて
酔った頭も相まって
記憶が鮮明に蘇ってしまう。
あの唇が……
もっと逸らすと
グラスを持つ右手が目に入る。
あの右手が……
頭に血がのぼって
クラクラする。
私は、無意識に頭の後ろを
自分の右手で撫でてしまう。
…
そうこんな感じでーー
あの大きくて少しゴツゴツした手が…
あぁ………
もう
どこを見ても記憶が吹き出す。
助けてーーー
「ちょっとー、距離近くない!」
私と橘さんの間に
トイレから戻った高木さんが
グイッと割り込んできて
心底救われる。
ホッーー
助かった……
だけど
なんとも言えない空気感になっていたのは
わかる。
意識していたのは私だけかもしれないけど。
ドキドキ高鳴り続ける胸に
何か言わないと
どうにも耐えられなくなってーー
「橘さん、LINEお友達追加していいですか?」
それは、
私の1歩踏み込んだ
個人的に繋がりたいという願いだった。




